視聴覚とAV

平塚 徹京都産業大学 外国語学部

京都産業大学外国語学部では、英語ドイツ語フランス語スペイン語イタリア語ロシア語中国語韓国語インドネシア語を専門的に学ぶことができます。


 日本語で「視聴覚」という言葉がありますが、この概念は英語の audio-visual「視聴覚の」から来ていると思われます。しかし、不思議なのは、日本語では「視聴覚」、つまり、「視覚と聴覚」という順番で言っているのに対して、英語では audio-visual 、つまり、「聴覚と視覚」という順番になっていることです。なぜ、英語の audio-visual に合わせて「聴視覚」という言い方をあまりしないのか不思議です。

 一方、見ることと聞くことを表す複合動詞を考えてみますと、日本語では「見聞きする」とは言いますが、「聞き見する」とは言いません。また、「見たり、聞いたりする」という言い方に比べると、「聞いたり、見たりする」という言い方はあまりしそうにありません。日本語では、「視覚→聴覚」という順番を好むと考えることができるでしょう。おそらく、漢語でもこの傾向が現れており、「見聞」とは言いますが、「聞見」とは言いません。そのため、「視聴覚」や「視聴者」に比べて、「聴視覚」や「聴視者」はあまり言わないのでしょう。

 しかし、英語ではどうかというと、英和辞典で「見聞きする」を調べると、see and hear という訳語を与えている辞書があります。実際、インターネットで "see and hear" と "hear and see" のようなフレーズを検索すると、"see and hear" の方がヒット数が多く、英語でも「視覚→聴覚」という順番を好むのではないかと思われてきます。

 すると、むしろ、audio-visual という語自体の方が、一般の傾向に反しているのかも知れません。そこで、この単語の成立事情を調べてみると、もともと、外国語教授法に、audio-lingual(耳と口を使う)という概念があり、それに映像等の視覚にも訴える教具を加えたものを、audio-visual(視聴覚の)と言うようになったのです。と言うことは、そもそも聴覚(audio-)があって、あとから視覚(visual)が加わったわけです。これなら、「聴覚→視覚」という順番になっていても納得がいきます。

 それに対して、日本語では、そのような経緯と関係なく、「視覚→聴覚」という一般的な順番にしたがった「視聴覚」の方が好まれた結果、英語とは異なる順番の表現が定着しているということでしょう。


©平塚徹(京都産業大学 外国語学部)

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