視聴覚とAV

平塚 徹(京都産業大学)


 日本語で「視聴覚」という言葉がありますが、この概念は英語の audio-visual「視聴覚の」から来ていると思われます。しかし、不思議なのは、日本語では「視聴覚」、つまり、「視覚と聴覚」という順番で言っているのに対して、英語では audio-visual 、つまり、「聴覚と視覚」という順番になっていることです。なぜ、英語の audio-visual に合わせて「聴視覚」という言い方をあまりしないのか不思議です。

 一方、見ることと聞くことを表す複合動詞を考えてみますと、日本語では「見聞きする」とは言いますが、「聞き見する」とは言いません。また、「見たり、聞いたりする」という言い方に比べると、「聞いたり、見たりする」という言い方はあまりしそうにありません。日本語では、「視覚→聴覚」という順番を好むと考えることができるでしょう。おそらく、漢語でもこの傾向が現れており、「見聞」とは言いますが、「聞見」とは言いません。そのため、「視聴覚」や「視聴者」に比べて、「聴視覚」や「聴視者」はあまり言わないのでしょう。

 しかし、英語ではどうかというと、英和辞典で「見聞きする」を調べると、see and hear という訳語を与えている辞書があります。実際、インターネットで "see and hear" と "hear and see" のようなフレーズを検索すると、"see and hear" の方がヒット数が多く、英語でも「視覚→聴覚」という順番を好むのではないかと思われてきます。

 すると、むしろ、audio-visual という語自体の方が、一般の傾向に反しているのかも知れません。そこで、この単語の成立事情を調べてみると、もともと、外国語教授法に、audio-lingual(耳と口を使う)という概念があり、それに映像等の視覚にも訴える教具を加えたものを、audio-visual(視聴覚の)と言うようになったのです。と言うことは、そもそも聴覚(audio-)があって、あとから視覚(visual)が加わったわけです。これなら、「聴覚→視覚」という順番になっていても納得がいきます。

 それに対して、日本語では、そのような経緯と関係なく、「視覚→聴覚」という一般的な順番にしたがった「視聴覚」の方が好まれた結果、英語とは異なる順番の表現が定着しているということでしょう。