聖者ジルの伝説

聖者ジルの伝説　聖者ジル(=Saint-Gilles)の伝説

《雌鹿をつれたサン＝ジル》

雌鹿をつれた隠者
8世紀頃、聖ジル（サン＝ジル）はギリシアに住んでいたが、神の恩寵にあずかり、自分の財産を貧しい人々に分かち与え、小舟に乗り込み、波にまかせてブロヴァンスにたどり着いた。その地の洞窟に一人で暮らし、食べ物は一匹の雌鹿が運んでいた。ある日のこと、雌鹿は領主に追われ、主人のところに逃げて帰った。鹿に向けて狩人が放った矢を隠者が飛行中に止めてしまった。領主はこうした奇跡を行った人を尊敬するあまりに、その場所に大修道院を設立することにしたのであった。聖ジルはロ一マにおもむき、その設立を認可してもらった。教皇が彫刻の施された二つの門を贈ると、隠者はそれをテヴェレ川に投げ込んだ。すると、二つの門は海へ流れ下り、プチ・ローヌ川をさかのぼり、隠者と同時に洞窟に到着したのであった。

サン＝ジルの栄光(11世紀～12世紀）
聖ジルの墓の上に教会が建てられると、そこは熱烈な信仰の対象となった。サン＝ジャック＝デ＝コンポステラ（スペインの大巡礼地でヨーロッパ各地から巡礼が行われた）へ向かう四つの巡礼路の一つに沿っていたために、ますます盛んな巡礼地となった。教皇やトゥールーズ伯たちが、1066年以降クリュニーの教団に所属するベネディクト派のものとなっていたこの修道院を保護し援助したのである。11世紀の終わりには、サン＝ジルはレモン四世伯爵の大冒険の出発点であった。地域のいくつかの所領から始まって、レモン四世伯は広大な、西はカオールから東はコート・ダジュールのレラン諸島に及ぶ領土を作り上げた。1096年に、強大な力を持つ伯爵は教皇ウルバヌス二世をサン＝ジルに迎え、教皇が大修道院付属の新しい教会の祭壇を奉献すると、伯爵は聖地の再征服まで所領に戻らないで身を捧げると誓ったのであった。その結果、伯爵は聖地にトリポリ伯爵領を設立し、その地で死ぬことになった。12世紀になると、修道院はその絶頂期を迎えた。まわりの町には九つの教区があり、異常に繁宋した。十字軍の遠征がその盛運をもたらしたのであった。町の港では東方からの多量の商品が中継され、聖地への巡礼者や十字軍の兵士たちがそこから乗船し、サン＝ジルの人々はエルサレムのキリスト教国には特権を持った商館を所有していた。9月に開催されるサン＝ジルの定期市はおおいに繁盛した。この定期市は地中海の人々と北欧の人々との大交易地の一つであった。この繁栄も18世紀になると、とくにフランス国王の管轄下にあるエーグ＝モルトの港との競争に影響を受けて、衰えてしまった。
破門事件
アルビジョワ派の異端の危機がたかまると、レモン六世は教皇イノケンティウス三世から異端の民との闘いを勧告された。伯爵領の境界にあるサン＝ジルにおいて、教皇の使者ピエール＝ド＝カステルノーから教皇庁の要求を伝達されたのであった。この波乱ぶくみの会見の翌日、教皇の代表者は、ローヌ川を渡ろうとしているとき、伯爵の近習により暗殺されてしまった（1208年l月15日）。イノケンティウス三世はすぐにレモン六世を破門し、異端の制圧を説いた。破門されたレモン六世は服従し、1209年6月12日、サン＝ジル教会の正門の前に裸で姿を現し、教皇への服従を警った。首にストラ（襟垂帯）をかけられ、新たな教皇の使者がストラで彼を引き回し、激しく鞭打ちながら教会の中へと導いた。贖罪の苦行は地下礼拝堂のカステルノーの墓の前で行われ、伯爵は最後に解放され、罪は許されたのであった。この服従は長くは続かなかった。レモン六世はシモン・ド・モンフォールの率いるアルビジョワ十字軍の兵士に絶望的な闘いを挑み、1213年ミュレの闘いで敗死した。

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