芦屋川セカンド・カレッジ

海のアジア史と日本列島−共存の21世紀をめざして−

近 世 大 坂 の 国 際 性

−「鎖国」時代の経済・文化交流−


2003年2月17日 10:00〜11:30 芦屋市民センター401室
講師:京都産業大学文化学部助教授 若松正志



1 はじめに

 (1)自己紹介:若松正志(わかまつ・まさし)。1963金沢→1982仙台(東北大学・大学    院・助手)→1993京都(京都産業大学。講師→助教授)。専門は日本近世史(特    に江戸時代の長崎)。趣味はコンピュータと音楽(ギター)。なお、詳細は、    のHP(http://www.kyoto-su.ac.jp/~wakamatu/index-oj.htm)を見て下さい。  (2)今日の話のポイント   ・みなさんにとって近世大坂のイメージは?   ・近世大坂の歴史概観    戦国時代(石山本願寺)→秀吉の時代(1583大坂城。堺との関係)    →江戸時代(天下の台所・産業都市・学問の都市)     関連HP:大坂城(大阪市・大阪観光協会)

2 近世大坂の経済発展と「鎖国」

 (1)国内中央市場としての大坂の展開米市場の展開−米市場を中心に−(藤田他)   ○近世初期:大坂廻米はそれなりにあったが、兵糧米的性格が強く、藩にとっての     ウエイトも小さい(他の近隣市場。北国米−敦賀・小浜、琵琶湖→大津・京都     で売却)。   ○17世紀中後期:諸藩が大坂に蔵屋敷を設置し、大坂廻米が恒常化。西廻海運<河     村瑞賢>。初期豪商→新興商人(鴻池・泉屋<住友>)、国問屋の分化、荷受     問屋→仕入問屋。背景に、豊臣氏の大坂→徳川氏の大坂、「鎖国」による外国     市場の喪失。堺の衰退。   ○18世紀中期=田沼時代。大坂重視の経済政策。   ○19世紀中期:大坂市場の衰退。背景に江戸・地方市場の発展。  (2)長崎貿易と大坂(若松@)   ○長崎貿易の概要と大坂    ・貿易品の時期的変化           | 輸入品  | 輸出品 | 課   題      近世前期 |生糸・絹織物|金・銀・銅|輸入品の確保      近世中後期|薬種・砂糖 |銅・海産物|金銀の流失抑制→輸入品の国産           |      |     | 化・輸出品の確保    ・貿易の仕組み:バーター貿易(物々交換)。近世中後期は、年間貿易額が縮      減されるが、輸入・輸出双方の価格を低くして、多くの品物を交換。輸出      品の低価格での調達も重要な課題。長崎会所が利潤の大部分を獲得。    ・長崎本商人(五か所商人)   ○糸割符制度(中田):近世前期の最も主要な輸入品である生糸を一括購入。成     立期は堺・京都・長崎の有力町人で運営。大坂は寛永中期に江戸とともに加     わるが、ウエイトは低かった(堺120、京都・長崎100、江戸50→100、大坂     30→50)。近世中期に生糸の国産化が進むと、その重要性は低下。   ○朱印船貿易(岩生):将軍から異国渡海朱印状をもらい東南アジア方面へ出船、     商品を購入し、国内で売却。利益大・危険あり。朱印船貿易家の出身地を見     ると、大坂は末吉孫左衛門など8人で3位(1位は14人の長崎、2位は9人     の京都、4位は7人の堺)。「鎖国」で渡海不可。   ○外国人(ケンペル・シーボルト)の見た大坂(作道):資料    ○銅産業(今井典、永積、鈴木、若松A、大阪市文化財協会):資料 ・図     謚T要:流通構造(図1、大坂は銅精錬業者の集住地。銅座の設置)。生産の      ピークは元禄期。低価格で輸出−集荷不調。    ・国際市場における日本銅の重要性:インドさらにはヨーロッパへ。アダム・      スミスの『国富論』にも登場)。    ・明和銅座:勘定奉行・長崎奉行の支配下で長崎会所役人・大坂町奉行・銅吹      屋・銀座が協力。輸出品(銅・海産物)調達の資金を融通(資金源は長崎      会所の利潤)。    ・住友長堀銅吹所保存運動   ○薬種業について(今井修、宮下、中村):図 、資料     ・薬種仲間の形成:享保7(1722)年の和薬改会所設立を契機に仲間形成。    ・荷受問屋(唐薬問屋・和薬問屋)と仕入問屋(道修町中買仲間)の重層構造。    ・利潤の状況:長崎会所が利潤の大半を獲得。中買仲間の利潤も有(今井修平      氏のご教示)→加工料・需要・相場との関係か。    ・流通上の問題:大坂が軸。18世紀後期以降、大坂の求心力が徐々に低下。不      正流通の状況()。享和3(1803)年に長崎→京都・堺も認可   ○長崎貿易関係の流通業者について(山脇)    ・初期:糸荷廻船(堺) → 中後期:糸荷宰領(大坂) ・利潤は運賃   ○大坂は「鎖国」日本の流通・金融センター。しかし貿易関連商人の利益は少ない。

3 大坂の文化と学問

  ○元禄文化   ○大坂の学問:懐徳堂、適塾   ○木村蒹葭堂

4 おわりに

  ○近世大坂の国際性    ・「鎖国」によって大坂経済は発展した。    ・長崎貿易における大坂の位置(流通・金融センター、商人の利益は小)    ・大坂における西洋学問の受容と展開   ○戦争の20世紀から共存の21世紀へ    ・愛国心と国際協調の精神(教科書問題)    ・政治・経済的対立と文化的対立(イラク問題など)    ・まずは、身近な異文化を考えよう。

参考文献

・石田千尋「近世における毛織物輸入について」(『日蘭学会会誌』19-2、1995) ・今井修平「江戸中期における唐薬種の流通構造―幕藩制的流通構造の典型として―」   (『日本史研究』169、1976) ・今井典子「近世大坂の銅精錬と銅貿易」(『適塾』26、1993) ・岩生成一『新版 朱印船貿易史の研究』(吉川弘文館、1985) ・大阪市文化財協会編『住友銅吹所跡発掘調査報告』(同、1998) ・作道洋太郎『阪神地域経済史の研究』(御茶の水書房、1998) ・鈴木康子「近世銅貿易の数量的考察−オランダ東インド会社の日本銅輸出−」   (『中央大学大学院研究年報』15-IV文学研究科篇、1986) ・中田易直『近世対外関係史の研究』(吉川弘文館、1984) ・永積洋子「大坂銅座」(地方史研究協議会編『日本産業史大系』6<近畿地方篇>   東京大学出版会、1960) ・中村質『近世長崎貿易史の研究』(吉川弘文館、1988) ・藤田貞一郎・宮本又郎・長谷川彰『日本商業史』(有斐閣新書、1978) ・宮下三郎『長崎貿易と大坂』(清文堂、1997) ・宮本又次『宮本又次著作集』全10巻(講談社、1977・1978) ・山脇悌二郎『近世日中貿易史の研究』(吉川弘文館、1960) ・若松正志@「鎖国制下の長崎貿易と大坂」(『ヒストリア』162、1998) ・若松正志A「近世中後期の長崎銅貿易と国内産業−古銅の問題を中心に−」   (片桐一男『日蘭交流史 その人・物・情報−』思文閣出版、2002) ・脇田修『近世大坂の経済と文化』(人文書院、1994)

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