第20回(1999年度)

@植物生理学会(仙台)

シロイヌナズナを用いた茎頂分裂組織および器官形成機構の解析

相田 光宏
(奈良先端大・バイオサイエンス研究科)

 高等植物では、胚発生過程において基本的な体制が確立する。そして、胚の上部領域から子葉および茎頂分裂組織が分化する。発芽後、茎頂分裂組織は先端部に未分化な細胞を維持しながら、葉・茎・花などの器官を繰り返しつくり続けることで地上部を形成する。胚発生過程におけるパターン形成、茎頂分裂組織の形成、そして植物の一生を通じて起こる器官形成の分子メカニズムはよくわかっていない。シロイヌナズナのcup-shaped cotyledoncuc)突然変異体は子葉が互いに融合してカップ型になり、茎頂分裂組織を欠失する(図1)。遺伝解析および変異体の表現型の解析から、cuc変異体の表現型は二つの機能的に重複した遺伝子座、CUC1およびCUC2の二重突然変異により引き起こされていることがわかった。cuc変異体の表現型の解析から、CUC1およびCUC2遺伝子は胚発生と不定芽形成過程における茎頂分裂組織の形成に重要な役割を持つことが示唆された。また、この変異体において子葉・がく片・雄しべに融合がみられたことから(図1と2)、地上部の側方器官を一つ一つに分離するメカニズムが存在し、少なくともその一部が胚発生と花の発生において遺伝的に共通することが示唆された。CUC2 mRNAの胚発生における発現パターンから、CUC2の遺伝子産物は子葉と子葉の境界部で機能し、その部分の盛り上がりを抑えることで子葉を分離することが示唆された(図3)。一方、茎頂分裂組織の形成に必須な調節遺伝子としてSTMが知られているが、cuc1 cuc2二重変異体におけるSTMの発現および cuc1 cuc2 stm 三重突然変異体の表現型の解析から、CUC1およびCUC2STMの上流ではたらき、STM mRNAの発現に必要であることが示唆された。さらに、cuc1 stm および cuc2 stm の二重変異体の表現型の解析とstm変異体におけるCUC2の発現パターンの解析から、STMがCUC2 mRNAの発現調節を介して、子葉を分離する過程に部分的に関与することも示唆された。得られた結果に基づき、シロイヌナズナ胚の上部領域におけるパターン形成のモデルを提唱し、この過程におけるCUC1CUC2STMの役割について考察する。
(※図の記録なし)

age; auxin altered gene expression mutants の分離と解析

大野 豊
(日本原子力研究所・先端基礎研究センター)

 植物ホルモンであるオーキシンは、植物の生長や分化を制御する重要な物質である。その作用メカニズムのひとつとして、ある種の遺伝子発現のパターンに変化を及ぼすことが知られているが、そのシグナル伝達経路はよくわかっていない。エンドウ由来のPS-IAA4/5遺伝子は、オーキシン初期応答遺伝子として最も詳しく解析されている遺伝子の一つで、当該遺伝子の5’側の上流にはオーキシン応答にかかわる塩基配列(auxin-responsive domain、AuxRD) が同定されている。演者らは、AuxRDを突然変異体のスクリーニングのための道具として用いることによって、これまで行われてきたオーキシン耐性などの形態的変化を指標としたスクリーニングでは得られなかった新規のオーキシンシグナル伝達系に変異を持つミュータントが得られるのではないかと考え、実験を行った。まずPS-IAA4/5-AuxRDの下流にレポーター遺伝子としてGUSをつなげ、トランスジェニックアラビドプシスを作製し解析した。明所で育成した芽生えを10-7M以上のIAAで処理すると、主に根の伸長帯でオーキシン特異的なGUSの発現がみられ、エンドウ由来のAuxRDが異種の植物内でもAuxRDとして働くことを確かめた。つぎに種々のオーキシン関連突然変異体と交雑することにより、それぞれの変異がGUSの発現に与える影響についても解析した。その結果、根の伸長帯におけるオーキシン感受性についていえば、axr1, axr4, aux1は10-100倍高い濃度のオーキシンで野生型のように反応が起こる低感受性変異体であるのに対して、axr2, axr3では高濃度のオーキシン処理でも反応がみられないオーキシン無感受性変異体であることが明らかになった。このAuxRD-GUS形質転換体の種子をEMSで処理し、M2種子をスクリーニングすることにより、野生型ではGUSの発現のない低濃度のオーキシン処理でもGUSの発現がみられる突然変異体を分離した。このうちの2系統については、変異遺伝子がそれぞれ1番と5番の染色体にマップされ age1, age2 (altered auxin gene expression) と名付けられた。age1は伸長帯のGUSの発現が野生型の1/10の濃度のIAA(10-8M)でも誘導される変異体で、age2は根の維管束部にオーキシン処理をせずとも恒常的にGUSの発現がみられる変異体であった。 RNAの発現解析から、age1, age2 は、外性オーキシンによって誘導される遺伝子発現に変化を及ぼしていることが明らかになった。
 現在age1のポジショナルクローニングを進行中である。