nの字のリエゾン

平塚 徹京都産業大学 外国語学部

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 フランス語の初級でリエゾンについて教えていると、nの字の場合のリエゾンについて疑問を持つ学生が少なからずいるようです。

 リエゾンというのは、一応、「本来は発音されない語末の子音字を、母音字および無音のhで始まる語の前で発音すること」と定義されています。例えば、不定冠詞の des は、語末のsの字は読まないわけですが、des amis という風に母音字aで始まる語が次に来ると、読まなかったはずのsを[z]と読みます。

 ところが、nの字のリエゾンの場合には、この説明だとおかしいと思う人がかなりいるようです。例えば、不定冠詞の un で考えてみましょう。例えば、un ami と言った場合、nの字をリエゾンして[n]と発音します。しかし、un 全体で一つの鼻母音を表しているわけですから、nの字はもとから読んでいるとも言えます。そうすると、「もとから読んでいる字を発音しろ」と言うことになり、納得がいかないと言うわけです。

 そこで、納得が行かない人のために、リエゾンの定義を少し変えてみましょう。どう変えるかというと、「発音する」を「子音として発音する」に変えるのです。そうすると、リエゾンの定義は次のようになります。

 「本来は子音として発音されない語末の子音字を、母音字および無音のhで始まる語の前で子音として発音すること」

 この定義を、un ami に適応してみましょう。不定冠詞 un の語末のnは、確かにもとから読んでいると言えるかもしれません。しかし、鼻母音は母音ですから、nの字は子音としては読まれていないことになります。次に母音字が来ると、本来は子音字として発音されないnの字を子音として発音するわけですから、その結果、[n]という音が出てくるのです。これなら、筋が通っています。

 一般的に言って、リエゾンというのは、しばしば母音衝突を避けるように行うわけですから、子音が出てこないと意味がないわけです。ですから、「発音する」かどうかではなく、「子音として発音する」かどうかが問題になるわけです。例えば、不定冠詞 un の語末の子音字は読んでいるからと言ってリエゾンしなければ、母音が2つ連続してしまいます。リエゾンのこのような働きを理解すれば、「子音として発音する」かどうかが重要だと言うことにより納得がいくでしょう。



©平塚徹(京都産業大学 外国語学部)

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