2002/06/26 京都部落問題研究資料センター メールマガジン vol.005

□テレビ番組レビュー□
「続・座頭市物語」
             (KBS京都、6月19日午後7時00分〜8時55分)
 「座頭市物語」に続いて、「続・座頭市物語」が放映された。機械的な言葉狩りの度合いは、前回を凌ぐものがあった。
 座頭市(勝新太郎)には、盲目になるまえにお千代という女性がいた。お千代は目がえなくなった市を見捨てて、市の兄=与四郎(若山富三郎)にはしった。怒った市が兄の片腕をたたき切り、そのまま兄弟は絶縁状態になってしまっていた。あるとき、二人が偶然出会い、市は与四郎に深手を負わす。そして、死の間際に与四郎は思わぬことを口にする。お千代は、与四郎を捨てて、どこかへ行ってしまったというのだ。「片輪になった俺をおいて、逃げちまいやがった」。与四郎は自嘲的に笑い、市がつられて笑ったとたん、事切れる。市は、自分を捨てたお千代の薄情を恨んでいたが、自分が腕を切り落としたばかりに兄もその薄情に見捨てられ、ついには兄弟争いまでして兄を殺してしまった。後悔の念が込み上げ、市は兄の亡骸にとりすがる…、という泣かせるシーンなのだが、実はここで、例によって「片輪」という音声が削除されているので、二人の悲劇が凝縮された瞬間が、「×××になった俺をおいて、逃げちまいやがった」というふうに、まったく意味不明の場面となってしまっているのだ。「メクラ」がメインテーマの映画から「メクラ」というセリフが削除されていることもさることながら、最後の落ちを削除するなど、何をか言わんや、である。
 ところで、最近、学生が面白いからといって貸してくれたビデオ「スウィング・キッズ」(1993年、アメリカ。日本語字幕版)を見て、さらにびっくりした。この映画は、ナチスが支配する1939年のドイツを舞台にした映画である。3人のスウィング(ジャズ)仲間=ピーター、トーマス、アーヴィッドがいた。はじめ、HJ(ヒトラー・ユーゲント=ナチスドイツの青少年団)に入るのをしぶっていたが、ピーターとトーマスはHJに入団する。足の悪いギタリスト=アーヴィッドは、ナチスへの協力を拒否しつづけ、3人の友情は壊れていくという筋立てだ。この映画の字幕からは、少なくとも重要な二つの単語が意識的に削除・改竄されている。ひとつは、ジプシーという語が完全に削除されていることと、もうひとつは「cripple(不具、身体障害)」という語が「落伍者」というまったく意味の違う字幕に書き換えられていることだ。ヒトラーの絶滅政策の犠牲となったのは、ユダヤ人だけではなく、ジプシーや障害者もゲルマン民族の優秀な血を汚すもとのして、迫害・絶滅の対象となったことはあまりにも有名である。したがって、映画中の「分からないのか、我々のしている事が。オーストリア人を虐殺している。次はチェコ人、ポーランド人、ジプシー、ユダヤ人…。際限がない。」とか、「ユダヤ人やジプシーを殺すのが何だ」というセリフの「ジプシー」を削除するのは、歴史の偽造というものだろう。また、HJに傾倒したトーマスが、アーヴィッドの自殺に対して「どうせcripple だ」と差別発言しているところを、「どうせ落伍者だ」などと書き換えたのでは、意味がまったくわからないセリフになってしまう(一ヶ所だけ「障害者」と訳しているところがあるが)。映画がなかなかの佳作だけに、差別語狩りによってセリフが台無しになってしまっているのは問題である。
 ついでに付け加えておくと、こうした「感情に配慮する」という理由でのセリフの改竄が行き着く先は、シーンの偽造である。伝えられるところによると、2001年にアメリカで上映された「パール・ハーバー」は日本で上映するにあた
って、日本人に反感を買いそうなシーンが削られている。そして、真珠湾攻撃に向かうゼロ戦の日本人パイロットが、アメリカの子どもたちを発見して「逃げろ」と叫ぶ場面があるが、これは日本での上映用にだけ挿入したものであるそうだ。つまり、アメリカ版では反日感情をあおり、日本で上映するときにはそれを削ったり、日本への理解を偽装しているのである。
 このように、理由は「人権」であったり、相手国への「配慮」であったりするのだが、結局は問題を正面から取り上げることを回避して、言葉を削ったりシーンを削ったりして、見る人を欺いているのである。こうしたことを野放しにしておくと、本当の意味での相互理解はますます遠ざかるのではなかろうか。(灘本)

※「パール・ハーバー」の改竄問題は以下を。
  <http://www.zakzak.co.jp/midnight/hollywood/backnumber/P/010524-P.html>
  <http://www.zakzak.co.jp/midnight/hollywood/backnumber/P/010803-P.html>
※「人権関係テレビ番組情報」は、以下をご覧ください。
  <http://www.asahi-net.or.jp/~qm8m-ndmt/tv/contents.htm>