英語とフランス語の基本文型

平塚 徹京都産業大学 外国語学部

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 フランス語の基本6文型は英語の基本5文型はよく似ています。実際、一見、以下の表のような対応になっているように見えます。

英仏語基本文型の見かけの対応関係
英語の基本5文型フランス語の基本6文型
SVS+V
SVCS+V+A
SVOS+V+OD
S+V+OI
SVOOS+V+OD+OI
SVOCS+V+OD+A

このため、英語とフランス語の基本文型は同じようなものだと思う人や、違いが分からない人が多いようです。しかし、実は両者には決定的に違うところがあります。

 最初に、根本的な相違点を述べます。英語の基本5文型では、前置詞つきの名詞句を「修飾語」(M)として除外します。それに対して、フランス語の文型では、前置詞つきの名詞句でも、動詞に要求されているものは間接目的語(OI)として目的語に含めます。また、英語の文型は、目的語や補語(C)をどのような順番に並べるかを決めるものです。それに対して、フランス語の文型は、動詞がどのような目的語や属詞(A)を取るかを決めるもので、語順は英語のように厳密ではありません。

英仏語基本文型の根本的な違い
前置詞付きの名詞句文型の役割
英語の基本5文型「修飾語」(M)として除外語順を決める
フランス語の基本6文型「間接目的語」(OI)になる場合がある動詞が取る要素を決める

 以下、具体的に見ていきます。

 英語とフランス語の文型で一番違うのは、フランス語の方にはS+V+O Iがあるということです。例えば、以下のような文です。

(1) Jean a téléphoné à Marie.(ジャンはマリに電話した)

フランス語ではà Marie(マリに)を間接目的語として文型に含めて考えています。英語だと、前置詞がついているので、修飾語として除外されます。ですから、SVになります。フランス語でà Marieを目的語と考えるのは、間接目的語代名詞にして、Jean lui a téléphoné.(ジャンは彼女に電話した)とできるからです。dépendre de 〜(〜次第だ)の de 〜 も代名詞enになるので、間接目的語だと考えることもあります。フランス語においては前置詞àとdeは縮約をするなど特別なものと考えられています。さらに他の前置詞の場合でも、間接目的語に含める考え方もあります。例えば、Jean compte sur Marie.(ジャンはマリを頼りにしている)のsur Marieのようなものです。このように間接目的語を取る動詞を「間接他動詞」と呼んでいます。これも、英文法にはない概念です。しかし、例えば、Les enfants jouent dans le Jardin.(子供達は庭で遊んでいる)のdans le jardin(庭で)は動詞が要求しているものではなく、Les enfants jouent(子供達は遊んでいる)という出来事が起きている場所を示す状況補語なので、間接目的語とは考えません。ただし、間接目的語の範囲を広げていくと、状況補語との区別がはっきりしなくなります。

 次に違うのは、英語のSVOOとフランス語のS+V+OD+O Iです。一見、似たような構文ですが、かなり違います。英語のSVOOは、例えば次のような文です。

(2) Mary gave Paul this book. (メアリーはポールにこの本をあげた)

ここで重要なのは、Paul(ポール)に前置詞がついていないことです。上述の通り、英語では前置詞つきの名詞句は修飾語として除外して考えます。ですから、前置詞つきの名詞句は文型には出てきません。英語のSVOOは、動詞の後に前置詞なしの名詞句を二つ並べると、一つ目が間接目的語(IO)、二つ目が直接目的語(DO)になるという構文なのです。また、英語の構文では語順が重要です。ですから、二つの目的語を入れ替えることはできません(文頭の*は文が非文法的であることを表しています)。

(3) *Mary gave this book Paul.

他方、(2)と似た文に次のようなものもあります。

(4) Mary gave this book to Paul.(メアリーはこの本をポールにあげた)

しかし、この文では、Paulに前置詞toがついているので、修飾語として除外して考えます。よって、(4)はSVOです。また、OはVの直後にないといけないので、語順を入れ替えることはできません。

(5) *Mary gave to Paul this book.

他方、フランス語のS+V+OD+O Iは、次のような文です。

(6) Marie a donné ce livre à Paul.(マリーはこの本をポールにあげた)

英語の(4)と同じような文ですが、à Paul(ポールに)は間接目的語として扱います。また、英語と違って、語順を入れ替えることも可能です。

(7) Marie a donné à Paul ce livre.

しかし、英語のように前置詞なしの目的語を二つ並べることはフランス語ではできません。ですから、英語の(2)のような文はフランス語では非文法的です。

(8) *Marie a donné Paul ce livre.

もちろん、語順を変えても非文法的です。

(9) *Marie a donné ce livre Paul.

S+V+OIの場合と同様に、前置詞à以外の前置詞がついた名詞句も間接目的語に含める考え方もあります。しかし、色々な前置詞を含めていくと、やはり、どこまでが間接目的語なのかはっきりしなくなります。同じ「間接目的語」という用語を用いていますが、英語の「間接目的語」はSVOOの一つ目の前置詞なしの目的語で、フランス語の「間接目的語」は前置詞つきの目的語です。

 英語のSVOCとフランス語のS+V+O+Aはほぼ対応していますが、細かいことをいうと、英語と違ってフランス語はOとAの語順が逆になることがあります。

(10) Il a jugé nécessaire de partir.(彼は出発することが必要だと判断した)

ここでは、de partir(出発すること)が直接目的語です(前置詞deがついていますが、これは不定詞partir(出発する)を名詞として使用するためのものなので、間接目的語にはなりません)。そして、属詞はnécessaire(必要な)なのですが、動詞と直接目的語の間に来ています。つまり、S+V+A+ODという語順になっています。直接目的語がde不定詞やque節は文末に置くので、この語順になるのです。(10)に対応する英語を考えてみましょう。

(11) He deemed it necessary to leave.(彼は出発することが必要だと判断した)

英語でもto不定詞やthat節は文末に来るので、to leave(出発すること)が最後に来ています。そのため、補語のnecessaryはその前に来ます。このままだと、SVCOの語順になってしまいます。しかし、英語ではこのような場合、形式目的語のitが現れるのです。これがあると、SVOCの語順が維持されます。ここまでして英語はSVOCの語順を守っているのです。しかし、フランス語は語順を守る必要がないので、英語のような形式目的語はありません。このように、英語のSVOCはOとCの語順を決めていますが、フランス語のS+V+OD+Aは動詞がODとAを取ることを決めているのです。

 ここで英語とフランス語の文型の対応をまとめ直すと、以下の表の方がまだ適切なのではないかと思われます。

英仏語基本文型の対応関係
英語の基本5文型フランス語の基本6文型
SVS+V
S+V+OI
SVCS+V+A
SVOS+V+OD
S+V+OI
SVOO
SVOCS+V+OD+A

 具体的に両言語の基本構文の違いを説明してきましたが、このような違いの根本は冒頭で述べた通りです。英語では、前置詞つきの名詞句を「修飾語」として除外するのに対して、フランス語では、前置詞つきの名詞句でも目的語に含めます。また、英語の文型は、目的語や補語の語順を決めるものであるのに対して、フランス語の文型は、動詞がどのような目的語や属詞を取るかを決めるものです。

英仏語基本文型の根本的な違い
前置詞付きの名詞句文型の役割
英語の基本5文型「修飾語」(M)として除外語順を決める
フランス語の基本6文型「間接目的語」(OI)になる場合がある動詞が取る要素を決める



©平塚徹(京都産業大学 外国語学部)

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