京都産業大学外国語学部では、英語・ドイツ語・フランス語・スペイン語・イタリア語・ロシア語・中国語・韓国語・インドネシア語を専門的に学ぶことができます。
「パリャヌィツャ」というのは、ウクライナのパンです。丸くて大きな切れ目の入っています。この「パリャヌィツャ」(паляниця)という言葉は、ロシアのウクライナ侵攻後、ロシアの破壊工作員などを見分けるのに使われていると言われています。ロシア人にこの言葉を言わせると、「パリニツァ」のようになってしまいます。特に「ツャ」(ця)という発音はロシア語にはなく、「ツァ」(ца)になっていまします*。これは、ウクライナ語とロシア語の発音の違いの一つです。
小学館『プログレッシブロシア語辞典』(物書堂アプリ版)で、цаを含む語を検索すると、1050ヒットします。
それに対して、цяを含む語はヒットしません。
このように発音させて相手の所属集団を見破るための言葉を英語でシボレス(shibboleth)と言います。この名称は旧約聖書に由来します。士師記12章に、ギルアド人がエフライム人を見分けるのに、「シボレト」という言葉を言わせたとあります。エフライム人の言葉にはshの音がなく、「スィボレト」と言うので正体がバレたのです。
シボレスは世界のさまざまな地域においてさまざまな時代に使われてきました。人にとって自分の母語にない発音がとても難しいことをよく示しています。
*スラブ語学の言い方をすると、цはウクライナ語では硬子音にも軟子音にもなるが、ロシア語では硬子音であって軟子音にはならないということになります。
©平塚徹(京都産業大学 外国語学部)
京都産業大学外国語学部では、英語・ドイツ語・フランス語・スペイン語・イタリア語・ロシア語・中国語・韓国語・インドネシア語を専門的に学ぶことができます。