フランスの家族事情〜パリジェンヌの仕事、結婚、出産、離婚〜

京都産業大学文化学部 国際文化学科 田村祐美

 

はじめに

私がこのテーマを選んだ理由は、昨年実際にパリを訪れた際に、とにかくパリの女性に強い魅力を感じ、一瞬にして惚れ込んでしまったからである。パリの働く女性や同世代の学生、主婦、おばあさんやパリの小さな子どもたちにまでも惹かれるくらい、パリには私にとって魅力的な女性が本当に多かった。また、パリの女性に惹かれたのと同じように、フランスに溢れかえったカップル達にもどこか惹かれるところがあり、興味が出てきた。そこで、フランス、特にパリを中心にフランスの女性、フランスのカップルについてみていこうと思った。

 

1.近代の欧米家族

近代、欧米の家族のあり方には激しい変化が起こってきている。昔のおとぎ話のように、美しい娘が白馬に乗ったプリンスに出会って結婚し、玉のような子が生まれ、あとはめでたしめでたし・・・といったような一筋縄の結婚物語はあまり聞かなくなってしまった。実際、そのようにめでたく結婚したイギリスのプリンスとプリンセスも別れてしまった。

近年、アメリカ・イギリス・ドイツで伝統的な核家族は全家族の3分の1以下であるといわれている。最近では、若い人は独身や同棲を選んで結婚を急がなくなった。また、未婚の母も激増している。今も結婚を理想とする人は多いが、離婚する夫婦もまた同じように多い。シングルマザーの増加により、父親不在の家庭も多くなっている。

 

2.「結婚すること」を重視しないフランス人

30代で独身。日本の場合、自分ではまだまだ結婚なんてとても考えられないと思っていても、親や親戚、ときには会社の上司にまでも「仕事に夢中なのもいいけれど、そろそろ結婚も考えなさい」といったことを言われてしまうことが多い。日本ではそういった話はよくあるようである。とくに、こういった話は女性に対して多いように思われる。しかし、日本とは違ってフランスではあまりそのようなプレッシャーをかけられることはない。フランスはカップル社会である。しかし、そのカップルという単位が、夫婦であろうが同棲カップルであろうが、一緒に住んでいないカップルであろうが、フランス人は「形式」にはまったくこだわらないからである。結婚しているか結婚していないか、フランスではまったく問題にならないので、そのような点ではフランス人女性は日本人女性よりも気楽であると考えられるかもしれない。しかし、その分すべての責任は自分にある、ということになる。つまり、フランスの女性は常に厳しい姿勢で生きているのである。そういったことを考えると、そう気楽なものでもないかもしれない。

 

3.働く女性

フランスでは、結婚したとしても仕事を続ける女性がほとんどであり、社会のシステムや法律自体が女性にとって働きやすい環境になっている。1970年代に巻き起こったアメリカのウーマン・リブの影響で社会のシステムが変わった。そのことにより、フランス女性の意識も、彼女達を取り巻く環境も変化していったのである。そして時が経つにつれて、どんどん女性の地位は向上していった。女性が社会に参加するのと反比例するように、家庭に目を向ける男性が多くなってきた。1980年代になると、家事も子どもの世話もこなす「ママ」のような「パパ」たちが「めんどりパパ」と呼ばれ、流行語にもなった。

 

4.非婚カップル

歴史的な流れのなかで、人工中絶、ピル解禁、契約結婚、同棲、通い婚など、女性はあらゆるタブーから解放された。結婚と事実婚の格差が縮まり、非婚カップルが増えた。それが現在のフランスである。フランスで結婚を選ばない、いわゆる「非婚カップル」が一般化したのは、五月革命のショックを経て、結婚と事実婚の間の格差が縮まり、事実婚が限りなく結婚に近づいていった結果である。(しかし実際のところ、五月革命の直後しばらくの間、婚姻数は増え続け、事実婚は70年代後半から急増し始めた。)もちろん、地域や社会階層による差はいくらかあるが、いまや結婚と事実婚というふたつの形の対立はほとんど無くなった。フランスではたいていの人が「結婚してもしなくても、最終的にはどっちでもいい」と答えるのである。

 

(1)「ユニオン・リーブル (内縁関係)

前途したように、フランスには非婚カップルが多い。長年一緒に暮らし、ほとんど夫婦同然であっても、敢えて結婚しないカップルはたくさんいる。永遠を誓い合ったカップルであっても、自由を望み、籍を入れない、というのはじつにフランス人らしい。日本でこのような話はあまり聞かれない。こうしたカップルは「ユニオン・リーブル(内縁関係)」と呼ばれていて社会的に認められている。恋愛至上主義のフランス人たちにとって、ユニオン・リーブルこそ、自由と自立、そして二人が形式にとらわれずに愛し合っていることの証しなのである。

(2)PACS(連帯市民協約)

さらに、フランスでは1999年にPACS(連帯市民協約)法というものが成立し、同棲カップルにも夫婦と同じ権利が与えられるようになった。このため、財産分与に至るまで法律でしっかり保障されているので、その結果、フランスでは結婚にこだわるカップルがさらに少なくなったのである。同棲カップルというのが男女の組み合わせに限らないのがこの法律のおもしろいところである。フランスではゲイだとカミングアウトしている男性も多く、「男と男」、あるいは「女と女」、というカップルにも、PACSは適用されている。

成人した同性、あるいは異性の独身者二人が生活をともにする契約、それがPACSなのである。PACSは同居していることが前提となっているので、契約を交わした同棲ともいえるだろう。

PACSのような法律が制定されたのは、やはりフランスが個人主義の国でひとりひとりが自信を持って自分らしい人生を送り、自立しているからこそであると思う。有名人カップルが籍を入れたとか、入れないだとか、女優が未婚の母になったとか、日本では芸能スキャンダルとなりワイドショーなどで騒がれるような話題も、フランスではまったく社会的関心事項にはならない。もちろん、異性問題で政治家が失脚したりするようなこともない。

 

(3)結婚と事実婚 ~フランス~

フランスでは、結婚による家庭だけを正当な社会の一単位とみなす時代は、完全に過去のものになった。事実婚カップルが急増し、社会はむしろそれらの人たちをどうやって取り込むかの方向に動いてきた。たとえば、非婚カップルに子どもがいる場合も、なんら問題は無い。夫婦別姓も可能である。事実婚の子どもの姓は、先に認知した親の姓になる。両者同時に認知した場合は父親の姓になるが、統合姓も許されている。事実婚カップルも婚姻による夫婦同様、一方の社会保障をもう一方が利用することができる。また、国鉄の家族割引などの利用も可能である。二人で共同の銀行口座を持つことも、二人で融資を受けることもできる。子どもの出生の際には、父親が3日間の出産休暇を取ることもできる。子どもの相続権に関しては、認知されていれば嫡出子と同等の権利が保障されている。別離、死亡時のいくつかの問題を除けば、結婚している夫婦とほぼ変わりない権利が与えられているのである。

必要な場合、証人を伴って居住地の役所と訪れれば、「同棲証明書」というものを発行してもらえる。しかし、これがなくても普段の生活にはまったく困らない。

 

5.フランスにおけるカップルのパターン

フランスのカップルの形態で多いのは

a.ふたりでそのまま同棲・・・これは、二人で部屋を借りたほうが安くすむことも理由となっている。

b.近くに住んでお互いに行ったり来たりする・・・このパターンも多い。カップルとはいえ自由を尊重し合うフランス人ならではだろうか。

c.PACS・・・じつは、フランスでも内容がまだ一般的によく理解されているとは言えないので、実際に申請しているカップルは少ないのが現状。意外と手続きも面倒なようである。

d.結婚・・・1972年をピークに減り続けている。また、パリの離婚率は50%にものぼる。

パリには、aやbのような自由意志カップルも多い。フランスは基本的にカップル社会であることには昔から変わりは無いが、最近ではシングル生活の気楽さを謳歌する人たちも増えている。パリでは、全世帯の実に半数以上が単身世帯である。年齢的に見れば、やはり高齢者の一人暮らしが一番多いが、25〜35歳の年齢層の間ではここ数年でシングル化が急速に進んでいる。

結婚していないことで親や上司にうるさく言われることがないのは、このようにカップルのゴールが「結婚」だけではないからだろう。つまり、「結婚」以外にも選択の幅がたくさんあるということである。

また、フランスで生活をともにする男女の意識はどうなっているのだろうか。フランスでは男女が社会的に平等なら家の中でも平等というのが大方の考えで、パリジェンヌが一緒に暮らす男性の条件として、家事が上手かどうか、ということがかなり上位にランクされている。

 

6.シングル化の増加

視野をヨーロッパ全体に広げてみても、シングル化は社会現象の一つであるといえる。社会学者たちは、今後ますますシングル化の勢いが強まるだろうと予測している。

シングルにもいろいろあり、結婚前の一時的独身者もあるし、結婚というバスに乗り遅れたか、乗る意思の無いほぼ永久的独身もある。一人暮らしの学生もシングルには変わりない。離婚及び死別のシングルもいる。後者は老人に多く、女は平均して男性より長生きだから、年取った独身者には女性が多い。シングルのあり方は千差万別である。年齢別に見れば、やはり高齢者の一人暮らしの割合が高いが、この層にはほとんどと言っていいほど変化が見られない。近年、シングル化が急激に進んでいる世代は、25~35歳の年齢層である。つまり、以前ならば結婚し子どもを産み、育てる時期に相当する世代のシングルの増加が著しい。

アメリカ人が成人後独身で暮らす期間は1960年代に人生の平均3.8割であったが、今では5.7割の期間に伸びている。つまり、人生の半分以上をシングルで暮らしているのである。イギリスでは一人住まいが全世帯の2.6割、ドイツでは3.1割(都会では5割に近い)。西欧諸国では、80歳以上の老人の半数は一人で暮らしている。

もう世間はみな結婚すべしなどとは言わないし、シングルに対する偏見も少ない。男性も家事や料理ができるようになった。気に入らない相手と住むよりは一人のほうが自由でいいという人が多いのである。

シングルたちは夫婦者の三倍も本や雑誌を購入し、四倍も頻繁に外出する。九倍も映画を観る。収入の三分の一を服飾費に回す。このようなことからも、単身者達は時間や収入を自分のためだけに使っていることがわかる。

東を向いても西を向いても同棲は大流行といえるくらい、ヨーロッパでは同棲カップルが多い。スウェーデンでは20代前半の女性の44パーセント、20代後半の30パーセントが同棲している。アメリカでは23歳までに男女とも3人に1人が同棲を経験している。結婚世帯の割合はアメリカでもイギリスでも全世帯の約55パーセントしかない。

非婚化の背景には、一方で同棲や事実婚の増加、もう一方でシングルたちの増加がある。シングルも近年増えた生き方である。(ここでいう「シングル」とは、一人暮らしのことである。法的には「独身者」であっても、同棲や事実婚の人たちは含まない。)

同棲や事実婚の伸びと同様に、シングルの増加も伸びてきている。パリの全世帯の半数以上が単身世帯であり、フランス全体でも約27パーセントの世帯が単身世帯である。

 

7.フランス人女性の育児と仕事の両立

フランス女性の出生率はヨーロッパのトップに輝いた。フランスの雑誌は、フランス女性が以前より子どもを産むようになったのは、単純に彼女達が子どもを欲しいと思ったからであり、その背景には働いてる間、子どもを預けることができる社会の仕組みがしっかりと確立されてからだろう、と述べている。

とくにパリジェンヌたちは結婚や出産を経験しても仕事を続け、全フランスの平均以上の収入を得ている。

育児と仕事に追われ、髪を振り乱しなりふりかまわずやっているかというと、そんな事もなく、あくまでも魅力的なひとりの女性でありつづけている。彼女たちにとって、結婚をするのも出産をするのも仕事を続けるのも、すべて自信を持って選択したことなのである。日本で子どもを育てながら働こうとすると、保育園の数が足りずにすぐに入れず待機させられることも多い。一方、フランスは保育園も充実しているし、ベビーシッターの制度も日本よりもはるかに充実している。

子どもを小さい頃から自立させようと考えるフランスでは、親が子に添い寝するといった習慣がない。産院から戻ってきたときからすぐに別室就寝なのである。生まれてすぐの子どもでも、夫婦の寝室とは別なのである。フランスでは、生まれてすぐの赤ちゃんにもさっそく自立心を養うための子育てが始まるのである。そして、フランスは大人の国でありカップル社会である。つまり、夫婦ふたりが一緒に寝るというのが基本なのである。

日本に比べると、子どもに対してクールな印象のあるフランスであるが、もちろん産休・育児制度はしっかりしている。保育園やベビーシッターの制度も充実しているし、同じ職場で一時的にパートタイムで働き、一年後くらいに正社員として復帰するという女性も多い。

子どもを育てながら働く親のために保育園があるのは日本と同様であるが、日本とフランスで大きく違うのは、ベビーシッターの制度を利用する母親が多いということだろう。保育ママという制度もあるが、値段が高いのでベビーシッターのほうが一般的なようである。パリでは特にベビーシッターの需要が多いので、女学生たちのアルバイトの定番ともいえる。母親も、学生時代に自分がアルバイトした経験があるからこそ信頼して学生に子どもをまかせ、ナイトライフを楽しめるのだろう。

とはいっても、やはり子育ては大変なことである。いくらフランスの母親たちだといっても、自分のための時間は子どものいない時に比べるとぐんと短くなる。そんな彼女たちにとって、パートナーとふたりきりで外食をしたり映画を観に行ったりと、デートの時間を設けるのはとても大事なこと。日本だと、「子どもを置いて夜に出るなんて!!」という目で見られがちだが、フランスでは母親が一人で子育てをするという考え方はなく、子どもを人に預け、夫婦の生活を優先させることに社会全体が理解を示してくれている。

 

8.フランス人男性の育児参加

次に、フランスの男性の育児参加についてみみていきたい。

残念ながら、仕事に関しては男女平等でも、育児参加に関してはまだまだ女性がメインというのが現状である。でも最近では、父親も育児に対して協力的で、育児熱心になってきている。新しい法律のおかげで、子どもが生まれたときは、父親にも育児休暇が保証されている。そのおかげか、ここ23年の間、男性パートナーは仕事を早く切り上げ、積極的に子育てに参加するようになった。以前は、恋人や妻ばかりを大切にしていた男性たちだが、子どもも大切にするようになったのだ。

 

9.フランスのカップル社会

フランスは強力なカップル社会である。仕事上の付き合いで、パーティーや観劇に招待されたとなればパートナーを同伴するのが普通だし、友人同士でも、夕食に呼ぶときはたいてい、よかったら彼(または彼女)もどうぞ、とひとこと添えるのが例費である。純粋な仕事の枠外の時間はカップルで過ごされるべきもの、という大前提がある。プライベートが尊重されればこそ、伴侶も尊重されるわけだが、それだけにシングルは肩身の狭い思いをする機会が多い。

フランスで結婚しているか、結婚していないか、はたいして問題にはならない。しかし、生活の形がカップルであるかシングルであるかの差は、いまなお大きいようである。

 

10.家族事情の地域差と国の差

晩婚、少子化、女性の社会進出などの現象は欧米でも日本での、先進国には共通に見られる。でも、家族観、家庭の民主化の問題となると、国の差、地域差は大きい。

もっとも大きいのは階級の差かもしれない。中級階級の人は、アメリカでもフランスでもスイスでも、似かよった考えや行動パターンをもつ傾向がある。たとえば、教育のある男性ほど男女同権を認め、育児家事を助けるべきだと思っている人が多い。平均的にいって、教育の高い女性ほどキャリア志向で結婚年齢が遅く、子どもの数が少ない。

 

~フランスとオランダの場合~

フランスは革命の歴史が語るように、国民の意思が国を変えていく。オランダは海洋国で外国と常に接触してきたためか、新しい考えをオープンに受け入れる国である。両国とも、70年代にフェミニズム運動が始まると、両親の育児責任、協議離婚、中絶の権利(オランダでは避妊器具、避妊手術は無料)、職場での無差別、給料無差別、産前後休暇、非嫡出児に対する遺産相続権、性的暴力の違法化など、国民の要求に敏感な政府は率先して女権に関する幾多の法律を短期的に通過してしまった。

フランスは歴史的に女性の学者や革命家が多く、現代フェミニズムの思想もフランスに負うところが大きい。女性の教育程度も昔から高かった。女性の地位ことに主婦の地位はアメリカなどより高く評価されてきた。それでも近年半数の女性は外で働く。フルタイムが多くてパートの女性はヨーロッパ最低で、就職女性の17パーセントである。(スウェーデンは40パーセント、デンマークは46パーセント)

オランダは家庭の中の民主化が進んでいて、オランダの男性は家事手伝いを嫌がらぬ展でヨーロッパのトップだという統計もある。この国の女性の政治参加は激増したが、大学進出は男性と比べて3対1、就職する女性は36パーセントでヨーロッパの最低に近い。これは男性が女性を大事にして妻を外で働かせないことを誇りとする伝統がまだ残っていること、共働きをすると税が高くなること、子持ちの女性は離婚してさえも働かずに食べていかれる福祉制度があることが理由のようである。

 

11.一人の時間も大切に

カップル社会でありながらも、一人で過ごすのも大切な時間。誰とも約束していない夜は一人で映画に行くこともあるし、ジムに行ったりバレエやボクシングなどの習い事に通ったりしている女性も多い。また、早くアパルトマンに帰ってアロマキャンドルをつけて読書をしたり、ビデオやDVDを観たり、フランス人は自宅でくつろぐのも大好きだし、予定がないからといって寂しい気持ちになったりはしない。

フランス人にとって、ひとりで過ごすということは「自分と一緒にいる」という考えである。日が長いうちは、会社帰りでもまだまだ明るい。そういうときは散歩しながら買い物したり、公園のベンチに座ってぼんやりと景色を眺めたり、本屋をプラッと覗いてみたり。ひとりの時間を大切にしながら、何かとの偶然の出会いを大切にするのもフランス流。それは人だけに限らず、洋服でも本でも景色でも、なんでもいい。ひとりの時こそ、そういったチャンスが広がる、と考えてフランス人は「自分と一緒に」過ごしているのだ。

 

 

参考文献

1.シャーウィン裕子『生まれ変わるヨーロッパの家族』 インパクト出版社

2.浅野秦女『フランス家族事情』 岩波新書

3.ピーター・ラスレット『ヨーロッパの伝統的家族と世帯』リブロポート

4.M.ミッテラウアー/.ジーダー『ヨーロッパ家族社会史』名古屋大学出版社

5.J.L.フランドラン『フランスの家族』

6.ソニー・マガジンズ ドラ・トーザン『生粋パリジェンヌ流 スタイルのある生き方』