京都産業大学 総合生命科学部 生命システム学科

研究室

Laboratory of Cell Signaling and Development (CSD Lab)

 
 

少し長いご挨拶略歴

ヒトを含む多くの生物種の遺伝情報、すなわち全ゲノム構造が次々と明らかにされ、生物学は大きな転換期を迎えています。生物が生まれ育ち、そしてやがては死を迎えるまでの間に遭遇する様々な出来事(生命現象)がどのようなしくみで成り立っているのか?このことを理解しようとする時に、その生物が持つ固有のゲノムDNAの構造と機能を理解することは大きな前提となってきているのです。最近では、特にヒトのような高等な多細胞生物種において、ゲノム構造に占める遺伝子領域(主にタンパク質をコードする領域)は遺伝子ではない領域に比べて圧倒的に小さいことや、遺伝子ではない領域にも重要な生物学的機能があることがわかってきており、ますますゲノムをめぐる生物学の研究は複雑さを増してきています。しかしながら、ゲノムの構造と機能が個々の生物種にとっての生命現象の基盤であることに変わりはなく、その包括的な理解の重要性もまた増すばかりです。

わたしが研究する上で念願としていることは、生物はなぜ生まれ、なぜ死ぬのか?ということを明らかにすることです。ただ、この問いは生物学よりも哲学のような他の研究分野にふさわしいかも知れませんし、実験科学的に取り組むにはあまりにも難しすぎるようにも思えます。そこで、わたしはこの問いを「生物はどのように生まれ、どのように死ぬのか?」と問い直して研究に取り組むことにしています。言い方をかえると、生物が生まれるメカニズム、および死ぬメカニズムを明らかにするための研究を行っているということです。このように書くと、ものすごく壮大な、つかみどころのないテーマを扱っているように思われるかもしれません。そこで次にもう少し具体的な研究テーマの話をします。

わたしは2006年度までの23年間、学生時代を含めて在籍していた神戸大学で研究活動を開始しました。その当初から一貫して取り組んできているのが、がん遺伝子産物Src(サーク)の構造と機能に関する研究です。このテーマに取り組むようになったのは、わたしが大学の卒業研究のために恩師の深見泰夫博士・現 神戸大学教授が主宰する研究室に所属したのがきっかけです。Srcは発がんウイルス(ラウス肉腫ウイルス)が持つ発がん遺伝子の最初の例として最も古い研究の歴史がある「がん遺伝子研究のスター」であるとともに、チロシン特異的リン酸化酵素(チロシンキナーゼ)活性を持つタンパク質としても最初の例として発見された「タンパク質リン酸化研究のスター」でもあります。わたしが研究を開始した1980年代後半は、Srcをめぐる研究動向が「新しいがん遺伝子の発見」や「Srcのリン酸化基質の発見」から「Srcの活性制御機構」や「Srcを中心とするシグナル伝達機構」へとシフトしつつあった時期でした。特に、Srcには発がんウイルスがもつバージョン(v-Src)に加えて、生物の正常細胞のゲノム上にあるバージョン(c-Src)もあることをふまえた「がん細胞と正常細胞におけるSrcの生理機能」が大きく取り上げられるようになってきていました。

このような状況下で、わたしはウイルス性Srcのタンパク質精製や酵素化学的解析を主とする研究を経て、正常細胞性Srcの生理機能の解析を主なテーマとするようになったのです。現在取り組んでいるテーマは、受精の成立における卵細胞膜近傍のシグナル伝達機構とがん細胞の悪性形質発現(特にアポトーシス抵抗性)にかかわるシグナル伝達機構です。前者ではアフリカツメガエル卵を、後者ではヒト培養細胞をそれぞれモデル実験系として利用しています。ここまでとても長い前置きになりましたが、生物がどのようにして生まれ、どのように死ぬのか?という課題に取り組むにあたり、わたしは受精(生物発生の起点となる現象)とがん(細胞レベルの死を克服した存在であり、かつ個体を死に至らしめる存在)の2つの生命現象を扱っているということです。

最後に冒頭にお話しした「ゲノム」と私の研究テーマの関係はどのようになっているのかについてお話しします。先に記した「シグナル伝達」がキーワードとなります。ゲノム・遺伝情報はあらゆる生命現象の基盤である一方で、細胞が持つ生物学的機能の実行役はゲノム・遺伝情報をもとにして作られるRNAやタンパク質、そして糖類・脂質類をはじめとする生体分子群が担っています。この生体分子群が生物個体を構成するすべての細胞内外で複雑な情報網をつくることで、生命現象は成り立っています。シグナル伝達は、このゲノムを基盤とする細胞内外の情報網の構造と機能の全貌をとらえた概念であり、またその実体であるといえます。わたしは卵細胞とがん細胞それぞれが示す細胞機能におけるシグナル伝達機構を、Srcタンパク質やその周辺分子群の働きをとっかかりとして詳しく明らかにしていくことで、その全体像の解明に貢献していきたいと考えています。


                京都産業大学 総合生命科学部 生命システム学科

                発生情報学研究室 教授 佐藤 賢一


■ 略歴

生年月日  1965年5月22日(血液型O、双子座)

出身地   北海道岩見沢市

1984年3月 北海道立札幌西高等学校 卒業

1988年3月 神戸大学理学部生物学科 卒業

1990年3月 神戸大学大学院理学研究科生物学専攻 修了

1991年3月 神戸大学大学院自然科学研究科物質科学専攻 中退

1991年4月 神戸大学 助手(遺伝子実験施設、現センター、2007年3月まで)

2002年   マサチューセッツ大学 客員研究員(獣医・動物学部)

2003年4月 甲南大学 非常勤講師(2008年3月まで)

2007年4月 京都産業大学 准教授(工学部生物工学科)

2008年4月 京都産業大学 教授(工学部生物工学科)

2010年4月 京都産業大学 教授(総合生命科学部生命システム学科)


©2017 発生情報学研究室 All Rights Reserved.