2003/12/10 ■■■■ 京都部落問題研究資料センター メールマガジン vol.041 ■■■■

□部落解放運動情報□

   部落解放同盟中央本部〔見解〕
     「古地図・古絵図刊行および展示に対する基本的考え方について」
(『解放新聞』2003年11月10日号)

 去る10月20日、部落解放同盟中央本部は、「穢多村」などの表記を含んでいる 古地図の刊行・展示に対する声明を発表した。この声明は、差別と表現をめぐる 解放運動の態度表明としては画期的なものなのであり、1975年に発表された中央 本部見解「差別語についてのわれわれの見解」と同等、あるいはそれ以上に重要 な文章となるだろう。
 それほど長くない文章なので、ぜひ原文にあたられたいが、次のように自己批 判がなされている。従来の運動は穢多村記載のある「古地図・古絵図の展示およ び販売自体が差別を拡大再生産するものであるとして、結果として販売中止ない しは回収措置を求めていたのである。…これ以降、古地図・古絵図の所蔵機関が 史料の存在自体を隠したり、問題箇所を抹消するなどの事態も一方で起きるよう になった。このことについては、事の本質についての論議がないままの『当面の 措置』ということでしかなかったのだが、そのことにより生み出された結果につ いて、わが同盟はいま率直に総括し、反省しなければならないと考えている。… 1960年代の『販売中止要求』『回収要求』などの明らかに誤った取り組みの総括、 反省を踏まえ、『差別される可能性という幻影の前に縮こまっているよりは、み ずから打って出て反差別の可能性を広げ深めていこう』という基本的な考え方を 再度確認し、今後の課題について取り組んでいきたい。」  極めて率直に、過去の運動の問題を自己批判している。短い文章なので、問題 点を深く掘り下げて全面的に総括しているとはいえないが、ここまで、非を認め て率直に語っていることに敬意を表すると同時に、今後の取り組みの方向性を明 快に打ち出しているものとして歓迎したい。  この解放同盟の声明発表にいたるには、2001年度に大阪人権博物館で行なわれ た展示「絵図に描かれた被差別民」があると思うが、そうした作業にあたられた 方々の尽力にも敬意を表しておきたい。ただ、この展示の図録である『絵図に描 かれた被差別民』(大阪人権博物館、2001年)に付された「絵図の展示公開とそ の意義」は、問題のある解説だ。この論文では、「部落解放運動は、絵図に対し て慎重な取り扱いと協議を求めてはいるものの、隠蔽することには反対で、むし ろ十分な解説を付して公開するほうが望ましいという見解をもってきた」(94ペ ージ)と指摘して、あたかも絵図の所蔵者や展示の主催者が悪かったような書き 方になっているが、これは「ひいきの引き倒し」というものであろう。実際には、 解放同盟の声明文にもあるように、「穢多村」記載のあるだけで、絵図の販売や 展示に反対してきたことは事実であるし、また、中央本部がそれなりに自制的で あったにしても、運動の現場では、明らかに間違った言葉狩り表現狩りが横行し てきたのである。だから、そうなった理由をみんなでよく考え、新しい方針を打 ち立てるべきであり、過去の過ちを隠蔽して、なしくずし的に方向転換するのは 運動に不利益をもたらすことがあっても、益はない。(灘本昌久)

※ 部落解放同盟中央本部声明「古地図・古絵図刊行および展示に対する
  基本的な考え方について」(全文)
   <http://www.bll.gr.jp/guide-seimei-200301110.html>
※ 灘本昌久「『差別語』といかに向きあうか」
   <http://www.kyoto-su.ac.jp/~nadamoto/work/198905.htm>

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