2004/2/12 ■■■■ 京都部落問題研究資料センター メールマガジン vol.045 ■■■■

□DVD紹介□
     「ドゥ・ザ・ライト・シング」(監督:スパイク・リー)
        発売元:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント、1,500円

 アメリカの人種問題をとりあげた映画の名作に「ドゥ・ザ・ライト・シング」 がある。このメールマガジン21号(2003年2月12日)でも少し触れたが、ちまた に溢れている啓発映画とはまったく次元を異にしており、「被差別者の正義」 神話の虚構性を暴いて余すところがない。
 この映画は、すでにビデオでは出回っており、またずいぶん以前にDVD化 されたことがあるが、品切れになって久しく、また今回は1,500円という格安で の復活なので、たいへんうれしいことだ。今年の人権業界10大ニュースに入れた い。
 映画自体には、波乱万丈のダイナミックなストーリーがあるわけではなく、 ニューヨーク・ブルックリン地区での夏の暑い1日を描いたものだ(厳密には 1日と翌朝の2日間)。出てくるのは、黒人スラムでピザ屋を営むイタリア系 の親子。そのピザ屋の壁にイタリア系スターの写真ばかりを張っているのはけ しからんと抗議する偏執的な黒人ラッパー=バギンアウト。スパイク・リー演 じる自堕落なピザ屋のフリーター=ムーキー。アル中で地域の黒人青年に馬鹿 にされながら生活する「市長」。その「市長」が別れた亭主に似ているので窓 から罵ってばかりのマザーシスター。ピザ屋の向かいで雑貨屋を営む英語の下 手な韓国人夫婦。韓国人雑貨屋の繁盛を羨望の目で見ながら、自分たちの生活 との違いを人種差別で説明できるかを議論する黒人の老人たち。巨大なラジカ セにヒップホップミュージックを響かせてかっこいいと思っている勘違いのお 兄さん=ラジオラヒーム。そうした人びとが、喧嘩しながらも仲良く暮らして いるのだが、ちょっとしたいさかいがとんでもない事件に発展する。  くわしいことは見てのお楽しみだが、そうした黒人スラムの日常を、差別す る悪玉対差別される善玉という、どの国でもありがちなステレオタイプに寄り かからず、むしろそうした観点を批判して物語が展開していく。白人監督が同 じ作品を作ったら、たぶん「人種差別主義!」のレッテルを貼られて、ごうご うたる非難を浴びそうな際どい、しかし問題を深くえぐった稀有の作品である。  また、このDVDでうれしいのは、おまけの特典映像に、差別論的にはたい へん興味深い関係者のインタビューや逸話が満載されていることである。たと えば、スパイク・リー監督が、映画に真実味を与えるために、現実のスラムで のロケを敢行するところ。黒人スタッフがみんなを集めて注意する。「ここは 昔のアトランタのように住民が撮影を温かく見守る雰囲気はない。39日間常に 危険と隣り合わせだ。警戒を怠らないように。」そして、映画のロケに関連し た雑用の仕事を得ようと群がってくるスラムの住人。若い女の人がアルバイト に雇われながら、麻薬を使ったことがばれて解雇されるところなどが、実写で 紹介される。また、バギンアウト役のジャンカルロ・エスポジトは、自分の過 去の体験を語る。彼は、見た目には普通の黒人なのだが、イタリア人の父親と 黒人の母親の間に生まれたので、小さいとき、黒人からは仲間はずれにされ、 白人にも受け入れられず、友だちはみなユダヤ人だったという。「のけ者同士 さ…」というわけだ。
 このような監督や俳優たちの渾身の全力投球があっての作品であることがあ らためてわかる。「解決するためには問題に気づかなきゃいけない」。しかし 「映画を通じては答えられない問題に答えを出すのは媒体の乱用だ」というの は、スパイク・リーの言である。世間に出まわっている啓発映画は、問題を掘 り下げないまま、解決方法や結論を押し付ける。そこの違いが、本作品との違 いである。
 これを見ずして差別問題映画は語れない。2004年3月31日までの期間限定出 荷につき、買いそびれることなかれ!。(灘本昌久)

※ DVD「ドゥ・ザ・ライト・シング」
   <http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B00012T0OO/>
※ 「ドゥ・ザ・ライト・シング」のあらすじ goo映画
   <http://movie.goo.ne.jp/movies/PMVWKPD6437/story.html>
※ 評論家大場正明氏による紹介
   <http://c-cross.cside2.com/html/a10to001.htm>
※ 「ドゥ・ザ・ライト・シング」の映画パンフレットが欲しい人は
   <http://www.tanabeshoten.co.jp/movieresult/2503/>
※ 灘本昌久「人権啓発映画はなぜ面白くないか」
   <http://www.kyoto-su.ac.jp/~nadamoto/work/20010530.htm>

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