最上級の複数は何を意味するか?

平塚 徹(京都産業大学)


 翻訳調の文体をパロディー化した「永遠のジャック&ベティ」(清水義範作)という短編があります。かつて中学校で使われていた英語の教科書の登場人物だったジャックとベティが偶然久しぶりに出会うのですが、なぜか、中学時代と同じ言葉遣いしかできなくなってしまうという設定です。二人は、おかしな言葉遣いのせいで上手く会話ができず、苦し紛れに色々なことをしゃべりますが、その中で以下のようなくだりがあります。

 「私は今までにこんな暑い日を知りません」
 「今日は今まででもっとも暑い日のひとつです」
 「リンカーンは世界史上もっとも偉大な人のひとりです」
 「あなたはアメリカ中でもっとも美しい女性のひとりです」
 「それは私が聞いた中でもっとも見えすいたお世辞のひとつです」
 ○○の中でもっとも××なひとつです、も行き詰まってきた。

 清水義範がパロディー化していることからも分かるとおり、「○○の中でもっとも××なもののひとつです」は、翻訳調の文体にしか出てこない、非常に不自然な日本語です。しかし、この言い回しが不自然なのは、単に、日本語ではそのような言い方をしないというだけの問題なのでしょうか。

 日本語で「もっとも××なもののひとつ」が不自然なのは、「もっとも××な」という部分で一番だと言っておきながら、「その中のひとつ」と言うと、一番だということを否定しているように感じられるからでしょう。勿論、一番のものが複数個あれば矛盾しないのですが、一位タイはそれほど頻繁に起こることではありません。

 それでは、英語では、なぜ、≪one of the most 〜≫のような言い方が可能なのでしょうか。問題は、最上級の複数にあるように思われます。そもそも一番のものが複数個あるのでしょうか。

 例えば、≪the three largest countries in the world≫という言い方を考えてみましょう。この場合、事実と照らし合わせて考えると、世界で一番大きな国が三つあるわけではないことは明らかです。この表現が指しているのは、世界で一番大きい国と、二番目に大きい国と、三番目に大きい国です。つまり、国を大きさでランキングした場合の、上位三カ国を指しているのです。

 ということは、最上級の複数は、一番のものだけを指しているわけではなく、上位グループを指しているということになります。そうすると、≪one of the most 〜≫という表現も、一番のものの一つということではなく、上位グループに入っているものの一つを意味しているわけです。このようなわけで、「もっとも××なもののひとつ」という表現は不自然なのに、≪one of the most 〜≫という表現は不自然でないのです。

 実は、同じことは、first についても言えます。≪the first 複数名詞≫は、最初のものだけを指しているのではなくて、最初の方のグループを指しているのです。ですから、≪one of the first 複数名詞≫も、「最初の××の一つ」ではなくて、「初期の××の一つ」なのです。last についても同じです。

 本来、唯一物を指すように思われる表現が、複数のものもさせるという意味では、alone も少し面白い言葉です。alone は「ただひとりの」などと訳したりします。しかし、≪We are not alone.≫という文はどうでしょうか。これは、スピルバーグ監督の地球外知的生命体を扱ったSF映画「未知との遭遇」の宣伝コピーですが、「我々はひとりではない」とは訳せません。この文の意味は、宇宙にいるのは、我々人類だけではないという意味です。alone はついつい一つのもだけを指すように思ってしまうのですが、複数のものでも、それが孤立していれば使えるのです。


 ≪the second largest country in the world ≫「世界で2番目に大きな国」とか≪the third largest country in the world ≫「世界で3番目に大きな国」という言い方にも最上級が現れているのは、面白いです。つまり、これらの国も、≪the largest countries in the world ≫に含まれているわけです。


 最上級の複数形はフランス語でもよく出てきますが、やはり、同じ意味です。例えば、次の文書を見てください。

Il [ = le Japon] ne possède pas d'armée offensive, n'a pas obtenu " encore" de siège au conseil de sécurité de l'ONU et l'on dit de lui qu'il est un nain diplomatique. Mais il faut savoir que l'armée dite d'Auto-Défense est l'une des plus puissantes au monde : la troisième, peut-être même la seconde.
(OVNI No574, 1er oct. 2005, p.16)

「「自衛隊」と呼ばれる軍隊は世界でもっとも強力なものの一つだ」と言っているのですが、その後に、「3番目、もしかしたら2番目かもしれない」と言っています。つまり、「もっとも××なもののひとつ」であることと、2番目や3番目であることは矛盾しないのです。つまり、フランス語でも、最上級の複数形は、上位グループを指しているのです。


 「フランスの最も美しい村」はいくつあるでしょうか。答は、151個です(2007年10月8日現在)。実は、NHKの番組にもなっていますが、「フランスの最も美しい村」というが選定されているのです。フランス語では、Les plus beaux villages de France というのですが、最上級の複数形です。最上級で指されるものが、百数十個もあるのです。