2002/07/10 京都部落問題研究資料センター メールマガジン vol.006

□テレビ番組レビュー□
 ETV2002「イムジン河―私を変えた歌」
             (NHK教育、7月4日午後10時00分〜45分)

 ザ・フォーク・クルセダーズの「イムジン河」。40歳代半ば以上の年配の人たちには、なつかしい曲だろう。私も、最初の2小節ほど聞いただけでもジーンときてしまう。たしか、小学生か中学生のとき、音楽の時間に習ったような気がする。その「イムジン河」は、1968年の発売当初、政治的な軋轢で発売中止となり、放送禁止(要注意歌謡曲指定)となっていたが、多くの人に歌い継がれてきた。そして、時代は移って、去年の紅白歌合戦ではキム・ヨンジャがこれを熱唱し、ついに34年の歳月を経て今年3月にCDとして発売された。
 NHKのこの番組は、「イムジン河」のできてから今日に至る歩みを、松山猛(歌の発案者)、坂崎幸之助(アルフィー)、キム・ヨンジャ、新井英一、都はるみらへのインタビューを交えてふりかえる、なかなかいい番組だった。
 京都市東山の月輪中学校に通っていた松山猛は、日ごろ子どもたちの間で朝鮮人と日本人の争いが絶えないことを先生に相談したところ、ケンかばかりしていないでサッカーの試合でもやったらどうかとすすめられ、銀閣寺そばの朝鮮中学校に試合を申し込みにいった。その時、教室から聞こえてきたのが「イムジンガン」であった。後年その歌に2、3番の歌詞をつけて作ったのが、フォークル版「イムジン河」である。(なお、詳しい経過は、松山猛著『少年Mのイムジン河』木楽舎、2002年6月刊、を参照のこと。なかなか感動的なストーリーです。この本は、小学校高学年以上の夏休みの読書感想文におすすめです。「日本の戦争責任!」とか、「北朝鮮のテポドン!」とか、とかく政治的言語が渦巻く日朝関係について、地べたから考えなおすにはいい本だと思いました。)
 ところでリ・チョルウ氏(元朝鮮総連文芸同中央音楽部長)によれば、発売禁止の事情は、朝鮮総連が、作詞・作曲者の名前と「朝鮮民主主義人民共和国」という正式国名をいれてほしいといったところ、発売もとの東芝が躊躇したということのようだ。松山氏が朝鮮民謡だと思っていたのは、実は北朝鮮にれっきとした作詞・作曲者のある歌だったのだ。北朝鮮発の歌だからだろうか、韓国で「イムジン河」は耳になじみのない曲らしく、キム・ヨンジャさんは、日本でこの歌を知ったということである。
 番組に都はるみさんが出てきてはっとさせられた。都はるみさんが朝鮮人の血を受け継いでいることは漠然と知っていたが、それを番組ではどう扱うのかなと思ったのだ。都はるみさんは、はっきりといった。自分の父親が韓国人であること、「イムジン河」の歌を好きになったが自分の中で封印してしまったこと、そして2000年の冬に決心して自分のコンサートの曲目に加えたことなど。
 私は、都はるみさんがカミングアウトしたのは、この番組がはじめてだと思っていたが、調べてみるともう少し早かった。都はるみさんが、1976年のレコード大賞を受賞しようとしていた時、週刊誌に「都はるみの『否・国民的部分』」と題して、国籍問題を暴露され、一時は歌手をやめようとまで思いつめたが、美空ひばりに言葉をかけられて立ち直った。そして、そのエピソードを、1989年6月24日に美空ひばりが亡くなったときのテレビの追悼番組で告白していた。(詳しくは有田芳生『歌屋 都はるみ』文春文庫、1997年刊を参照)。
 「イムジン河」をさかのぼるといろんな風景が見えてくる。

※ 「イムジン河」の試聴は、下記ページの「audio」アイコンをクリック。
 <http://www.agentcon-sipio.co.jp/records/imujin.html>

※ CD版ザ・フォーク・クルセダーズ「イムジン河」
 <http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B000060N3V/>

※ 松山猛『少年Mのイムジン河』
 <http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/490781822X/>

※ フォークル版とフォー・シュリーク版の比較
 <http://homepage1.nifty.com/milestones/menu3/bakpages/act68.htm>

※ 「日本のバンドが統一を歌う」『ハンギョレ21』409号、2002年5月
 <http://www.altasia.org/hangyore/hangyore02409_1.htm>

※ 加藤和彦のインタビュー(動画付き)
 <http://music.nifty.com/interview/jp/020403/04.htm>

※ 有田芳生『歌屋 都はるみ』
 <http://www.web-arita.com/harumi4.html>


※「人権関係テレビ番組情報」は、以下をご覧ください。
<http://www.asahi-net.or.jp/~qm8m-ndmt/tv/contents.htm>