huit のhは有音のhか?

平塚 徹(京都産業大学)


 仏和辞典などで huit「8」を調べると、語頭のhは有音だとしてあります。しかし、このhを本来の有音のhと考えることには、疑問があります。

 そもそも、有音のhは以下のようにして成立してきたものです。先ず、ラテン語にはhの音が存在したのですが、早い段階から発音されなくなりました。そして、このようなhはフランス語では無音のhになりました。他方、ラテン語のhが発音されなくなった後にゲルマン語等から入ってきた単語の語頭のhはしばらく発音され続けました。そのため、発音されなくなった後も、前の単語がリエゾンやエリジヨンされませんでした。これが有音のhなのです。

 ところが、huit のhは、このような典型的な有音のhとは違った由来を持っているのです。そもそも、huit のもとになった単語はラテン語の octo です。綴りを見れば分かるとおり、hの文字も音も存在していませんでした。この単語が、やがて、音韻変化の結果、uit となりましたが、やはり、hの音は存在していませんでした。それでは、なぜ、現在のフランス語では、語頭にhの字を書いているのでしょうか。実は、昔の書記法ではuとvは同じように書いていました。そのため、uit と書くと、vit と区別ができなくなったのです。そこで、語頭のuを[v]と読ませないように、語頭にhを補ったのです。これと同じようにして補われたhは、他にもあります。例えば、huile[< oleum]「油」、huître[<ostrea]です。huit のhはこのような由来を持っているので、歴史上、発音されたことはないわけです。ですから、これは、そもそも有音のhにならないはずの文字です。実際、同じ起源を持つ huile や huître のhは無音なのです。

 それでは、なぜ、huit の前では、リエゾンやエリジヨンをしないのでしょうか。これは、実は、huit が数詞だからなのです。例えば、onze「11」という数詞の前では、やはり、リエゾンやエリジヨンはしないのが普通です。また、un「1」も、不定冠詞でなく数詞の時にはリエゾンやエリジヨンをしないとされています。と言うことは、huitの前で、リエゾンやエリジヨンをしないのは、hが有音だからではなく、「数詞の前ではリエゾンやエリジヨンはしない」からだと考えるべきなのです。