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ウクライナの首都キーウは、以前はロシア語での名称に基づいて「キエフ」と呼ばれていました。しかし、現在はウクライナ語での名称に基づいて「キーウ」と呼ばれています。この「キーウ」あるいは「キエフ」という名称ですが、町の伝説上の創始者キーに由来すると言われています。ただ、これは伝説に過ぎないようで、本当の語源についてははっきりしません。しかし、ここでは、一旦、この民間語源説を前提にして話を進めます。
先ずはロシア語の「キエフ」を見てみます。これは伝説の人物の名前「キー」に「エフ」(-ev)をつけたものだと考えられます。この「エフ」と言うのは、人名に付けて「誰々の」という意味の所有形容詞を作る接尾辞です。そうすると、「キエフ」は「キーの」と言う意味になります。この後に「町」が省略されていると考えると、「キーの町」という意味です。
接尾辞「エフ」ですが、特に「誰々の息子」という意味合いから、ロシア人の姓にも使われています。日本人にも馴染みのある例を挙げてみます。
ツルゲーネフ | 有名な作家 |
ブレジネフ | ソビエト連邦の政治家 |
プロコフィエフ | 有名な作曲家 |
メドベージェフ | ロシア大統領も務めた政治家 |
メンデレーエフ | 元素周期律表で有名な化学者 |
この「エフ」は、元になる人名の最後の音に応じて、「オフ」(-ov)にもなります。例えば、以下のような例があります。
カラマーゾフ | ドストエフスキーの小説『カラマーゾフの兄弟』に出てくる一家 |
チェーホフ | 有名な劇作家 |
パブロフ | 「パブロフの犬」で有名な生物学者 |
モロゾフ | 洋菓子メーカーのモロゾフの創業家 |
ラブロフ | ロシアの外務大臣 |
さて、この「エフ」や「オフ」ですが、ウクライナ語では「イウ」(-iv)になります。ですから、「キエフ」はウクライナ語では「キーウ」となるのです。実は、ウクライナには、「キエフ」以外にもロシア語で「エフ」や「オフ」で終わる都市名が結構あります。これらも、ウクライナ語ではやはり「イウ」で終わります。そのため、これらの都市は日本でも呼び方が変わりました。代表的な例を挙げると、以下の通りです。カタカナ表記は色々あり得るのですが、以下では新聞でよく見る表記にしています。新聞では日本語として読みやすい表記になっています。
ウクライナ語に基づく表記 | ロシア語に基づく表記 |
キーウ | キエフ |
ミコライウ | ニコラエフ |
ハルキウ | ハリコフ |
リビウ | リボフ |
チェルニヒウ | チェルニゴフ |
ところで、冒頭で断った通り、キーウは町の創設者の名前に由来すると言うのは伝説に過ぎないようです。他の都市名についても語源は必ずしもはっきりしていません。しかし、ウクライナ語で「エフ」や「オフ」が「イウ」に変わるという変化は純粋に音に基づいて起きたものです。ですから、語源に関係なく、ロシア語の「エフ」や「オフ」はウクライナ語の「イウ」になるのです。このような音の変化を知っていると、都市名のウクライナ語とロシア語の間での都市名の対応関係が分かりやすいです。
付録:「イウ」と「エフ・オフ」が対応する都市名の英語表記と原語表記
ウクライナ語に基づく表記 | ロシア語に基づく表記 |
Kyiv | Kiev |
Mykolaiv | Nikolaev (Nikolayev) |
Kharkiv | Kharkov |
Lviv | Lvov |
Chernihiv | Chernigov |
ウクライナ語 | ロシア語 |
Київ | Киев |
Миколаїв | Николаев |
Харків | Харькoв |
Львів | Львов |
Чернігів | Чернигов |
©平塚徹(京都産業大学 外国語学部)
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