第21回(2002年度)

@植物生理学会(岡山)

オーキシンを介した側根形成に関する分子遺伝学的研究

深城 英弘
(奈良先端大・バイオサイエンス研究科)

 植物の地下部を構成する根系は、発芽後伸長する主根と、主根の内鞘細胞から形成される側根によって主に構築される。我々は植物の根系の構築にとって重要な側根形成の分子機構を解明することを目的として、シロイヌナズナを用いた分子遺伝学的アプローチにより、側根形成に関わる遺伝子群の機能解析を行なっている。具体的には、側根を完全に欠失するsolitary–root(slr) 変異体とその原因遺伝子であるIAA14(オーキシン誘導性遺伝子Aux/IAAファミリー)を用いた分子遺伝学的解析を中心に、側根形成に関わる遺伝的制御の分子基盤の解明を目指している。
 我々がシロイヌナズナから単離したsolitary–root (slr) 変異体は優性変異により、1)側根を全く形成しない、2)根毛をほとんど形成しない、3)根と胚軸の重力屈性が異常となる、4)オーキシンに対する感受性が低下する、などの表現型を引き起こす。これまで側根形成初期マーカー(CycB1;1::GUSおよびEnd199)を用いた解析から、slr–1変異が側根形成の初期段階つまり内鞘細胞の細胞分裂を抑えていることを明らかにした。この結果は、SLR遺伝子が側根原基の形成初期の細胞分裂・細胞分化に関わることを強く示唆した。SLR遺伝子はオーキシン誘導性遺伝子Aux/IAAファミリーのIAA14をコードしており、slr–1変異体および別のアリル変異体slr–2では、IAAタンパク質の安定性に関わる保存された領域domain IIにミスセンス変異が生じていた。他のIAA遺伝子の機能獲得型変異体がdomain IIに同様のミスセンス変異を持つことや、IAAタンパク質のdomain IIに関する他グループの機能解析などから、slr変異体では、本来不安定なIAA14タンパク質が変異型IAA14タンパク質となって安定化したと考えられる。また、slr変異体ではオーキシンによって発現が上昇するBA-GUSマーカーの発現が低下することや、slr変異型IAA14タンパク質とGFPとの融合タンパク質が核に局在することなどから、IAA14タンパク質がオーキシンによる転写調節機構において、負の調節因子として働くことが示唆された。現在、SLR/IAA14遺伝子によって発現が制御される下流遺伝子を同定する目的で、かずさDNA研究所が保有する約13500個のシロイヌナズナESTが載ったcDNAマクロアレイ(シロイヌナズナアレイコンソーシアムで作製)を利用し、野生型とslr変異体とで発現に差のある遺伝子を網羅的に同定する試みを行なっている。
 また側根形成においてSLR/IAA14と遺伝的に相互作用する遺伝子座を同定する目的で、slr変異体の側根欠失表現型を抑圧するサプレッサ-変異体の単離を試みた。EMSにより変異原処理した約5000粒のslr–1種子の次世代約30万個体から、側根形成を行なう系統を多数単離した。それらはIAA14遺伝子領域内にさらに別の変異が生じた遺伝子内サプレッサ-変異体(slr–1R1~slr–1R4)と、他の遺伝子座に変異を持つ遺伝子外サプレッサ-(slp, slr suppressor)とに分類された。遺伝子外サプレッサ-変異体であるslp1slp2slp3はそれぞれ単一劣性変異であり、slp slr 二重変異体において側根形成のみが回復されるが、他のslrの表現型(根毛形成異常・重力屈性異常)が回復されない。したがってSLP1SLP2SLP3遺伝子は側根形成特異的にSLR/IAA14と遺伝的に相互作用すると考えられる。現在SLP遺伝子群の単離を目指して、遺伝子座の詳細なマッピングを進めている。

発表論文
Fukaki, H., Tameda, S., Masuda, H., and Tasaka, M. (2002). Lateral root formation is blocked by a gain-of-function mutation in theSOLITARY-ROOT/IAA14 gene of Arabidopsis. Plant J. 29, 153-168.

ACC合成酵素のリン酸化に関する研究

立木 美保
(農業技術研究機構・果樹研究所)

 エチレン生合成経路の律速酵素であるACC合成酵素は、転写段階で制御されていると考えられていたが、近年、ACC合成酵素が転写段階だけでなく、翻訳後の制御を受けている可能性が示唆された。そこで、トマトの傷害誘導型LE-ACS2を用いて、翻訳後修飾機構について解析した。
 まず、ウエスタンブロットによりLE-ACS2組織からシングルバンドとして検出した結果、LE-ACS2の分子量はcDNAの塩基配列から推定される分子量と一致した。このことにより、細胞内ではC末端が切断されて活性化するという機構が誤りであることが明確になった。
 次にLE-ACS2のリン酸化の有無について解析した。傷害を与えた果実に、32P無機リン酸を取り込ませ、特異抗体で免疫沈降し、SDS-PAGEで解析した結果、LE-ACS2がリン酸化されていることが明らかとなった。更に、大腸菌に発現させたLE-ACS2を基質とし、果実からのkinase画分を用いてin vitroリン酸化系を確立し、この系を用いてリン酸化部位の決定を行った。C末端領域を欠失した変異体LE-ACS2を基質としたin vitroリン酸化実験から、リン酸化部位がC末端領域であることを示し、C末端領域に対するペプチドを基質としたin vitroリン酸化実験から、460または462番目のSerがリン酸化されることを証明した。そこで460、462番目のSerをGlyに置換したLE-ACS2変異体を基質として、in vitroリン酸化反応を行い、リン酸化部位が460番目のSerであると同定した。
 C末端領域の、460番目のセリン残基の近傍のアミノ酸配列を比較すると、F/LRLSF/Lという配列がいくつかのアイソザイム間で保存されていた。in vitroリン酸化反応をから、この配列を含むアイソザイムがリン酸化され、含まないものはリン酸化されなかった。このことより、アイソザイムの中でも、リン酸化の有無が異なることが示唆された。リン酸化状態がACC合成酵素の活性に与える影響を調べたが、in vitroにおいて、リン酸化の有無により活性は変化しなかった。
 本研究とこれまでの報告から、以下のような機構を推論した。ACC合成酵素は翻訳後、kinaseによってリン酸化され(リン酸化自体は活性に影響しない)活性を発現する。しかし、phosphataseによってリン酸基が外れると(活性には影響しない)、ETO1様タンパク質(ETO1:Arabidopsisエチレン過剰生成変異体の原因遺伝子がコードするタンパク質で、ACC合成酵素活性を抑制する)が結合して、活性を失うという機構である。また、アイソザイムによって、この制御機構を持つもの、持たないものが存在し、タンパク質レベルで異なる制御を受けている可能性を示唆した。