フランス語とドイツ語の前舌円唇母音

平塚 徹京都産業大学 外国語学部

京都産業大学外国語学部では、英語ドイツ語フランス語スペイン語イタリア語ロシア語中国語韓国語インドネシア語を専門的に学ぶことができます。


 フランス語やドイツ語を勉強すると,前舌円唇母音という母音が出てきます。例えば,発音記号の[ø]で表される母音は,舌は[e]の位置で,唇は[o]のように丸める前舌円唇母音です。この母音は,両方の言語で使われている母音です。ところが,この[ø]は,フランス語とドイツ語で音質が異なっているように思われます。

 例えば,フランス語の単語 deux「2」は前舌円唇母音[ø]を含んでいますが,un, deux, trois「1,2,3」を日本語で「アン・ドゥ・トロワ」と言うように,フランス語の[ø]は日本人の耳には「ウ」に近い音として感じられているようです。

 他方,ドイツの詩人・劇作家・小説家 Goethe の名前にも,前舌円唇母音[ø]が含まれていますが,「ゲーテ」という音訳から見ても,ドイツ語の[ø]は日本人の耳には「エ」に近い音として感じられているようです。

 この違いは,音響音声学的にも裏付けられます。M.シュービゲル著・小泉保訳『新版 音声学入門』(大修館書店)の訳注24を見ると,B.マルムベリの資料に基づいて,フランス語の方がドイツ語に比べて,前舌円唇母音の第2フォルマントが低めになっていることが指摘されています。つまり,フランス語とドイツ語の前舌円唇母音を比べると,フランス語の方が後舌円唇母音に,ドイツ語の方が前舌非円唇母音に近いのです。ですから,日本人には,フランス語の[ø]は「ウ」に近く感じられるのに,ドイツ語の[ø]は「エ」に近く感じられても不思議ではないのです。

 それにしても,同じ発音記号を使いながらも,個別言語によってこのような微妙な違いがあるのは,やっかいなことです。



©平塚徹(京都産業大学 外国語学部)

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