Lecture & Seminar      Law School

        2009 Financial Law  金融取引法
  
Purpose

 債権債務の効力・流通・実現・担保に関する制度の基礎知識を身につけること(法的知識の獲得)が、主たる目標である。また、常に具体的な事案を念頭において授業を進めることにより、当該制度を用いた事案の解決(問題解決能力)、契約書や登記簿などを含めた事実関係の整理(事実認定能力)、および、基礎知識を前提にしたより高度な論点に対する問題意識と議論(創造的・批判的検討能力)も、従たる目標とする。さらに、金融取引・担保に関する基本制度が、いかに深く実務に関わりいかに深く人々の経済活動の基盤になっているかを認識することによって、それを扱う法律家の使命・責任の重さも自覚できるはずである(法曹としての使命・責任の自覚)。

Summary


 この講義は、債権債務の効力・流通・実現・担保を主たる対象とする。民法の領域としては、債権総論の多く、および担保物権のすべてが該当する(これに、民法総則の消滅時効が加わる)。債権の代表例である金銭債権を念頭においていえば、まさに金融取引・担保に関する基本制度を扱うことになる。現実の金融取引は、そうした制度の具体的利用ないし裏づけなしには成り立たないという点で、実務上極めて重要な領域である。また、民法の財産法のなかでも、債権総論は抽象度の高い議論を必要とする部分があり、担保物権は人為的に設計された技術的性格の強い部分があり、またそれぞれ複数の制度の関連・交錯に配慮しなければならないという点で、理解の難しい領域である。この講義の目的は、そうした債権債務の効力・流通・実現・担保に関する基本理解を獲得し、2年次以降の発展的学習の基礎を身につけることにある。

Plan


第1回 金融取引法概説
 この講義の対象領域を概観し、ガイダンスとする。とくに、債権(金銭債権)がどのように実現されるかについて、任意に弁済される場合、強制執行によって実現される場合、担保権の実行によって実現される場合を比較する。関連の深い民事執行法の基礎にも言及することになる。

第2回〜第4回 債権の消滅原因:弁済
 債権の大多数は、債務者の任意の弁済によって実現されて消滅する。この弁済の要件に関しては、いつ(履行期)、どこで(履行地)、誰が(弁済者)、誰に(受領権限者)、何を(債務の本旨に従った給付)を給付すればよいかを理解する必要があり、これに関連して、第三者弁済、準占有者への弁済などが問題となる。また、弁済の効果、弁済の充当についても検討する。

第5回 債権の消滅原因:弁済の隣接制度
 債務者が弁済にとりかかり債権者が受領するまでの過程には、弁済の提供、受領遅滞、弁済供託という複数の制度が密接に関連して存在する。弁済が完了しない場合に、債務者や債権者がどのような責任を負うかは、それらの制度(および履行遅滞)に左右される。そうした関連を意識しつつ検討する。

第6回、第7回 債権の消滅原因:弁済以外の債権の任意的実現、消滅時効
 債権が任意に実現される方法として、代物弁済、相殺、更改、免除、混同を検討する。また、債権のその他の消滅原因として消滅時効、除斥期間があり、これらも合わせて検討する。消滅時効に関しては、各債権の時効期間のほか、時効の中断、時効の援用が重要である。

第8回 強制履行
 債権が強制的に実現される方法として、強制履行を検討する。直接強制、代替執行、間接強制という3種類の方法の要件のみならず、民事執行法による手続も理解しておきたい。

第9回 金銭消費貸借
 金銭消費貸借にもとづく貸金債権は、金銭債権の代表例である。消費貸借は、要物・無償・片務契約という特殊な類型であり、この点に伴う要件・効果上の問題を検討する。また、貸金債権の利息に関する特別法、および最近の最高裁判決の動向も重要である。

第10回〜第12回 債権譲渡
 債権譲渡は、現代の取引において重要性を増しているが、制度全体も判例や特別法なども合わせて複雑さを増している。とくに、譲渡禁止特約とそれに違反した債権譲渡の効力、債務者に対する対抗要件、第三債務者に対する対抗要件、異議を留めない承諾、債権譲渡特例法による対抗要件などについて、正確な理解をすることは不可欠である。

第13回〜第15回 債権者代位権、債権者取消権
 債権の保全的効力として債権者代位権と債権者取消権が存在し、それぞれ実務上の意義も大きい重要な制度である。債権者代位権は、本来型について債権執行との相違に注意しながら、要件、効果、転用事例などを検討する。詐害行為取消権については、破産法上の否認権との相違にも留意しながら、法的性質、要件、効果などを検討する。

第16回 相殺
 相殺は、簡便な決済機能としてだけでなく、現在では担保的機能が重要になっている。相殺一般の要件、効果を理解することはもちろん、相殺予約、相殺と差押え、債権譲渡と差押えの問題を通じて、相殺の担保的機能がどのように実現されるか、どのような制限があるかを検討する。

第17回〜第19回 保証、多数当事者の債権関係
 債権の人的担保の代表例は保証であり、実務的な需要はいまなお衰えていない。保証の成立要件、付従性・補充性・随伴性などの性質をもつ保証債務の内容、また、保証人が債権者に弁済した場合の保証人の求償権について検討する。また、人的担保として機能しうる債務引受や連帯債務、および、その他の多数当事者の債権関係である連帯債務、分割債務、不可分債務についても、比較検討する。

第20回〜第23回 抵当権
 債権の物的担保・担保物権の代表例は抵当権であり、極めて広範囲で利用されているが、理解すべき点も多数にのぼる。抵当権の成立要件、対抗要件としての抵当権設定登記、抵当権の効力が及ぶ被担保債権の範囲と目的物の範囲など、基本的事項は確実に理解する必要があり、また、抵当権と目的物の賃借人の関係、譲受人との関係、侵害者との関係も重要である。さらに、物上代位、担保不動産競売、担保不動産執行は、抵当権によって債権が回収される実行局面に関するものであるり、共同抵当についても実行時に複雑な問題がある。このほか、法定地上権、根抵当権、および、根抵当権と同じく不特定の債務を担保するための根保証についても検討する。

第24回〜第25回 担保・求償・代位
 第三者(担保していた保証人や物上保証人が代表である)が債権者に弁済した場合、被担保債権自体は消滅するが、第三者は債務者に対し求償権を取得する。その求償権を担保するために、弁済による代位が存在するが、その制度としての仕組みの理解は容易ではなく、またその効果についても理解において注意すべき点が多い。

第26回 質権、留置権、先取特権
 抵当権以外の約定担保物権として、質権、また、法定担保物権として、留置権、先取特権がある。実務的意義は必ずしも大きくないが、それぞれ一定の場面では重要な役割を果たしている。それぞれの意義、要件、対抗要件、効力などについて検討する。

第27回〜第30回 不動産担保、動産担保、債権担保
 非典型担保を中心に、不動産を目的物とする不動産担保、動産を目的物とする動産担保、債権を目的とする債権担保という観点から検討する。不動産担保としては、詳細な特別法のある仮登記担保、動産担保としては、動産譲渡担保、所有権留保、および動産売買先取特権、債権担保としては、債権質、債権譲渡担保を挙げることができる。とくに、非典型担保のうち、譲渡担保、所有権留保、債権譲渡担保については明敏の規定はなく、その規律は判例・学説を中心とする法理に委ねられているため、その理論的理解には注意する必要がある。




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