ウクライナ語は女 ロシア語は男

平塚 徹京都産業大学 外国語学部

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 ウィキペディアの「ウクライナ語」の記事に、ロシア語公用語化反対論者による風刺画として以下の絵が掲載されています。


出典:Wikipedia
ファイル:Discrimination of Ukrainian language.jpg
著作権者:Громадянський рух "Відсіч" (Оксана Федько)
ライセンス:CC BY 3.0
リンク:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Discrimination_of_Ukrainian_language.jpg

 大男のロシア語が少女のウクライナ語に「嬢ちゃん退いてくれよ。アンタ、俺のこと圧してるんだよ」とロシア語で言っています。ロシア語が男で、ウクライナ語が女なのはなぜでしょうか。これには言語上の理由があります。

 ロシア語も、ウクライナ語も、他の多くのヨーロッパの言語と同じく、名詞に性があります。ロシア語やウクライナ語の場合は、名詞は男性名詞・女性名詞・中性名詞に分かれます。

 名詞に性のある言語ではよくあることですが、名詞が指しているものを擬人化する際には、基本的にその名詞の文法上の性に従って性別が決まります。例えば、イタリア語・スペイン語・フランス語などのロマンス諸語では、「死」は女性名詞、「時」は男性名詞です。そのため、「死」は大鎌を持った骸骨の女性として、「時」は大鎌と砂時計を持ち翼がある年老いた男性として擬人化されます。しかし、ドイツ語などのゲルマン諸語では「死」は男性名詞なので、しばしば大鎌を持った男性として擬人化されます。

 ロシア語で「言語」はязык[イズィーク]と言いますが、これは男性名詞です。それに対して、ウクライナ語では「言語」はмова[モーヴァ]と言って、女性名詞です。これらの言葉は、二人の着ているシャツに書いてあります。

「言語」を意味する言葉とその性
ロシア語язык[イズィーク]男性名詞
ウクライナ語мова[モーヴァ]女性名詞

 擬人化する際には、通常、名詞の性に従います。そのため、ロシア語は男として、ウクライナ語は女として描かれているのです。この風刺画では、同じ「言語」を意味する言葉の二つの言語での性の違いを反映したものになっています。



©平塚徹(京都産業大学 外国語学部)

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