| 知的財産権 | 著作物とはなにか | 著作権のしくみ | 著作者の権利 | 様々な実例 | 参考文献 |
知的財産権(知的所有権とも呼ばれます)とは 簡単に言えば,自分が考えたものを 他人に勝手に利用されないという権利です. このような権利はその対象により様々なものが考えられますが, 大きく次の三つに分けることが出来ます.
この講義では,これからコンピュータやネットワークを使うときに これらの権利を侵害しないために,特に著作権について 我々が知っておくべき基本的な知識や態度を学んでゆきます.
著作権法では,著作物とは 「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、 文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」 とされており,以下のようなものが例としてあげられています.
ただし,9.について著作権法で保護されるのはプログラムそのものであり, いわゆるアルゴリズムについてはかつては数学の定理のように 保護になじまないものとされてきましたが, 最近では特許権で保護される方向にあります. さらに,編集物やデータベースも単なる寄せ集めでなく 創作性を持つものは著作権の保護の対象となります.
著作権は知的財産権の一部ですが, 特許権などの他の権利と大きく異なる点として 「その権利を取得するのに審査や登録がいらない」 (無方式主義)という国際ルールに基づいて 運用されるということが挙げられます. よく著作物に©マークによる著作権の表示が付いているのを 見かけることがあると思いますが, 日本では実はあのような表示はなくても著作権は自動的に付与されます. ですから著作権表示がないものについても著作権については きちんと留意する必要があることに注意してください. (ではなぜこのような©マークが制定されているのかというと, 国際ルールに基づいた法律の整備が遅れている国に持ち込んだときにも, すでに登録されているものと見なすためです).
また著作権という用語はいくつかの異なった意味で用いられる ために混乱を招くことがしばしばあります. そこでまず著作に関わる権利の基本的な構造を整理してみましょう.
一般に著作権というときには1と2を合わせた権利全体を指す場合, 1の著作者の権利を指す場合, そしてその内の財産権である1(b)の(法律用語としての)著作権を指す場合が ありますので注意してください. 次にそれぞれの項目についてもう少し詳しく見ていきましょう.
1の著作者の権利のうち1(a)の著作者人格権は, 著作者に自然に与えられる権利と考えられています. 従って譲渡・相続などによる移転は出来ないものとなっています. これには次の三つがあります.
1(b)の著作権は著作者人格権と異なり, 社会により定められたある意味で人工的な権利と考えられており, そのために譲渡・相続などにより移転が可能となっています.
大まかに言えば,著作者人格権は著作者の「心」を保護する権利であり, それに対して著作権は著作者の「財産」を保護する権利である, と考えることができます.
ここまでなにげなく著作者という言葉を使っ てきましたが,著作者とはどのような人を指すのでしょうか.簡単に言えば,著 作者とは著作物を作った人です.しかし著作 権法にはこれとよく似た著作権者という言葉 があります.これは上の1(b)の著作権を持つ人 のことです.著作物が作られたときには著作者=著作権者ですが,1(b) の著作権は譲渡・相続により移転することが出来ますので両者は必ずしも一致しないことに注意してください. これに対して上の1(a)の著作者人格権は移転できませんので,著作者=著作者人 格権を持つ人となります.
また,発注者の注文により著作物を作った場合でも著作者は実際に著作物を作っ た人であり発注者ではありません.ですから 発注者は自分がお金を払ったからといって納品された著作物を自由に使えるわけ ではありません.もしそうしたければ契約できちんと取り決めなければなりませ ん.
著作物を作る際には複数の人が共同して作る場合があります. このとき各人が作った部分を別々に使うことが出来ないような 著作物のことを共同著作物といいます. 例えばプログラムの共同制作などもこれに当たります (別々に使えるものを組み合わせた場合はこれに当たりません). この場合は,全員の合意がないと著作者人格権や著作権は行使できませんし, 自分が作った部分の著作権を譲渡するにも全員の合意が必要です.
会社等で社員が仕事でプログラムを作ったりする場合には 会社等が著作権を持つ場合があります. 具体的には以下のような条件を満たす著作物についてはそれに当たります.
なお,ここで会社等が所有する著作権は 作成された著作物そのものに関する権利であり, 作成されたもののアイデアに関する権利である 特許権を会社が持つ場合については, 著作権法とは別に特許法で定められていることに注意してください (青色発光ダイオードの裁判などで話題になっていたのは特許権の方です).
例えばレンタル店から借りてきたCDをMDに録音したり テレビからビデオテープに録画するような場合は, 家庭内における私的使用を目的とする複製であれば著作権法で許容されています. ただし録音録画機器・機材がデジタル方式である(MD, CD-Rなど)の場合は 補償金を払う必要がありますが,これは機器・機材の価格に上乗せされており 改めて支払う必要はありません(音楽用のCD-Rがデータ用のCD-Rより高いの はこのためです).
最近はハードディスクに音楽や映像のデータを ファイルとして保存することも可能になってきましたが、 これも同様に私的使用を目的とするのであれば可能です。 しかし、そのファイルをウェブサイトにおいたりして 多くの人が利用できるような状態にすることは著作権の侵害となります。
DVDビデオではCSSと呼ばれる暗号化が行われており、 コピーコントロールドCD (CCCD)ではパソコンでは再生できないような プロテクションがかかっています。 またソフトウェアでもコピープロテクションがかかっているものがあります。 こういった仕組みを回避してコピーすることは著作権法に違反します. またそのようなツールを提供することは 不正競争防止法に照らして違法となります. さらに,たとえ私的使用が目的であっても, そのような回避手段によりコピー可能となったことを知りながらコピーした場合には 民事上の責任が発生します。よってこのような行為は行うべきではありません。 本学のコンピュータシステムではこのような違法となるおそれのある データを扱うことを禁じています。
ソフトウェアについては著作権の規定以外に利用許諾にも注意しなければなりません。 一般には商用のソフトウェアはコピーや再配布を禁じているものがほとんどですが、 フリーソフトウェアやオープンソースソフトウェアと呼ばれるソフトウェアは プログラムのソースコードが公開されており、利用許諾を守る限り自由にコピーした り配布したりすることができます(ただし何をしてもよいわけではありません)。 皆さんの使っているLinuxシステムのかなりの部分は このようなソフトウェアからできています。
このような利用許諾にはいくつかの種類がありますがその代表的なものが GPL (GNU General Public License)です。 これはソースコードの同時配布が義務付けられていますし、 勝手にライセンスを削って配布したりすることもできません。
著作物には複製権や公衆送信権などがありますので 著作者および著作権者の許可なく 勝手にウェブページで利用することは出来ません.
しかし著作権の制限として正当な範囲内での引用は認められています. 引用とは著作物の一部を報道,批評,研究などの目的のために 利用することであり,出処,著作者,著作権者を明示しなければなりません. 判例では引用は全体の20%以内が目安とされています. ここで注意しなければならないのは, 本文においてあくまでその引用に必然性がなければならず, また本文が主で引用は従でなければならないということです.
またさらにその著作物に人物の肖像が含まれる場合は, 肖像権やパブリシティ権(自分の肖像を経済的に利用する権利)を 侵害するおそれがありますので注意する必要があります.
ウェブページからは他のページにリンクを張ることができますが、 これは技術的にはリンク先のURLを記述しているだけですので、 リンク先のページをコピーしたりしていることにはならず、 たとえリンク先に「無断リンク禁止」と書いてあっても それだけで法的に問題になることはありません。 ただしモラルの問題としてリンクされた相手の気持ちを考えることは必要でしょう。
しかし、ページの一部である画像のみにリンクを張るようなことは、 その画像を実質的に複製しているとみなされたり、そのページに関する 同一性保持権を侵害しているとみなされたりする可能性がありますので 避けるべきです。
電子掲示板に情報を書き込むことは 情報を公衆に伝達可能な状態に置くことですので, 他人の著作物を利用する場合には許諾を得る必要があります.
また電子メールでは,少数の特定の人物の間で やりとりする場合には単なる通信にすぎませんが, ある程度の人数が参加しているメーリングリストでは公衆への送信と見なされて 著作権法上の権利が働くことになります.
最近,不特定多数の人たちの間でファイルを交換・共有する Winny, LimeWire, Kazaa, BitTorrentといったシステムが 広く使われています.このようなシステムは技術的には興味深く それ自体は違法ではありませんが, 現実にはWinnyのようなシステムでは 著作権者に許諾を得ていないコンテンツが交換されている 実態があり,これは著作権を侵害していることになります ので問題視されています. 一方でフリーソフトウェアのように自由な再配布が認められたものも 扱われていますが,この場合は問題ありません.BitTorrentなどは よく配布に利用されています.
このようにファイル交換ソフトウェアを使う場合は 交換するコンテンツが違法でないかどうかを 適切に判断できることが重要になります.