第32回(2014年)
博士号取得後のキャリアパス 〜企業研究者,国内PI,海外PIに聞く〜

アカデミックPIの実際 –テニュアトラック制度の経験を踏まえて–

大西 利幸
(静岡大・准教授)

 近年、大学院博士課程終了後のキャリアパスは多様化しています。その中でもアカデミアにおけるキャリアパスとして、大学教員は1つの選択肢です。近年、多くの大学で「テニュアトラック教員」の募集が増加しており、従前の雇用形態が変化しつつあります。テニュアとは「任期を定めて採用し、自立した研究環境で経験を積ませた後、実績を審査し、適格であれば一定の条件を満たした教職員に与えられる終身在籍権」のことであり、「テニュアトラック教員」はテニュア取得を目指す教員を指します。テニュアトラックは欧米で始まったアカデミアの雇用システムで、日本では科学技術振興機構のプロジェクトとして平成18年度に導入されました。私は静岡大学において2009年から2013年までの4年間テニュアトラック教員として経験した悲喜交々(研究室立ち上げ、学生指導、研究戦略、予算、テニュア審査など)を率直にご紹介するとともに、テニュアトラック経験者や現在テニュアトラック教員である先生方に事前に答えていただいたアンケート結果を紹介させて頂きたいと思います。皆様のキャリアパスを考える一助になれば幸いです。

応用研究と基礎研究のギャップ 砂の上に城が建つこともある。でもそれでいいの?

岡田 敦
(日本農薬株式会社・研究主任)

 基礎研究を行った人の中で、自分の研究が本当に世の役に立つのか、どう役に立てるのか、興味を持ったことがないという方は少ないと思います。確かに研究を始めるきっかけは強烈な興味や好奇心かもしれません。しかし、研究の成果とともに応用の可能性を世に示す必要があったり、研究を続けていくうちに自然と芽生えたり、自分の研究の「生かしどころ」を必然的に意識させられる場面は多いと思います。
 その思いをこじらせた私は、自身の分子生物学の知識、研究成果を(あわよくば)応用研究に生かすために、ポストドクターをやめ、農薬メーカーである弊社に入社しました。入社後5年間新規農薬成分の探索研究に従事し、未来の農薬を創出するべく研究を続けています。
 みなさん、「創農薬」ときいてどのような業務を想像しますか?そう問われ、医薬品の「創薬」をイメージする方が多いかもしれません。白衣を着て、細胞に化合物を処理して…確かに農薬も薬の仲間ですから大枠は「創薬」でくくられると思います。私もそういうイメージを抱き入社しました。しかし実際の業務は私のイメージとは大きく異なっていました。
 しかし、基礎研究と同じく農薬関連研究を取り巻く環境も刻一刻と変化しています。徐々にですが育種、創農薬に分子生物学的手法が取り入れられつつあり、5年間で他機関や大学との連携、折衝、実験の組み立て等、応用と基礎を繋ぐことのできる(翻訳できる)人間として、私の専門知識が頼りにされる場面が増えてきています。
 講演を聞かれる方の中にもし少しでも企業への就職を意識している方がいらっしゃれば、私の応用研究の経験をケーススタディとして、基礎研究一筋の方も研究の農業分野への活用法の考察の一助として、本講演が生かされればと思います。

世界のアカデミアを歩む

津田 賢一
(Group Leader / Max Planck Institute for Plant Breeding Research, Germany)

 私は北海道大学で2004年に学位を取得後、米国ミネソタ大学で6年間ポスドクとして植物免疫応答の研究に従事し、2011年12月よりドイツのケルンにあるマックスプランク研究所でグループリーダーをしています。昨今、博士課程卒業後後のキャリアパスはアカデミア、企業の研究職、研究者以外の職と多様です。しかし、私個人の経験であり、他と比較は出来ないと前置きしていったらいいのでしょうか?学位を取り、ポスドクで経験を積み、大学や研究所のポジションを得る。キャリアパスを言葉にすると簡単ですが、「どうやって?」というのが若手の皆さんが一番知りたいことだと思います。こうすれば間違いないというプロトコルはおそらくないですし、少なくとも私は知りません。このセミナーを引き受けたときに頭を悩ませましたが、私の経験を率直に具体的に紹介することで、若手の皆さんのキャリア構築の参考になればと考えました。当時の自分の行動・状況と今だからわかる「あの時こうした方がよかった」を比較しながら、それぞれのステップを振り返りたいと思います。自分も海外で研究室を運営しようと思う若手がここから出てくれば、この上なく幸いです。