2002/08/08 京都部落問題研究資料センター メールマガジン vol.008

□テレビ番組レビュー□
人権啓発作品「ネバーギブアップ」(原作:小阪田敦正、平成8年度制作)
             (読売テレビ、8月2日午後4時55分〜5時35分)
 
 部落問題を扱った人権啓発のアニメである。本メルマガの「テレビ番組レビュー」では、最近放映されたさまざまなジャンルの人権関係番組を紹介してきた。この2、3ヶ月の間にも、在日朝鮮人や障害者に関連して、現代社会の動きを見事に切り取った多くのドキュメントを見ることができた。ところが、ところがである。部落問題を扱ったものになると、どうしてこんな珍奇・陳腐・愚劣・幼稚な「作品」しか出てこないのだろうか。
 出だしからして、情けない。暴走族に加わっている部落の青年伊庭タケシが、警察につかまり、一緒につかまった暴走族のリーダーが警官に「あんまりいじめたらんとき、『部落』やさかい」という。暴走族に入っても差別されます、みたいな出だしである。そして、タケシのお母さんが「こんなことして、近所の人に恥ずかしゅうて顔向けでけへん」というと、「恥ずかしいのは、こっちや…この地区に生まれたことや!」と反抗してみせる。心配してきた学校の先生に、差別される自分の気持ちは、あんたらにわからん、とすねて見せる。高校で所属しているサッカー部の部員はそろいもそろって、部落差別意識にこりかたまっている。タケシがパスを出しても、汚がって受け取らない…。差別をとがめる監督は、「君らは、ちょっとふざけてるだけかもしらんが、されたほうはな、心を深く傷つけられているんや!」みたいなお決まりのお説教。タケシのお姉さんが出てくると、いきなり結婚差別に会う。タケシが相手の男性に問い詰めにいくと、興信所の人とおぼしき悪人風のおじさんが「寝た子はおこすな」といって、去っていく。サッカー部の監督が、部落民宣言。…。その他、いろんな正しい人が出てきて正しいことをカタログを読み上げるように主張する。子ども相手の作品だから、子どもだましでもいいと思っているのかもしれないが、ちょっとひどすぎやしませんか。夏休みファミリー劇場と称して、大阪市・大阪市教育委員会・大阪市PTA協議会が提供し、番組の終わりには「感想文募集」までしているが、この番組を見せられて感想文を書かされる子どもたちは、夏休みをおおいに浪費させられる。まったく、気の毒な限りである。同和事業は、ハード面は終わりで、ソフト面=啓発が重要というのが、最近の風潮であるが、部落問題に関する啓発の内容がこんな低レベルのものだったら、ソフト面の同和事業も終了していただいたほうがありがたい。
 なお、付言しておくと、このアニメが啓発番組の中で特に悪いというわけではない。まだ、1980年代のものよりは、お説教臭さが弱めてあるなど、改善のあとも見られる。むしろ全体の中では、上から3分の1くらいのところに位置する作品ではあると思う。それでもなおこのひどさという点を、啓発に携わる人間はよく考える必要があると思う。

※ 灘本昌久「人権啓発映画はなぜ面白くないか」
<http://www.kyoto-su.ac.jp/~nadamoto/work/20010530.htm>

※「人権関係テレビ番組情報」は、以下をご覧ください。
<http://www.asahi-net.or.jp/~qm8m-ndmt/tv/contents.htm>