フランス語の動詞tenirの意味

平塚 徹京都産業大学 外国語学部

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 フランス語の動詞tenirは、学習者にはなかなか理解しにくいようです。しかし、基本的な意味を押さえて、そこから他の使い方がどのようにできているかを整理すれば、理解するのは簡単です。

 tenirの基本的な意味は、「(手などに)…をつかんでいる」です。気をつけないといけないのは、「つかむ」ではなくて、「つかんでいる」だということです。つまり、「つかむ」という動作よりも、「つかんで持っている」という状態の方に重点があるということです。ですから、prendre(取る)やsaisir(つかむ)とは違うのです。「持っている」というとavoirもありますが、tenirは単に持っているのではなく、落ちないようにしっかりとつかんでいるという感じです。

 具体的に体のどの部分で持っているかをはっきりさせると、以下のようになります。

 また、人の体の一部分を握っている場合には、以下のようになります。

 次に、「落ちないようにしっかりとつかんでいる」というイメージから、色々な意味が出てきます。

 まず、何かをしっかりと守ったり、続けたりするという意味で、そこから、以下のようなコロケーションが出てきます。

店などを直接目的語に取ると「経営する」という意味になりますが、これも同じことです(例:tenir un restaurant)

 直接目的語が変わると、tenirの日本語訳も「守る」「つける」「経営する」とコロコロ変わりますが、何かを保ち続けるという意味は変わらないので、それが分かっていれば、それぞれの意味や和訳も理解できます。

 次に、《主語+動詞+直接目的語+属詞》という構文を取ると、「何かをある状態に保つ」という意味になります。

 この構文に基づく熟語としては、tenir … au courant(…に常に知らせておく)があります。これは、être au courant(知っている)をもとにした表現ですが、mettre … au courant(…に知らせる)とは違い、tenir … au courant だと逐次ずっと知らせ続けることになります。このこともtenirの基本的な意味に基づいています。

 また、《主語+動詞+直接目的語+属詞》の属詞の部分に前置詞pour(〜として)をつけた tenir … pour … は、「…を…として保つ」ということから、「…を…と見なす」という熟語になります。

 代名動詞にして、《se tenir 属詞》とすれば、「自分を…の状態に保つ」ということから、「これこれの姿勢・態度を取っている」という意味になります。よく出てくるのがse tenir debout(立っている)です。これは、se lever(立ち上がる)とはっきりと区別しなければならない表現ですが、ここまでの説明から違いは明らかです。

 ここまでは、直接目的語があって、「…を保つ」という基本的意味でまとめることができますが、直接目的語が無い用法もあります。

 その中でも、tenir à … というのがよく使われますが、「…に執着する」という意味です。これもしっかりとつかんでいるという基本的な意味から、何かにこだわってしがみついているイメージを経て出てきている用法です。前置詞 à の後に名詞ではく不定詞が来て、《tenir à 不定詞》となると、「なんとしても…したがる」という意味になります。

 それから、物が落ちたり外れたりしないでしっかり付いているとか、何かがダメにならずに長持ちするといった意味もありますが、これもしっかりとつかんでいるという基本的な意味から出てきている意味です。

 また、tenir bon(我慢して頑張る)という熟語もよく使われますが、これも何かに必死につかまっているイメージがもとです。

 この他にもパターンはまだありますが、上述の説明と同じように考えていけば、理解は難しくありません。



©平塚徹(京都産業大学 外国語学部)

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