京都産業大学外国語学部では、英語・ドイツ語・フランス語・スペイン語・イタリア語・ロシア語・中国語・韓国語・インドネシア語を専門的に学ぶことができます。
英語では≪one of the most 〜≫のような言い方をよくします。それに対して、日本語の「最も〜なもののひとつ」はよく考えるとおかしな言い方です。というのも、「最も〜な」という部分で一番だと言っておきながら、「その中のひとつ」と言うと、一番だということを否定しているように感じられるからです。もちろん、一番のものが複数個あれば矛盾しないのですが、一位タイはそれほど頻繁に起こることではありません。
それでは、英語では、なぜ、≪one of the most 〜≫のような言い方をよくするのでしょうか。問題は、最上級の複数にあります。そもそも一番のものが複数個あるのでしょうか。
例えば、≪the three largest countries in the world≫という言い方を考えてみましょう。この場合、事実と照らし合わせて考えると、世界で一番大きな国が三つあるわけではないことは明らかです。この表現が指しているのは、世界で一番大きい国と、二番目に大きい国と、三番目に大きい国です。つまり、国を大きさでランキングした場合の、上位三カ国を指しているのです。
≪the second largest country in the world ≫「世界で2番目に大きな国」とか≪the third largest country in the world ≫「世界で3番目に大きな国」という言い方に最上級が現れているのも、これらの国が≪the largest countries in the world ≫に含まれていることを示しています。
ということは、最上級の複数は、一番のものだけを指しているわけではなく、上位グループを指しているということなのです。よって、≪one of the most 〜≫という表現も、一番のものの一つということではなく、上位グループに入っているものの一つを意味しているわけです。このようなわけで、「最も〜なもののひとつ」という日本語はおかしいのですが、≪one of the most 〜≫という英語は極めて自然なのです。
実は、同じことは、first についても言えます。≪the first 複数名詞≫は、最初のものだけを指しているのではなくて、最初の方のグループを指しているのです。ですから、≪one of the first 複数名詞≫も、「最初の◯◯の一つ」ではなくて、「初期の◯◯の一つ」なのです。last についても同じです。
本来、唯一物を指すように思われる表現が、複数のものもさせるという意味では、alone も面白い言葉です。alone は「ただひとりの」などと訳したりします。しかし、≪We are not alone.≫という文はどうでしょうか。これは、スピルバーグ監督の地球外知的生命体を扱ったSF映画『未知との遭遇』の宣伝コピーですが、「我々はひとりではない」とは訳せません。この文の意味は、宇宙にいるのは、我々人類だけではないという意味です。alone はついつい一つのものだけを指すように思ってしまうのですが、複数のものでも、それが孤立していれば使えるのです。
©平塚徹(京都産業大学 外国語学部)
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