『葬送のフリーレン』のドイツ語

平塚 徹京都産業大学 外国語学部

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 『葬送のフリーレン』に出てくる人名や地名のほとんどはドイツ語が使われている。ドイツ語は「かっこいい」というイメージがあって『銀河英雄伝説』でも多用されている。しかし、プリキュアの名前は英語やフランス語などが使われているのに対して、ドイツ語は使われておらず、「重厚」なイメージが合わないと考えられていると想像される。それに対して、『葬送のフリーレン』のファンタジーの世界観にはドイツ語は相応しいと考えられたのであろう。ところが、主人公のフリーレンと準主人公のフェルンの名前の音は、プリキュア名によくあるパターンに合致している。プリキュア名の「キュア」に続く語は、両唇音で始まるものが多く、ラ行音が多いが(「プリキュア名は何語?」)、「フリーレン」と「フェルン」も両唇音で始まり、ラ行音を含んでいる。この二人の名前は可愛らしさや透明感が感じられる音になっていると考えることができる。

 以下は、『葬送のフリーレン』および短編小説『奏送』に出てくる外国語の語源を推定し、コメントをつけたものである。

アイスベルク[帝都]
Eisberg(氷山)。英語icebergと同語源。
アイゼン
Eisen(鉄)。英語のiron(鉄)と同語源。「アイゼン」は登山靴の底に着用する鉄製の滑り止めの意味で日本語にも借用されている。
※身体の頑丈さからのネーミングだろう。
アインザーム【幻影鬼】
einsam(孤独な)。
※類義の名前に「ソリテール」があるが、こちらはフランス語。
アウラ
Aura(オーラ)。日本語の「オーラ」のもとになった英語のaura(オーラ)と同語源。
アオフガーベ連峰
Aufgabe(任務・使命)。極秘任務を負った人物が登場することからのネーミングだろう。
アペティート地方
Appetit(食欲)。英語のappetite(食欲)。
※シュタルクが誕生日で大きなハンバーグを食べたことから連想した名称か。
アルト森林
alt(年取った・古い)。英語のold(古い・年取った)と同語源。
アルメー伯
Armee(軍隊)。英語のarmy(軍隊)と同語源。
※長年にわたって魔族と戦って領地を守ってきた一族であることからのネーミングか。
アンデラー式結界理論
anderer(別の・他の)。英語のother(別の・他の)と同語源。
ヴァール(城塞都市)
Wahl(選択)。
ヴァールハイト
Wahrheit(真実)。
ヴァイゼ(城塞都市)
→ヴァイゼ地方
ヴァイゼ地方
weise(賢い)。英語のwise(賢い)と同語源。
※賢いデンケンの出身地だからか。同音同綴のWeise(やり方)は意図していないだろう。
ヴァルム(交易都市)
warm(あたたかい)。英語のwarm(あたたかい)と同語源。
ヴィアベル
Wirbel(渦)。英語のwhirl(回転)と同語源。
ヴィッセン山脈
wissen(知っている)。
ヴィルト
wild(野生の)。英語のwild(野生の)と同語源。
ヴィレ地方
Wille(意志)。英語のwill(意志)と同語源。
エーヴィヒ
ewig(永遠の)。
※死者の蘇生や不死の魔法を研究していたとされることからのネーミングか。
エーデル
edel(高貴な)。
エーラ流星【半世紀流星】
Ära(時代)。英語のera(時代)。
※50年に一度降るという時代区分となるような流星だからだろう。
エーレ
Ehre(名誉)。
※魔法学校を主席で卒業したことからのネーミングか。
エトヴァス山
etwas(何か)。
エルンスト地方
ernst(まじめな)。英語のearnest(まじめな)と同語源
エング街道
eng(狭い)。
※「狭い街道」という趣旨か。
エンデ
Ende(終わり・端)。英語のend(終わり・端)と同語源。
※北の果てにあることからのネーミングだろう。
オイサースト
äußerst(極限の)。地図ではäのウムラウトが省略されてAußerstと表記されている。
※北側諸国最大の魔法都市であることを表すネーミングだろう。
オッフェン群峰
offen(開いている)。英語のopen(開いている)と同語源。
オルデン卿
Orden(勲章)。
※名誉ある家系を思わせるネーミングか。
オレオール【魂の眠る地】
フランス語のauréole(光背・暈)。ドイツ語ならAureole「アオレオーレ」となるところ。
ガーベル
Gabel(フォーク)。
ガイゼル【屍誘鳥】
Geisel(人質)。
カステン[辺境]
箱。辺境に左遷されて長年門番の仕事をしているという話から、箱に閉じ込められているさまを連想したか。
カノーネ
Kanone(大砲)。英語のcannon(大砲)と同語源。
カペッレ地方《奏送》
Kapelle(礼拝堂・楽団)。
※『奏送』は音楽をテーマとしているので、「楽団」の意味を意図していると考えられる。
カンネ
Kanne(水差し)。英語のcan(缶・入れ物)と同語源。
※魔法で水を操るところからのネーミングか。
カンム一族
Kamm(くし)。英語のcomb(くし)と同語源。
キーゼル
Kiesel(小石)。
キーノ峠
Kino(映画館)。「シネマ」と語源的に関係あり。
キュール地方
kühl(涼しい)。英語のcool(涼しい)と同語源。
クヴァール
Qual(苦痛)。
クラー地方
klar(澄んだ)。英語のclear(透明な)と同語源。
グラオザーム
grausam(残酷な)。英語のgruesome(ぞっとする)に対応。
グラナト伯爵
Granat(ガーネット)。英語のgarmet(ガーネット)。
※ドイツ語で伯爵を意味するのGrafと似た語を選んだか?
クラフト
Kraft(力)。英語のcraft(技能・工芸)と同語源。
※強そうだからか。
グランツ海峡
Glanz(輝き)。地図ではGranzと表記されているが、この綴りの語はドイツ語には見当たらない。語頭のgl-は光をイメージさせる音である。例えば、英語のglare・gleam・glimmer・glisten・glitter・glowなど。
グリュック
Glück(幸運)。
※皮肉によるネーミングか。
グレーセ森林
Größe(大きさ)。英語のgreat(大きい・偉大な)と同語源のgroß(大きい)の名詞形。
クレ地方
Klee(クローバー)。しかし、この語のカタカナ表記は「クレー」。あえて短音化したか(「ティタン」参照)。ドイツ語以外なら、「クレ」というカタカナ表記になる言葉としてはフランス語のclé/clef(鍵)がある。
グローブ盆地
grob(粗い)。地図ではGrobeとなっている。発音は「グロープ」の方が正確。
ゲーエン
gehen(行く)。英語のgo(行く)と同語源。
トーア大渓谷を行き来するための橋を作ったドワーフの名前だからだろう。
ゲナウ
genau(正確な)。
※厳格な試験官ということか。
コリドーア湖
Korridor(廊下)。英語のcorridor(廊下)。
※北側に行くのに渡る通路になっている湖だからだろう。
ザイン
Sein(存在)。あるいは、sein(彼の・それの)か。
ザオム湿原
Saum(裾・縁)。
ザンフト大森林
sanft(穏やかだ・柔らかい)。英語のsoft(柔らかい)と同語源。
シャルフ
scharf(鋭い)。英語のsharp(鋭い)と同語源。
※花弁を鋼鉄に変える魔法を使うところからのネーミングか。
シュヴェア山脈
schwer(重い・難しい)。
※険しくて超えるのが困難な山脈ということだろう。
シュタルク
stark(強い)。英語のstark(荒涼とした・厳しい)と同語源。
※臆病だが強くあろうとしていることからのネーミングだろう。
シュティレ【隕鉄鳥】
Stille(静寂)。英語のstill(静止した)と同語源のstill(静かな・静止した)の名詞形。
シュトラール(聖都)
Strahl(光)。→シュトラール金貨
シュトラール金貨
Strahl(光)。→シュトラール(聖都)
シュトルツ
Stolz(誇り)。
※シュタルクの兄で、「シュ+タ行音+ル+ウ段音」というパターンで音形を揃えてある。
シュピーゲル【水鏡の悪魔】
Spiegel(鏡)。
※複製体を作り出すことを鏡に喩えている。
シュベア山脈
→シュヴェア山脈
シュマール雪原
schmal(幅の狭い)。英語のsmall(小さい)と同語源。
シュラハト
Schlacht(戦い)。
シュレーク
schräg(斜めの)。
ゼーリエ
Serie(連続・シリーズ)。日本語の「シリーズ」のもとになった英語のseries(連続・シリーズ)に対応。
※《ゼーリエ→フランメフリーレン》という師弟の連続から連想したネーミングか。
ゼンゼ
Sense(鎌)。
ソリテール
フランス語のsolitaire(孤独な)。英語のsolitary(孤独な)。
※ドイツ語のeinsam(孤独な)を既に使っていためにフランス語を用いたか。
ターク地方
Tag(日)。地図ではTurkと表記されているが、これは英語で「トルコ人」を意味する語。英語のday(日)と同語源。
タオ
Tau(露)。英語のdew(露)と同語源。
マハトに一瞬で殺されたので、はかなさを象徴する「露」と命名したか。
ダッハ伯爵領
Dach(屋根)。英語のthatch(藁葺き屋根)と同語源。
※大きな街で屋根がたくさんあるからか。
ツァルト
zart(やわらかい・きゃしゃな)。
ティタン城塞跡
Titan(ギリシア神話の巨神族・巨人)か。「ティターン」の方が原音に近いが、あえて 短音化したか(「クレ」参照)。英語のTitan(ギリシア神話の巨神族・巨人)。『進撃の巨人』の英語題名Attack on TitanのTitan。
※巨人のように大きな城砦だったということか。
デッケ地方
Decke(覆い・毛布・テーブルクロス)。英語のdeck(デッキ)と同語源。
※一面の雪に覆われている地方というか。
テューア交易都市
Tür(ドア)。英語のdoor (ドア)と同語源。「トーア大渓谷」のTorも同語源。
デンケン
denken(考える)。英語のthink(考える)と同語源。
※賢者をイメージさせるためのネーミングか。
ドゥンスト
Dunst(霞)。英語のdust(ほこり)と同語源。
トーア大渓谷
Tor(門)。英語のdoor (ドア)と同語源。「テューア交易都市」のTürも同語源。
※北へ抜けていくために渡らなければならない渓谷たからだろう。
トート
Tod(死)。英語のdeath(死)と同語源。
トーン
Ton(音)。英語のtone(音色)に関係する。
ドラート
Draht(針金)。英語のthread(糸)と同語源。
※「魔力の糸」を使うからか。
ドラッヘ地方
Drache(竜)。英語のdragon(竜)と同語源。
※竜のいる地方だからだろう。
ナーゲル
Nagel(釘)。英語のnail(釘)と同語源。
※鍛冶屋なので釘か。
ナーハリヒト地方
Nachricht(知らせ)。
ノイ
neu(新しい)。英語のnew(新しい)と同語源。
ノイトラール港
neutral(中立の)。英語のneutral(中立の)。
ノルム卿
Norm(規範)。英語のnorm(規範)。
※借金の返済を厳格に求めるところことからか。
ハイス(城塞都市)
heiß(熱い・暑い)。英語のhot(熱い・暑い)と同語源。
ハイター
heiter(朗らかな)。
※性格にもづくネーミングだろう。
バザルト
Basalt(玄武岩)。英語のbasalt(玄武岩)。
パルランテ[レストラン]《奏送》
音楽用語のparlante(話すように)。もともとイタリア語で「ものを言う」という意味の形容詞。
※『奏送』は音楽をテーマとしているので、音楽用語を用いた。
バンデ森林
Bande(犯罪者などの一味)。英語のband(バンド・一団)と同語源。
ビーア地方
Bier(ビール)。英語のbeer(ビール)と同語源。
※昔から醸造が盛んで、町には酒場が多いためだろう。
ヒンメル
Himmel(空・天国)。
※亡くなって天国にいる人ということか。
ファーベル村
Fabel(寓話・作り話)。英語のfable(寓話・作り話)と同語源。
ファス
Fass(樽)。英語のvat(大桶)と同語源
※皇帝酒からの連想か。
ファルシュ
falsch(間違った)。英語のfalse(間違った)と同語源。
ファルべ地方
Farbe(色)。
フィアラトール
造語か?
※魔法の名前と思われる。そのために造語となっているか?
フェルン
fern(遠い)。英語のfar(遠く)と同根。
※一人前になるために遠くにある岩を撃ち抜く長距離魔法の修行をした。戦いにおいて魔力探知範囲外からの超長距離射撃を行う。遠くから攻撃できることからのネーミングか。前文も参照
フォーリヒ(要塞都市)
vorig(この前の)。
フォル盆地
voll(いっぱいの)。英語のfull(いっぱいの)と同語源
フォル爺
voll(いっぱいの)。英語のfull(いっぱいの)と同語源
ブライ
Blei(鉛)。
フランメ
Flamme(炎)。英語のflame(炎)と同語源。
フリーレンと語頭の《フ+ラ行音》を揃えることにより、師弟関係を示唆しているか。フランメのラ行音がア段であるのに対して、フリーレンのラ行音がイ段なので、フランメが大きいイメージ、フリーレンが小さいイメージとなり、この二人の師弟を表すのに相応しい。「凍る」に対して「炎」と温度が逆の対比的な意味になっている。
フリーレン
frieren(凍る)。英語のfreeze(凍る)と同語源。
前文を参照
フリュー
früh(早い)。
ブルグ
Burg(城)。発音は「ブルク」の方が正確。英語のborough(自治都市・自治町村)と同語源。
※守りに特化した魔法使いであることを「城」に喩えたネーミングか。
フレーテ《奏送》
Flöte(フルート)。
※「フリーレン」や「フェルン」と同様に、両唇音で始まりラ行音を含む(前文参照)。楽器名の中でイメージが合うものを選んだ結果であろう。
フレッサー【獅子猪】
Fresser(大食い)。
ブレット地方
Brett(板)。英語のboard(板)と同根。
ベーゼ
böse(悪い)。
へーレン地方
hören(聞こえる)。英語hear(聞こえる)と同語源。
ボースハフト【皇帝酒】
boshaft(意地の悪い)。
※意地悪な話だからか。
ボーネ
Bohne(豆)。英語bean(豆)と同語源。
マハト
Macht(力)。英語のmight(力)と同語源。
ミリアルデ
Milliarde(十億)。
ムート
Mut(勇気)。英語のmood(気分)と同語源。
メークリヒ[楽器]《奏送》
möglich(可能な)。
※習得が極めて困難な楽器で、二つ名は「不可能」。「メークリヒ」の意味は二つ名とは逆になっている。演奏は不可能だと言われているが、実は可能だと言うことか。
メトーデ
Methode(方法)。英語のmethod(方法)。
メルクーアプリン
「メルクーア」はMerkur(メルクリウス・水星)。英語のMercury(メルクリウス・水星)。
※メルクリウスはローマ神話の商業・旅・盗人の神。
ユーベル
Übel(悪)。英語のevil(悪)と同語源。
※悪そうなイメージからか。
ラート地方
Rad(車輪)あるいはRat(助言)。地図ではRat(助言)。
ライヒ金貨
reich(金持ちの)。英語のrich(金持ちの)と同語源。同音のReich(王国)も意図しているか。
ラヴィーネ
Lawine(雪崩)。
※魔法で水を凍らせるところからのネーミングか。
ラオフェン
laufen(走る)。英語のleap(跳ぶ)と同語源。
※高速で移動する魔法を使うからだろう。
ラオブ丘陵
Laub(木の葉)あるいはRaub(略奪)。地図ではLaub(木の葉)。いずれも発音は「ラオプ」の方が正確。Laub(木の葉)は英語のleaf(葉)と同語源。Raub(略奪)は英語のrob(奪い取る)と同根。
ラダール
Radar(レーダー)。英語radar(レーダー)の借用語。
※峠の通行者を監視する任務を負っていることからのネーミングだろう。
ラント
Land(土地・国・陸・田舎)。英語のland(土地・国・陸・田舎)と同語源。
※一級魔法の試験を分身に受けさせて自分は故郷にいたことからか。
リーゲル峡谷
Riegel(かんぬき)。
リーニエ
Linie(線)。
リヴァーレ
Rivale(ライバル)。英語のrival(ライバル)。
リネアール
Lineal(定規)。
リヒター
Richter(裁判官)。
リュグナー
Lügner(嘘つき)。英語のlie(嘘をつく)と同語源のlügen(嘘をつく)の行為者名詞。
※言葉を欺くためだけに用いているからだろう。
ルーフェン地方
rufen(呼ぶ・叫ぶ)。
ルフオムレツ
「ルフ」はフランス語のl'œuf(卵)か。ドイツ語で卵はEi「アイ」。フランス語で卵はœuf「ウフ」。さらに定冠詞を付ければl'œuf「ルフ」。
レヴォルテ
Revolte(反乱)。英語のrevolt(反乱)。
レクテューレ
Lektüre(読み物・読書)。
レッカー
lecker(おいしい)。英語のlick(なめる)と同語源のlecken(なめる)の派生語。
※美味しい料理を作るからだろう。
レルネン
lernen(学ぶ)。英語のlearn(学ぶ)と同語源。
※旧友のデンケンの名前が「考える」を意味することから、「学ぶ」を連想して「レルネン」と名付けたか。発音上も「デンケン」とあたかも対になっているように感じられる。
レンゲ
Länge(長さ)。英語のlong(長い)と同語源のlang(長い)の名詞形。
ローア街道
Rohr(管・葦)。

地図はファンタジー作品の世界観を伝える常套手段である。トールキンが『指輪物語』につけた「中つ国」の地図がこの手法を確立したと思われる(トールキンは偉大だ!)。『葬送のフリーレン』においても、アニメ初回冒頭に地図が出てくる。この地図は以下のサイトで確認できる。そこでは地名がアルファベットで記載されているが、これは作者の命名意図に必ずしも忠実ではなさそうなので、ひとつの解釈とみなすのが適切だろう。



©平塚徹(京都産業大学 外国語学部)

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