口蹄疫の謎

平塚 徹(京都産業大学)


 最近ヨーロッパで、牛や羊などの家畜がかかる「口蹄疫」という伝染病がはやって、大騒ぎになりました。この口蹄疫のことを、BBCのニュースを見ていると、英語で foot-and-mouth desease、あるいは単に foot-and-mouth と言っていたのですが、そこで一つ疑問が生じました。日本語の口蹄疫という名前は、「口と蹄(ひづめ)の伝染病」となっているのに対して、英語の foot-and-mouth desease は、「足と口の病気」となっています。「ひづめ」と「足」は、ほぼ同じ部位を指している思われるのですが、なぜか、日本語では「口とひづめ」、英語では「足と口」というふうに順番が逆転しているのです。なぜだろうと不思議に思いました。

 しばらくして、フランス2のニュースを見ていると、オランダでこの口蹄疫にかかった家畜が見つかったというニュースをやっていました。フランス語では口蹄疫は、fièvre aphteuse という「口」も「足」も「ひづめ」も出てこない名前なので、これはどうでもいいのですが、このニュースを見ていると、立入禁止の看板が映っていて、そこに mond- en klauwzeer という単語が書いてありました。もしやと思い調べてみると、これは、オランダ語で口蹄疫を指す言葉だったのです。面白いのは、mond は「口」、en は「と」、klauw は「(かぎ爪のある)足」、zeer は「傷」という意味なので、日本語の「口蹄疫」と同じ順番になっているのです。そこで、ドイツ語も調べてみると、Maul- und Klauenseuche となっています。Maul は「(動物の)口」、und は「と」、Klaue は「(かぎ爪のある)足」という意味ですので、やはり日本語の「口蹄疫」と同じ順番なのです。「かぎ爪」と「ひづめ」では少し違うではないかという疑問はあるものの、日本語の「口蹄疫」は、おそらく、ドイツ語の Maul- und Klauenseuche を訳したものだろうという結論に至りました。多くの医学用語がドイツ語から入ってきているはずですから、この家畜の病名もドイツ語から入ってきたと考えるのは極めて自然でしょう。

 こうして、日本語の口蹄疫という名称が、英語の foot-and-mouth desease という名称と、なぜ順番が逆転しているかという疑問に一応の解答を出したのですが、すぐに新たな疑問が出てきました。なぜ、ドイツ語やオランダ語では「口と足」という順番なのに、英語では「足と口」となっているのか。これは、よく分かりません。少し考えることもあるのですが、はっきりしたらまた書きます。