| 1. ミトコンドリアが関わる生命現象を native
state 構造生物学で解明する ミトコンドリアは、細胞の代謝状態に応じて内膜構造を大きく変化させます。エネルギー産生が活発なときには発達したクリステ 構造が形成され、老化や代謝低下が進むと内膜構造は再編成され、クリステが減少します。こうした構造変化は、ミトコンドリア 機能の制御と密接に関係しています。また、ミトコンドリアはエネルギー産生器官であると同時に、細胞死(アポトーシス)の起 点としても働きます。強いストレス下では、内膜に透過性遷移孔(PTP)が形成され、ATP 合成酵素などの膜タンパク質複合体が関与すると考えられていますが、その構造実体は未解明です。私たちの研究室では、ATP 合成酵素や呼吸鎖複合体といった ミトコンドリア内膜の膜タンパク質超分子を、生体膜のまま(native state)クライオ電子顕微鏡で直接解析しています。これにより、代謝、老化、ストレス、細胞死に応答したミトコンドリア機能の変化を、構造の視点から 明らかにすることを目指しています。 |
| 2. native state
構造生物学によるオルガネラ機能の解明 私たちは現在、シナプス小胞やリソソームなどの細胞内オルガネラを対象に、膜タンパク質を生体膜のまま解析する native state 構造解析を行っています。これらのオルガネラは、神経伝達や物質分解といった細胞機能の中核を担っていますが、その分子機構の多くは未解明です。クライオ 電子顕微鏡を用いて、オルガネラ膜上で実際に機能している膜タンパク質やその集合体を直接観察することで、オルガネラ機能が どのように構造として成り立っているのかを明らかにすることを目指しています。 |
| 3. 創薬につながる膜タンパク質の構造解析 私たちは、ヒト由来の膜輸送体やチャネルタンパク質を創薬ターゲットとし、クライオ電子顕微鏡を用いた構造生物学研究を行っ ています。これらの膜タンパク質は、細胞内外の物質輸送やイオン制御を担い、多くの疾患に深く関与する重要な分子です。 本研究では、膜中で機能している状態を保ったままタンパク質の立体構造を明らかにすることで、薬剤結合部位や作用機構を分子レベルで理解することを目指し ています。得られた構造情報を基盤として、より選択性が高く副作用の少ない医薬品開発につながる知見を創出します。 4. 機能中の膜タンパク質の姿を捉える動的構造解析 膜タンパク質は、生体膜中で膜電位やプロトン駆動力のもとで機能しています。しかし、界面活性剤を
用いた従来の構造生物学では、実際に機能している状態の構造を捉えることはできません。
そこで私たちは、膜タンパク質を生体膜を模倣した脂質二重膜小胞(リポソーム)に再構成し、膜電位やプロトン駆動力を付
加した状態で構造解析を行っています。実際に、ATP 合成酵素をリポソームに組み込み、ATP
合成中の構造を捉えることに成功しました(Science Advances,
2025)。現在、この手法を他の膜タンパク質へと展開し、これまで見ることのできなかった**「機能中の膜タンパク質の姿」**を明らかにする研究を進
めています。
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