世界で最も住みやすい国・デンマーク

 

京都産業大学 文化学部 国際文化学科 水谷 有希

 

はじめに

 

私は春学期の間、主にデンマークについて調べた。なぜ北欧のちょっとマイナーな国に興味を持ったかと言うと、2回生のゼミでグループに分かれてヨーロッパの国について調べることになり、その時たまたま私のグループはデンマークを調べることになったからである。それに、みんながあまり知らない事を敢えて調べたいという思いもあったからである。デンマークについて色々と調べていくうちにデンマークという国がいかに福祉制度に力を入れているか、そして日本と様々な点に於いて違うということがわかるようになった。今回はデンマークについて私が研究して知ったことを微力ながらここにご報告したいと思う。

 

1)デンマークの概要

  

デンマークはスカンディナヴィア三国の1つで、ユトランド半島と周辺の大小483の島から成っている。九州より少し広いくらいの面積で、デンマークの自治領であるグリーンランドとフェロー諸島を加えるとヨーロッパ最大の面積となる。人口は約538万人で人種は北方ゲルマン系で多くがデンマーク語を話す。多くの人が小学校で英語を習うので英語を自由に話すことができる。宗教は国民の9割が福音ルーテル教(プロテスタントの一派)である。国の体制は立憲君主制でマルグレーテ2世女王が元首である。議会は一院制で、国民は18歳になると選挙権・被選挙権が与えられる。デンマークはEUに加盟しているが、ユーロには参加しておらず、通貨はクローネである。

 

2)住みやすい訳

 

 デンマークが世界で最も住みやすいと言われるのにはいくつか理由がある。まず、デンマークの人々の穏やかさが挙げられる。人々は親切で温かく、外国人にも同じように優しく接してくれる。しかし必要以上に人に干渉することはない。だから個人としての人格も否定されない。

 また、デンマークでは国民の生活は国の責任において保障されている。医療費はもちろん、教育や年金などのための拠出が無料である。しかしその分デンマークでは税金が高い。その負担は楽ではないが、人々は自分の払った税金の使い道が目に見えてわかるので、高い税金でも受け入れている。そして人々は納税額が下がることで従来の様々なサービスの水準が下がるなら、このまま税金が高いままでもよいという考えを持っているのである。

 さらにデンマークでは失業手当制度が充実している。また失業者に職業訓練を義務付ける政策や、政府の補助をする仕事を割り当てるなどして失業率を低下させている。

 

3)医療サービス

 

 デンマークでは医療費は無料である。大きな手術をしても一切費用は無料である。また、病気にかかったらまず、自分の掛かりつけの家庭医のところで診てもらう。一般的な病気はほぼ家庭医で処置される。19世紀の終わりごろからこの家庭医制度は始まり、予防接種やワクチンの投与、健康診断なども家庭医の仕事で、精神的な悩みや、家庭の揉め事の相談にのることもある。また、在宅看取り支援制度を利用して、人生最後のときを自分の家で過ごす人も多い。無機質で冷たい感じのする病院のベッドの上ではなく、住み慣れた自分の家で自分の好きなように好きな人に囲まれて、ゆったりとした時間を過ごし、最後の時間を楽しみたいと思うのである。自宅で看取りを希望する人が休職すると、自治体がその人に毎月同額の給与を支給してくれる。だから仕事に行かず、同じ時を過ごし、いつ何があっても傍にいてあげられる。この制度は患者にとっても看取る人にとっても嬉しい制度ではないだろうか。人間らしい最期とは何か・・そんなことを考えさせられると思う。

 

4)ノーマライゼーション

 

 福祉の思想として世界的に定着しているノーマライゼーションの考え方を生み出し、デンマークの障害者福祉に大きく貢献したのがバンク・ミケルセンである。彼は終戦後にレジスタンス運動「団結デンマーク」に参加し、その後社会省に入って知的障害福祉課の仕事に就いた。彼はその仕事を通じて、知的障害児が人間的な扱いを受けていないことを目の当たりにし、その実態を変えねばならないと感じた。彼は知的障害児の保護者と協力し、保護者の願いを象徴する言葉として「ノーマライゼーション」を採用した。そして、1959年、「知的障害者福祉法」が成立した。ミケルセンは1970年から12年間、社会福祉局長を務め、その間福祉行政委員長を歴任し、1983年に退官するまで37年間障害者福祉の発展に貢献した。

 ノーマライゼーションの理念は1971年に国連総会で採択された「知的障害者権利宣言」の中に反映され、1981年の「国際障害者年」の制定により、この理念は世界的な規模で影響を与えた。

 

さいごに

 

 春学期の個人研究と共同研究を通してデンマークにおいていかに「人」が大切な存在かがわかった。世界に誇る徹底した社会福祉制度も全ては国民あっての制度である。国民と国との関係がある程度うまくいっていなければ成立し得ないと思う。デンマークではどのような状況であっても、人が一番大切なのだろう。たとえ体の一部に障害があっても、精神的な障害があってもみな同じ「人的資源」であるという。どんな人間にも個性ある人的資源が潜んでいると考えるのである。

 デンマークと日本とでは「人の価値」に対する考え方が少々違うようである。日本では「学歴社会はもう終わった。」という声も耳にするようになったが、それでもやはり日本で学歴の優位という意識はそうそう簡単には消えそうにない。「大切なのはどの大学を出たのかではなく、大学で何を学んだかである。」なんて、そんなキレイごとは言うだけなら誰でも言えるではないか!と思ってしまうのは私だけではないと思う。デンマークでは人の価値は決して学歴で決まるものではない。そもそもデンマークには日本の「学歴」に相当する言葉がないのである。デンマークでは市民としていかに行動するかによって人の価値が決まるという。手厚い福祉制度や医療サービスなどが整っていて、人と人とのつながりがとても重要視されているからこその考え方であると思う。

 一昔前の日本もそうだったのではないかと思う。近所付き合いというものがとても大切なことだとされていいたし、そうやって人々と助け合って生きていたのではないだろうか。しかし今の日本は一部の所を除けばそのような姿は消え去りつつあると思う。今後は、デンマークにおける人の価値についてもっと深く掘り下げるとともに、日本においてなぜそのような風習が消えつつあるのかデンマークと比較して考えていこうと思う。

 

<参考文献>

 ・野村武夫著 『ノーマライゼーションが生まれた国・デンマーク』 ミネルヴァ書房 2004年

 ・武田龍夫著 『北欧を知るための43章』 株式会社明石書店 2003年

 

 ・小島ブンゴード孝子著 『福祉の国は教育大国』 丸善株式会社 2004年