|
ヨーロッパのクリスマス 京都産業大学文化学部国際文化学科 畑真以子 春学期、私はヨーロッパの妖精文化について研究し、代表的な妖精をいくつか取り上げた。ヨーロッパ、特にアイルランドでは妖精の存在はとても大きなもので、ただの想像上の生き物ではなく、その土地の文化や人々の風習が生み出したものであった。そしてアイルランドの人々は今でも妖精と共存しているのだということがわかった。今回、秋学期のテーマに選んだのはヨーロッパにおけるクリスマスの文化についてであるが、クリスマスと言われてまず思い浮かぶのはサンタクロースなのではないかと思う。そして、このサンタクロースと春のテーマの妖精とはどこか結びつく所があるのではないかと考え、秋学期はヨーロッパのクリスマスについて研究することにしたのだ。 ○クリスマスの起源 クリスマスは英語でキリスト(Christ)のミサ(mass)の意味で、フランスではノエル(Noel)、イタリアではナターレ(Natale)、ドイツではワイナハテン(Weihnachten)と呼ばれている。そもそも、クリスマスとはイエス・キリストの誕生を記念する祝日とされていて、降誕祭とも言われる。しかし、実際はキリストがいつ生まれたのかは定かではないようだ。キリスト教が始まった初期の時代、実は人々はそれほどキリストの誕生日には関心を持っていなかった。そして、なによりも重要としていたのはキリストの“死”と“復活”についてであったのだ。すなわち、当時のキリスト教徒たちは降誕祭よりも、復活祭を重視していたということである。 キリストの誕生日を現在のように12月25日と定めたのは、4世紀半ばのコンスタンティヌス帝統治下のローマでのことであった。そしてそれには冬至祭が大きく関わっているようだ。キリスト教が広まる前、古代ローマでは太陽神を崇拝する異教が大きな力を持っていたのだが、その異教ではほぼ冬至にあたる12月25日を“太陽神を祭る祝祭日”としていたらしい。その後、ローマ帝国ではサトゥルナリア《農耕神サトゥルヌス(クロノス)の祭》が行われるようになり、冬至の直後、もしくは当日である12月25日が「太陽が甦る日」として重視されるようになったということだ。そしてローマ帝国にはもう一つ、冬至を祝う「不滅の太陽の誕生日」という祭りがあった。この祭りは、元はミトラという神を崇拝するペルシア起源の宗教のものであったらしい。このような冬至にまつわる祭の日が、時に「太陽」になぞらえられることのあるキリストの降誕の日として、325年のニカイア公会議で定められた。つまり12月25日というキリストの誕生日は、実はキリストが生まれて300年以上経ってから勝手に決められた誕生日だったということである。 ○クリスマスの期間 その後、世界の至るところにキリストの誕生日として広まっていったクリスマスであるが、ヨーロッパのクリスマスとされる期間は日本と少し違っているようだ。日本ではクリスマスといえば12月25日を指し、その前の日をイヴなどと言うが、ヨーロッパではクリスマスと呼ばれる期間は12月25日から1月6日までを指すようだ。さらに、クリスマスの準備をする期間も入れると、人々はほぼ一ヶ月にわたってクリスマスを祝ことになるのだ。 その一ヶ月の中でもそれぞれの期間に名前がつけられている。クリスマスの準備をする期間である“待降節”(ドイツ語でアドヴェント)、クリスマスの最後の日である1月6日の“公現節”(ギリシャ語でエピファニー)、12月25日からエピファニーまでの12日間の“十二夜”(Twelve Nights)などである。それぞれを詳しく説明すると、“待降節”というのは12月25日前までの約4週間を指し、日曜日が四回入って11月30日に一番近い日に始まる期間のことであり、“公現節”というのはギリシャ正教会でのキリストの降誕祭のことである。ちなみにこのエピファニーは、旧約聖書に六日目に人間が創造されたとの記述があることから、それをキリストの降誕の日と重ね、1月6日となったという説があるようだ。“十二夜”はその名の通りであるが、例えばシェイクスピアによって書かれた『十二夜』はこの祭りのために書かれた喜劇であったのだそうだ。クリスマスの期間にはさらに、“ボクシング・デー”(Boxing
Day)と呼ばれるものもある。これは主にイギリスのもので、クリスマスの翌日の12月26日を指す。イギリスではクリスマスと同様国民の休日で、元来、キリスト教の最初の殉教者スティーブンを祝う聖スティーブンの祭日であったのだそうだ。ボクシングという言葉の由来は、教会の慈善箱を開け貧しい人々に分け与える日であったという説や、若い従弟が親方の顧客の家を回り、お金を入れてもらう陶器の箱に由来するともいわれているように、決してスポーツのボクシングとは関係がない。最近までは、いつも家を回ってくる郵便配達や清掃係の人に贈り物をする習慣が残っていたが、現代のイギリスではこのような風習はなくなっている。 ○クリスマスを象徴するもの クリスマスといえば、思い浮かぶものはたくさんあるだろう。私はその中でも“クリスマスツリー”と“サンタクロース”を取り上げ、詳しく調べてみた。 ●クリスマスツリー まずクリスマスツリーについてだが、これはもともとドイツを中心とする北ヨーロッパのものである。そして北にいくほどツリーの伝統は強く残っているようだ。現代につながるツリーの歴史は新しく、16世紀にドイツで行っていた劇に由来する。これはイヴに教会の前でキリスト降誕祭の序幕として行っていたもので、楽園でアダムとイヴが禁断の果実を食べたと言う堕罪の物語を演じるものであった。この劇の舞台に立てられていた禁断の果実がなった木が、ツリーの起源だといわれているのだ。ツリーを飾る習慣は17世紀中ごろからドイツの宮廷の習慣として取り入れられ、19世紀に入ると裕福な市民の家庭から、やがて一般市民にも広がっていったようだ。しかし、南ではツリーの習慣はあまり広まらなかった。この理由としては、カトリックで木を立てて祀ることがゲルマンの呪術信仰を思わせるものとして禁じられていたためだとされているようだ。ツリーの代わりに南では、キリスト生誕の場面を再現した馬小屋の模型を飾るのが盛んになっていた。例えばフランスでは、教会にクレーシュ(CRECHES)というキリスト降誕の様子を表現した人形が置いてあった。クリスマスのミサに庶民は教会に集まり、クレーシュを見てキリスト降誕を祝っていたのだ。やがてクレーシュはフランス革命の影響で失われ、代わりにサントン人形(プロヴァンス語で「小さな聖人」)と呼ばれるものが登場し、それは現在でも家庭で飾られている。またイギリスでももともとクリスマスツリーはなく、キシング・ボウ(Kissing
Bough)と呼ばれる天井から吊るすタイプのものが用いられていたらしい。 クリスマスツリーには一般的にモミの木、松、ヒイラギ、ヤドリギといった常緑樹が使われている。これは人々が、冬の暗い闇の恐怖と戦い闇を追い払うために、一年中緑のままで生命力の象徴である常緑樹を飾り、自らを元気付けるという意味があるのだ。 ●サンタクロース 次にサンタクロースについてである。サンタクロースといえば、クリスマスの夜にプレゼントをくれるおじいさん、というイメージだが、長い間ヨーロッパで贈り物をする習慣があったのは、クリスマスではなく12月6日の前夜であった。12月6日というのは聖ニコラウスの命日で、彼は現在のサンタクロースの原型となった人である。4世紀頃ギリシャのパトラスという町に生まれ、のちに現在のトルコにあたるミュラとうい港町の司教をつとめた聖ニコラウスは、お金持ちで、その富を喜んで人々に分け与えたという。そして、プレゼントを靴下の中に入れておくという習慣が生まれたのも、彼が金貨の袋を煙突から投げ入れ、洗濯物として干してあった靴下の中に入ったといういうエピソードからであるようだ。ちなみにサンタクロースと呼ばれるようになったのはオランダ語で聖ニコラウスの意味の“ジンタークラース”がなまったのが始まりである。 世界ではこの聖ニコラウスに由来するサンタクロースが一般的となっているが、ヨーロッパには他にもサンタクロースに似たものが多く存在する。そしてそれらの多くは妖精として紹介されていた。例えばイギリスのファーザークリスマス。彼はプレゼントを配るおじいさんでサンタクロースとあまり変わりないが、起源は農耕の神様サトゥルヌスだと言われている。そして彼は時にこびとの姿で登場したりするのだ。他にもエピファニーの夜に登場するイタリアの魔女ベファナ、良い子には贈り物をするが、悪い子には鞭を置いていくというドイツのヴァイナハツマンはドイツに古来より伝わる妖精の老人である。さらに北欧にはサンタクロースの他にもクリスマスの妖精がいる。デンマーク・ノルウェーではニッセ、スウェーデンではトムテ、フィンランドではトントウと呼ばれる彼らは、家や家畜を守ってくれる妖精で、帽子を取ると見えなくなると言われているのだ。北欧のクリスマスでは妖精のためにクリスマスプティングを用意し、プティングがないと彼らは他の家に移って、その家が滅んでしまうと考えられているらしい。 ヨーロッパのクリスマスについて研究して、多くの意外なことを発見できた。クリスマスは世界各国で祝われる祭りであるが、春に研究した妖精文化においてもそうであったように、クリスマスもその国や土地のそれぞれの風習などが大きく影響し、各国で特有の文化として根付いているということがわかった。外国から伝わってきたものではあるが、日本でもクリスマスを祝う習慣はある。そしてこれも日本独特なものとなっているのだろう。 一年間を通して、ヨーロッパの文化の中でもごく一部を取り上げて見てきたが、世界共通のものであってもヨーロッパではヨーロッパ独自の文化があり、それは日本とは全く違うもので、調べてみてとても面白かった。これからもまた、様々な文化を比較しつつヨーロッパの文化に触れていきたいと思う。 【参考文献】 浜本隆志 柏木治 編著 『ヨーロッパの祭りたち』 明石書店 2003年 http://www5a.biglobe.ne.jp/~snowy/christmas%20index.html http://c-cross.cside2.com/html/e10ku001.htm http://enkan.fc2web.com/zatu/05.html http://www.kommenkudasai.de/Yuminnow/Weihnachten/weihnacht.htm |