人名の前でのリエゾン・エリジヨン

平塚 徹京都産業大学 外国語学部

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 あるところで、人名の Henri のhは有音か無音かということが話題になったことがありました。結論を言うと、Henri のhはどちらにもなるのです。もともとは、有音だったものが、無音としても扱われるようになってきているようです。実は、Henri だけでなく、Hubert, Hugues, Hugo 等の人名も、語頭のhが有音にも無音にもなるのです(Le Bon usage §48, b, 2o を参照してください)。

 さて、Henri のhが有音か無音か話題になっているときに、そもそも、hではなく、母音字で始まる人名でも、その前で、リエゾンやエリジヨンをしたりしなかったりするという指摘も出てきました。実際、Le Bon usage §50, f を見ると、人名は、特に、短い場合、同音異義語がある場合、外国語の子音が入っている場合に、とりわけ que の後でリエゾンやエリジヨンをしない傾向があると書いてあります。つまり、人名の場合には、hが有音か無音かという以前に、母音字で始まっていても、リエゾンやエリジヨンをしたり、しなかったりするのです。

 初級文法を習ったときには、名詞に冠詞などを付けたり、動詞を活用したりするときに、語頭のhが有音か無音か、リエゾンやエリジヨンをするかしないかきっちり決まっていたのに、人名の場合には、なぜ、それほどはっきりしていないのでしょうか。

 これは、おそらく以下のような理由によると思われます。先ず、名詞を使う場合には、その前に冠詞・指示形容詞・所有形容詞などを付けることが非常に多いはずです。この冠詞・指示形容詞・所有形容詞は、リエゾンやエリジヨンできるときには必ずします。ですから、母音字や無音のhで始まると言われている名詞は、頻繁に、その前でリエゾンやエリジヨンが起きるので、その名詞が、リエゾンやエリジヨンを引き起こす単語だということが、繰り返し確認されることになります。逆に、有音のhで始まると言われている名詞も、その前に、冠詞・指示形容詞・所有形容詞が頻繁に来て、そのたび毎に、その名詞がリエゾン・エリジヨンを起こさないことが確認されることになります。つまり、名詞は、リエゾン・エリジヨンを起こすかどうか、頻繁に確認されているというわけです。

 同様に、動詞を使う場合にも、その前に、主語人称代名詞・目的補語人称代名詞・否定のneなどを付ける場合が非常に多いでしょう。そうすると、やはり、それぞれの動詞がリエゾン・エリジヨンを起こすかどうか頻繁に確認されることになります。

 他方、人名は、その前にリエゾン・エリジヨンする語が来ることがもともと少ないのです。すると、その前で、リエゾンやエリジヨンをするかしないかという選択自体をする機会が少なくなるわけです。これでは、それぞれの人名が、リエゾンやエリジヨンを起こすかどうか、安定しなくても不思議ではありません。



©平塚徹(京都産業大学 外国語学部)

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