2002/10/31 京都部落問題研究資料センター メールマガジン vol.014

□テレビ番組レビュー□
 NHKスペシャル「変革の世紀(5) 社会を変える新たな主役」
           (NHK総合、10月27日午後9時〜9時50分放映)

 同和事業を支えてきた措置法も、さる2002年3月31日をもって終結し、部落解放運動は新たな道を模索している。そのひとつの方向として最近注目されているのが、NPOを主体とした「街づくり」である。
 そんなおり、アメリカ、イギリス、ハンガリーで、国家・企業と並ぶ第3の勢力として期待されているNPOを紹介しているこの番組は、なかなかタイムリーな企画である。
 アメリカのピッツバーグ(フィラデルフィア州)は、日本の百科事典を引くと、鉄鋼業などで発展しているというように書いてあるが、今では、そうした製造業が衰退して、ゴーストタウン化しているのが実態である。そこで、さまざまな専門知識を持った人がNPOを立ち上げ、アルミ会社の建物であったところを拠点に街づくりをすすめている。ビルには60のNPOが入り、1500人が働いている。そして、それらが連携して企画している街の再開発計画は、総額2400億円(万円ではない!)の規模だという。公共性はあるが、企業が投資するにはリスクが大きすぎるという事業を、NPOが経費を節約したり寄付をつのったりして、実現に努力しているのだ。
 また、ミネアポリス(ミネソタ州)では、年収1億円の食品会社副社長が、その地位を投げうって立ち上げた職業訓練NPOが、路頭に迷う失業者に救いの手を差しのべる。この職業訓練NPOでは、週20時間、1年間の訓練プログラムが無償で提供される。入社した若い社員が、短期間で辞めていくことに困っている企業の実態に目をつけ、このNPOは、即戦力の人材に育てた人を送り込んで一定の報酬を受け取る。そして、その人が1年以内に辞めたら、受け取ったお金を返還して、新たな人を送り込むシステムをとっている。
 イギリスでも、労働党のブレア首相が、NPOを「パートナー」と位置付け、NPOの全国大会には、自ら祝辞を述べに出向くほど力を入れている。イギリスの理論社会学者で首相のブレインでもあるアンソニー・ギデンズが理論的なバックアップをしている。
 ハンガリーは社会主義崩壊の後、新たな国づくりに取り組んでいるが、そこでの新たな挑戦が、「1%制度」というものである。自分の払った所得税のうち、1%を自分の選んだNPOに提供できるという制度である。これを使って、あるNPOでは、ハンガリーではまだ医療としての位置付けを与えられていないホスピス(末期患者の病院)を立ち上げた。この例では、「1%制度」で受け取る金額は200万円あまりと規模は小さいが、市民の政治への参加を促すことにもつながり、今後が期待されている。
 これらの事例は、日本とは国情も違う地域での取り組みなので、ストレートに導入できるようなものではないかも知れないが、少なくともNPOが21世紀社会では、重要な要素であることを予感させるものである。また、NPOの秘めた可能性を引き出すことができれば、さまざまなアイデアが実現可能であることをも実感させてくれる。

《参考データ》
・変革の世紀
<http://www.nhk.or.jp/henkaku/closeup/06/>

 「人権関係テレビ番組情報」は、以下をご覧ください。
<http://www.asahi-net.or.jp/~qm8m-ndmt/tv/contents.htm>