京都産業大学外国語学部では、英語・ドイツ語・フランス語・スペイン語・イタリア語・ロシア語・中国語・韓国語・インドネシア語を専門的に学ぶことができます。
日本のマンガでは、静けさを表すのに「シーン」と言うオノマトペが用いられる。これは、手塚治虫が使い始めた手法と言われている。また、厳かで静かであることを意味する「森 」が元になっているとも言われている。
「シーン」は、無音を音で表すという一見矛盾したオノマトペのように思われる。静けさは音がないことだとすると、それを「シーン」と言う音で写す理由はないことになる。しかし、これは本当だろうか。「シーン」と言う音と静けさには何の関係もないのだろうか。
ここで、この問題を考えるためのヒントがひとつある。日本語では誰かに静かにしろという意味で「しー」と言うことがある。しかし、実は色々な言語で、静かにしろという意味で「シー」と似たような音声を使うのである。
いずれも日本語の「シ」と類似した子音で始まっている。そうすると、このような子音は、言語の違いを超えて、静かにすることと結び付けられていると考えられる。これはなぜだろうか。
ここで、「静けさ」とは本当に「無音」すなわち音がないことなのかと問うてみる。一見、禅問答のように聞こえるかもしれないが、そうではない。実際には、どんなに静かであっても、色々な微細な雑音が存在している。これらの雑音はランダムに起きていて、それらが重なると所謂ホワイトノイズのような音になるだろう。そのような音に近い言語音は、sh [ʃ] のような摩擦音である。また、このような摩擦音の口の構えは母音の[i]に近いので、母音をつけるなら[i]にするのが自然である。これに当てはまる日本語の音を考えるなら「シ」になる。これを日本語のオノマトペでよく見られる「カーン」「ゴーン」「チーン」「ドーン」「パーン」のような「〇ーン」と言うパターンに当てはめれば、「シーン」となる。
以上より、日本語のオノマトペ「シーン」は、特に目立った音がしていない時にのみ微かに感知されうるランダムで微細な雑音の集合体全体を写し取ったものではないかと考えられる。
©平塚徹(京都産業大学 外国語学部)
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