研究内容

3. 神経細胞の発生と分化—カルマン症候群 の病因解明

カルマン症候群 (KS)とは原因遺伝子の変異によって、嗅覚障 害・消失を伴った低ゴナドト ロピン性性腺機能低下症や思春期の欠如が見られる先天性疾患である。 KSの原因遺伝子であるKAL-1遺伝子とKAL-2遺伝子は、それぞれAnosmin-1とFGF受容体 1(FGFR1)をコードしている。Anosmin-1は細胞接着分子または局所誘導分子として機能し、嗅球の軸索分岐を刺激し、細胞接着や神経突起伸長 を促進する。KAL-2は第8染色体上の遺伝子で、膜貫通型チロシンキナーゼ型受容体であるFGFR1をコードしている。FGFR1は、そのチロシンリン 酸化部位を認識するアダプタータンパクを介して細胞内シグナル伝達経路を活性化し、神経幹細胞の増殖と分化を促進する。FGFがFGFR1に結合するとき に、細胞膜上でAnosmin-1、ヘパラン硫酸プロテオグリカンと相互作用し、細胞内シグナル伝達を増強することが報告されている。

anosmin -1とFGFR1の変異が、KSの原因となるゴナドトロピン(GnRH)分 泌神経細胞の発生異常や嗅球形成異常をどのよ うに引き起こすのか、その分子機構を解 明し、カルマン症候群患者の症状の回復と改善に向けて取り組みたい。さらにこの成果を、神経回路形成の障害が原因となっているそのほかの疾患に対する治療 法に向けて役立てたいと考えている。