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        2008 Tort Law (+Damages, Restitution)  損害賠償法
  
Purpose

 損害賠償責任(および不当利得)の要件と効果について、基本的な理解を修得するとともに、具体的事例における要件の当てはめ、それに基づく効果(損害賠償責任の成否、 損害賠償額の算定など)を導く能力を身につける

Summary

 
 本講義は、民法上の損害賠償責任(および不当利得、事務管理)を対象とする。不法行為責任が中心となるが、債務不履行にもとづく損害賠償責任も含まれる。損害賠償は、損害を金銭的に填補することによって権利の回復をはかる制度であり、その実務的意義はきわめて大きい。とくに不法行為責任は、加害者の不法行為によって被害者が損害を受けたという関係が認められれば、当然に成立するため、適用を想定できない事例はまれであり、訴訟で主張される割合も高い。また債務不履行にもとづく損害賠償責任は、不法行為責任と競合して成立することがあるほか、損害賠償の範囲や効果において不法行為の場合と共通ないし類似するところが少なくない。本講義では、両責任をあわせてとりあげ、損害賠償責任の要件と効果について、効率的に理解できるようにする。
 また本講義では、不当利得と事務管理もとりあげる。どちらも不法行為と同様に法定債権関係の一つであり、受益者が他人の損失において利得したという関係、義務なくして他人の事務を管理したという関係が認められれば、法律上、当然に成立する。実務上、主要な争点となることは多くないものの、事例を最終的に解決する段階で関わってくることの多い制度である。

Plan

 本講義は、大きく3部に分かれる。第1部では、一般的不法行為の要件と効果、特殊不法行為、特別法上の不法行為について、基本事項と主要論点を理解する(第110)。損害賠償は多様な事例類型において問題となるため、そうした類型が各回を通じて数多く現れるように配慮する。第2部では、不法行為の理解を前提に(かつ契約法の一定の理解をふまえて)、債務不履行の要件と、その効果の1つである損害賠償責任について理解する(第1112)。第3部では、不当利得について、給付利得の要件と効果、侵害利得の要件と効果、および多数当事者の不当利得の順に、そして最後に事務管理について理解する(第1314)

第1回 損害賠償法序説
 損害賠償責任の要件および効果の全体を簡単に概観し、次回以降のための見取図とする。また学習の方向を見誤らないよう、損害賠償責任の目的(損害填補など)、損害賠償の責任原理(過失責任、無過失責任など)について理解する。不法行為責任の民法上の位置づけ、法体系上の位置づけ(特別法上の不法行為責任、刑事責任との関係、他の被害者救済の制度との関係)についても同様にとりあげる。

第2回 権利侵害・違法性
 第2〜6回では、一般的不法行為(民法709条)の要件および効果について検討する。まず709条の要件と立証責任を簡単に確認する。次に、主要な権利ないし法益ごとに、どのような行為が権利侵害となるかを整理し、それぞれの判断枠組みを理解する。権利侵害との関係で、違法性の概念の導入と内容めぐって議論があることも確認する。

第3回 故意・過失
 まず故意について重要な点を理解する。次に、代表的な立場にしたがい、過失の内容(結果の予見と回避についての注意義務違反)、過失の水準(通常人を基準とする抽象的過失)、過失の判断枠組み(結果発生の蓋然性、被侵害利益の重大さ、結果回避コストの衡量)について理解する。まだ安定的な理論がないことや、違法性との関係につき議論があることも確認する。

第4回 因果関係
 相当因果関係の概念の多義性を確認したうえで、いわゆる事実的因果関係、および損害賠償の範囲について理解する。前者については、立証すべき事実的因果関係の内容、立証の程度、立証の困難性とそれを軽減する方法について検討する。後者に関しては、とくに範囲的因果関係の基準としての相当因果関係、およびその具体的な適用例について検討する。

第5回 損害、損害額の算定、損害賠償請求の主体
 損害の概念と損害の種類(財産的損害と精神的損害、積極損害と消極損害)を理解したうえで、人身損害の事例における損害額の算定方法(とくに逸失利益と慰謝料)について検討する。また損害賠償請求の主体(とくに生命侵害の場合)についてもとりあげる。

第6回 損害賠償額の調整、損害賠償請求権、差止請求権
 過失相殺および関連法理(被害者側の過失、被害者の素因)による賠償額の減額、損益相殺(とくに保険給付や社会保障給付にともなう重複填補)による賠償額の調整、損害賠償請求権の消滅時効について理解する。またそれらと同様に加害者に有利にはたらく事由として責任無能力、違法性阻却事由をとりあげる。さらに差止請求権の要件についてもやや詳しく検討する。

第7回 使用者責任
 特殊不法行為の種類と特徴を確認したうえで、まず使用者責任(民法715条)の要件(とくに事業執行性と外形標準説)と効果について理解するまた隣接制度として、公務員の責任(国家賠償法1条)、法人の理事の責任(一般社団・財団法人法78条、民法旧44)、法人の不法行為について検討する。

第8回 監督者責任、工作物責任
 まず監督者責任(民法714条)の要件と効果について理解し、民法709条上の監督義務に基づく責任と比較する。また工作物責任(民法717条)の要件(とくに土地工作物、設置・保存の瑕疵)と効果について理解し、その特別法に当たる営造物責任(国家賠償法2条)と簡単に比較する。

第9回 共同不法行為
 共同不法行為(民法719条)のうち、代表的な立場にいう狭義の共同不法行為の要件と効果を中心に理解する。とくに主観的共同と客観的共同の要件については公害の事例を手がかりとし、複数加害者間の責任負担と求償の問題については交通事故と医療過誤の競合事例を手がかりとする。また他の形態の原因競合(とくに自然力との競合)についてもとりあげる。

10回 特別法上の不法行為責任
 主要な特別法として、自動車損害賠償保障法と製造物責任法をとりあげる。自賠法については運行供用者責任のほかに、自賠責保険、政府の自動車損害賠償保障事業を加えた被害者救済制度の枠組みも理解する。製造物責任法については、欠陥、製造物、製造業者等などの独自の要件を中心に検討する。

11回 債務不履行にもとづく損害賠償責任(その1)
 一般不法行為の理解、および並行受講中の「契約法」の一部を前提として、債務不履行の成立要件について理解する。主として、債務不履行の種類(履行遅滞、履行不能、不完全履行)、帰責事由、損害賠償の範囲(通常損害・特別損害)について検討し、また債務不履行の要件事実も確認する。

12回 債務不履行にもとづく損害賠償責任(その2)
 まず債務不履行に関する、履行補助者、損害賠償額の予定と違約金、損害賠償者の代位、損害賠償請求権の消滅時効の問題をとりあげる。そして、不法行為責任と債務不履行責任が競合する請求権競合のケースを検討しながら、両責任の要件・効果・立証責任について比較する。

13回 不当利得の類型、給付利得
 不法行為の理解、および並行受講中の「契約法」「物権法」の一部を前提として、不当利得について理解する。まず最近の通説といえる不当利得の類型論の考え方および特徴を確認する。そのうえで給付利得類型の要件とそれが成立する具体例を整理し、また給付利得の効果である不当利得返還義務について、返還関係の特徴、返還義務の範囲、返還義務に関する特則をとりあげる。

14回 侵害利得、多数当事者の不当利得、事務管理
 侵害利得類型の要件とそれが成立する具体例を整理し、また侵害利得の効果である不当利得返還義務について、返還義務の範囲、返還義務に関する特則をとりあげる。さらに三当事者以上が関与する不当利得について、その問題の複雑性および具体例を確認したうえ、基本的な考え方、および代表的なケースの解決の仕方について検討する。そして、事務管理の基本的な要件と効果を、委任契約(いわば契約にもとづく事務の管理の場合)と比較しながら整理する。




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