私学事業団、厚生省への要請報告
外国人年金を考える会

1.要請の趣旨と目的

 日本の公的年金は、国籍を問わず日本国内に住所を有しているすべての人が加入 し、受給資格要件に応じて、障害年金や遺族年金、老齢年金が給付される仕組みと なっています。しかし、退職・老齢による給付は、受給資格が原則として25年(1956 年以降生まれの人。1952年以前に生まれた人は20年。)以上の加入期間が必要なた め、一般に居住期間の短い外国人の場合は、掛金を納付してもそれが給付に結びつか ないという問題があります。  1995年に脱退一時金の制度が改正されましたが、その金額は最高で、平均標準給与 月額×3.0にすぎません。私立大学に専任教職員として勤務する外国人の場合、5年な いしは10年、またはそれ以上勤務する場合が多く、脱退一時金は掛金に比べて非常に 低額という問題もあります。  私たち外国人年金を考える会と京滋私大教連は、1998年7月22日、このような状況 を是正し、外国人教職員が安心して日本の教育・研究機関で働くことのできるよう に、外国人教職員が支払った年金の掛金が正当に評価され、かつ見返りのあるよう に、年金制度を合理的で公正なものに改善するよう、私学事業団と厚生省に要請しま した。

2.年金制度の問題点と私たちの主張

 私たちは、私学事業団および厚生省において、下記の年金制度の問題点を指摘し、 改善を求めました。

(1)脱退一時金の問題

  1. 1986年以降年金制度の加入した人は、帰国などにより日本を離れる場合、脱退一時 金を受けることができます。金額は、加入期間に応じて、その期間中の平均標準給与 に下記の率を乗じた額となります。

    加入期間 
    6月以上〜12月未満  0.5
    12月以上〜18月未満 1.0
    18月以上〜24月未満 1.5
    24月以上〜30月未満 2.0
    30月以上〜36月未満 2.5
    36月以上〜  3.0

     つまり、3年以上加入した場合、例え10年勤務しても脱退一時金は平均標準給与月 額×3.0にすぎず、長期に日本に滞在している私立大学等の外国人教職員にとって、 外国人教職員が納めた掛金に相応する一時金を受け取ることができないということで す。  例えば、R大学 J助教授の場合、1990年9月に私学共済に加入し、加入期間は7年9 カ月になりますが、この間本人が納めた掛金が306万4194円、大学が納めた掛金が374 万5126円で、総額680万9320円です。J教授が大学を退職して帰国し、脱退一時金を請 求した場合、平均標準給与月額531,613円に3.0を乗じた159万4800円の金額しか受け 取れません。

  2. 厚生省での説明によると、総務庁が行っている「外国人の就労に関する実態調査」 では、90%以上の外国人が3年以内に帰国しているので、3年までの加入期間に応じた 脱退一時金の制度になったということです。しかし、私立大学等に勤務する外国人教 職員の場合5年、10年と長期に日本に滞在することが少なくありません。私たちがweb 上で行っているアンケートによると、既に6年以上日本に滞在している外国人教職員 が85%、11年以上でも55%になります。

  3. しかも1995年に改正された脱退一時金は、年金制度に長期に加入している者に特に 不利になります。脱退一時金の算定基礎である平均標準給与は、加入期間中の標準給 与の平均額であるため、長期に勤めた外国人教職員の脱退一時金は、若い頃の低い給 与額も含めて平均されるので、短期間勤めた者の脱退一時金よりも低額となります。

    例
      給料    給料
    H.9 310,000  H 9  310,000
    H.8 290,000  H 8  290,000
    H.7 270,000  H.7  270,000
    H 6 250,000         平均   290,000  x 3 =  870,000円 掛金の100%程度
    H.5 230,000
    H.4 210,000
      平均 260,000  x 3 =  780,000円   掛金の60%程度
    
  4. 外国人が帰国した場合、出国後2年以内に脱退一時金を請求しなければ、一時金を 受ける権利を喪失します。また、脱退一時金を受給した場合、再度日本で就職した場 合、新規に年金制度に加入することになります。帰国した外国人が、数年後に再び来 日する可能性があったとしても、わずか2年の間に重大な決定を強いられることにな ります。  私たちは、年金関連の時効はすべて5年であるのに、脱退一時金だけ2年であるのは おかしい、重大な決断を下すには期間が短すぎると主張しましたが、厚生省の説明で は、一時金関連の時効はすべて2年なのでそれを踏襲したということでした。

(2)年金受給資格を得るまで加入期間の問題

  1. 退職・老齢による年金給付は、受給資格が原則として25年(1956年以降生まれの 人。1952年以前に生まれた人は20年。)以上の加入期間が必要なため、一般に居住期 間の短い外国人の場合は、掛金を納付してもそれが給付に結びつかないという問題が あります。この25年という期間は、ドイツだと5年で受給資格が得られ、ILO勧告でも 10年となっている状況から考えると異常に長い期間と言えます。

  2. 日本人の場合、日本で年金制度に10年間加入した後、海外で働くようになっても、 継続的に掛金を払いつづけることができますが、外国人にはそのような配慮はなされ ていません。

  3. 日本人の場合、日本で年金制度に10年間加入した後、海外で働くようになっても、 海外での期間は「カラ期間」として年金受給に必要な加入年数に算入され、退職後日 本に帰国すると部分年金を受給できますが、外国人にはそのような制度はありませ ん。  ただし、外国人の場合、日本の永住権を取得すれば、1982年以降の20歳から日本に 居住するまでの期間は「カラ期間」として年金受給に必要な加入年数に算入されま す。

  4. 日本人が失業した場合、再度就職したら必要な25年の加入期間に加算できますが、 外国人の場合、失業によってビサが切れたら帰国させられます。

3.その他

  1. 私学事業団からは、1995年の脱退一時金の改正で、それ以前に比べて外国人の 問題は多少は前進してきている、不公正、不均衡については是正する方向で改正され てきていることを是非理解して欲しい、という説明がありました。

  2. 先にも述べたように、脱退一時金で3年までの加入期間に応じた一時金を給付し ているのは、多くの外国人が3年以内に帰国するという統計に基づいています。私立 大学等で働く外国人教職員の実状をもっと多くの人に理解していただく必要がありま す。

  3. 現在、政府・厚生省は、年金制度の改正についての議論を行っています。次期 の改正で、この問題の改善が図られるよう、要請を強めていく必要があります。