京都産業大学外国語学部では、英語・ドイツ語・フランス語・スペイン語・イタリア語・ロシア語・中国語・韓国語・インドネシア語を専門的に学ぶことができます。
2026年8月、アメリカのトランプ大統領は、ジャニーン・ピロ連邦検事を公然と批判した。発端は、リンカーン記念堂前の反射池(リフレクティング・プール)を損壊したとして男性が起訴された事件だった。ピロ検事は、損傷の原因は破壊行為ではなく施工不良だったとして、起訴を取り下げた。これに対して、トランプ大統領は、ピロ検事が裁判官からの圧力に屈したと非難し、こう言った。
“She folded like an umbrella.”
(彼女は傘のようにfoldした)
これはトランプ大統領独特の言葉遊びだと思われるが、foldが多義的で日本語に訳しにくい。幾つかのメディアが訳しているが、苦労している。
She foldedのfoldは「屈服する」と言うことだろう。しかし、folded like an umbrellaのfoldが問題である。傘についてfoldと言えば「折り畳む」ことだろう。つまり、傘が折り畳まれるように、いとも簡単に屈服したと言いたいのであろう。ところが「屈服する」と「折り畳まれる」の両方を意味する日本語は思いつかない。そのため、日本語に訳そうとすると、言い換えをせざるを得ない。
共同通信や朝日新聞は傘が折れるように簡単にという発想で訳している。しかし、傘が折れるのと傘が折り畳まれるのとでは、その簡単さはかなり違う。傘が折れるにはそれなりに力を加える必要がある。それに対して、傘はそもそも折り畳まれるように作られているので、それは非常に容易なのである。トランプ大統領の意図としては、傘が折りたたまれるように抵抗もなく屈服したと言うつもりだったと思われる。
ロイターは「折り畳まれる」を「しぼむ」と言い換えることによってなんとか「屈服した」の意味も持たせようとしたのだろう。しかし、「傘がしぼむ」は慣用的な言い方ではないので、分かりにくい日本語になってしまっている。
いずれにしてもトランプ大統領が意図したと思われるニュアンスは表現しきれていないと思われるが、そもそもこのfoldのダブルミーニングに対応する表現は日本語には無いと思われる。トランプ大統領独特の言葉遊びの再現は諦めて「傘が折り畳まれるようにやすやすと彼女は屈服した」とでも訳すしかないか。
©平塚徹(京都産業大学 外国語学部)
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