企業の設立と資金調達:後半(8期生ゼミ)(2017年10月26日)

8期生の吉川です。第3章後半"企業の資金調達"について発表させて頂きました。

まず企業は設立時に出資者から払い込まれた資金を用いて営業活動を行いますが、それだけで十分でない場合や追加的な資金が必要になった場合、銀行からの借入などで資金を調達します。
資金はそれが株主から調達されたものか株主以外の債権者から調達されたものであるかによって区別されます。
株主から調達された資金は返済の必要がなく、企業の盛衰と運命をともにすることから「自己資本」と呼ばれます。
これに対して株主以外から調達された資金は、所定の期限までに返済されて企業から出て行くことから「他人資本」と呼ばれ貸借対照表の負債に計上されます。
株式と社債はともに有力な資金調達の手段ですが次のような違いがあります。
まず一つ目は、自己資本は会社の利益に応じて配当が支払われますが、社債は利益に関係なく前もって定められた率によって利子が払われます。
次に、自己資本の調達した資本は返済の必要がありませんが社債は償還期限までに額面金額の払戻しをしなければなりません。
最後に、株主の所有者は株主総会で議決権を行使できますが、社債の保有者は経営に参加できません。以上のような違いがあります。

次に借入金の種類について説明します。借入金で資金を調達すると契約に応じて所定の利子を支払うと共に期日に返済しなければなりません。この借入金の調達には2つの代表的な方法があります。
まず「証書借入」です。これは借用証書を相手に渡して行う方法です。利子は元金の返済期日に元金に追加して返済されます。
もう一つは「手形借入」です。
これは自分が振り出した約束手形を銀行へ持ち込んで利息を差し引いた金額で買い取ってもらうことによる方法です。これらの違いは手形借入が利子と共に返済する後払いなのに対し、手形借入は元から利息に相当する金額を差し引かれた、つまり前払いである、という違いがあります。
手形借入のために発行された手形は、銀行などで借用証書の代わりとして保管されるのが通常ですが、銀行が当初から転売を予定していることがあります。このような手形を特にコマーシャル・ペーパーと呼び、貸借対照表の上で一般の借入金と区別することがあります。
また、貸借対照表の負債の部は流動負債と固定負債に区分されており、借入金のうち決算日からみて返済期日が1年以内に到来する金額は短期借入金として流動負債に分類され、1年を超える場合は長期借入金と呼ばれ、固定負債として取り扱われます。

次に新株発行による増資について説明します。会社は資金調達の必要が生じたとき、取締役会の決議を経て発行可能株式数の範囲内で新株式を発行して自己資本を増加させることができます。このような新株発行は新しく発行される株式の引受権を誰に与えるかによって3つのケースに区分されます。
1つめが株主割当です。これは既に株主である者に対して持株数に応じて新株式を優先的に引き受ける権利を与えて行う新株発行です。このケースは新株式を取得するために株主が払い込む金額は時価よりかなり低く設定されていることが多く、例えば証券市場での相場が1000円でも50円を払い込めば1株式を引き受けられ、全ての株主がこの取り扱いを受ける限り株主間の不公平は生じません。ですがこれは株式に1株50円というような額面金額が存在していた1970年頃までは広く採用されていましたが今はほとんど行われていません。
第三者割当は株主以外の第三者に新株引受権を与える方法です。これは例えばメインバンクや取引先との関係の強化や、経営が悪化した会社の再建のために特定の株主や銀行に出資を求める場合などに利用されます。このケースでは旧来の株主との間で不公平が生じないように発行価額は時価に近い金額でなければならず、時価よりかなり低い価額で発行するには株主総会の特別決議を経なければならないという特徴があります。
募集による新株発行とは公募増資とも呼ばれ、特定の者に引受権を与えるのではなく一般に広く呼びかけるなどの方法で応募者を募って行う方式です。この場合も旧来の株主との公平を保つため発行価額は時価に近い金額とされます。この方式は時価発行増資と呼ばれ、その時の時価が高ければ高いほど少ない発行株式数で多くの資金が調達出来るため、最近の上場会社ではこの方式が主流になっています。
新株発行にも募集のための広告費、銀行や証券会社の取扱手数料など様々な経費がかかります。これらの支出額はその時点で営業外の費用とするのが原則ですが、株式交付費という名称で繰延資産の1項目として計上してもよいことになっています。資産計上した場合は株式交付後3年以内に毎決算期に規則的な方法で取り崩し、費用に計上しなければなりません。

次に社債の種類について説明します。
社債は株式会社に限らずどの形態の会社でも発行が認められた債権で、普通社債、転換社債、新株予約権付社債の3種類がありす。このうち転換社債と新株予約権付社債は後で新株式が発行される可能性があり、その時は自己資本が増加するので新株発行による増資と同じ結果が生じます。
まず普通社債ですが、発行企業が購入者に対して満期日まで定期的に利子を支払うとともに、満期日にそれを償還して額面金額の返済を行うことを約束した債務です。転換社債と新株予約権付社債は普通社債に権利を付加して社債投資の魅力を高めることにより、企業の資金調達を促進するのに役立っています。また、普通社債よりも低い利率で発行できること、新株発行の可能性がある点で自己資本の充実に役立つなどの利点があります。今登場した転換社債と新株予約権付社債について詳しく説明します。転換社債は所有者が要求すれば一定の条件で株式に転換できる権利が付与された社債で、転換の条件は発行の際に会社が前もって決議したうえで何円分で1株式を受け取ることができるかという「転換価格」が投資者に公表されます。
新株予約権付社債は、保有者が前もって決められた金額を払い込むことで新株式を引き受けることが出来る権利が付与された社債です。なので会社は発行の際に、何円の払込によって新株式1株を引き受けられるのかという「行使価格」を前もって決議し投資者に公表します。これらは会社の株価がどんなに高くなっても決められた価額は変わりません。なので例えば株価が転換価格を超えると転換社債の株価への転換請求が増え、権利行使価格を超えると新株予約権の権利行使が多く行われます。
株式への転換が行われると株式が発行されて社債が消滅されるのと対照に、新株予約権付社債は現金の払込によって新株式が発行されても社債部分は新株予約権のない普通社債として残ります。新株予約権付社債の発行時に払いこまれる金額は社債本体の部分と新株予約権の評価額から構成され、社債本体は負債とされますが、新株予約権はやがて自己資本の一部となるので純資産の部に掲載します。しかしまだ株式は発行されていないので「株主資本」とは区別して新株予約権として貸借対照表に表示します。

次に社債の発行から償還までの会計処理の要点です。まず一つ目に、社債は取締役会などの決議によって発行されます。普通社債の場合には、社債の総額・利率・発行価額・期間・償還方法などがその決議において決定されます。二つ目に、発行後償還までの期間の所定の利払日には、前もって定められた利率で社債利息が支払われます。社債利息は、経常的な金融活動からの費用として損益計算書に計上します。三つ目は「償却原価法」です。社債は額面金額よりも安い発行価額で募集されることが多く、社債の利子率が低かったり無事に償還されるか不安があれば、額面通りの金額で発行しようとしても買い手がつきません。そこで例えば額面100万円の社債を94万円で発行するというような「割引発行」が行われます。しかし満期日には額面金額で償還しなければなりません。なので額面金額と割引発行した社債との差額を満期日にまでの各年度に規則的に配分し、社債の負債計上を額面金額へと調整します。これらを償却原価法と言います。
社債の発行には、募集の広告費、銀行や証券会社の取扱手数料などの費用が必要となります。これらの金額は支出時に営業外の費用として計上するのが原則です。しかし調達された資金はその後の経営活動に利用されて利益の獲得に貢献することから「社債発行費」という名称で繰延資産の一項目として計上することが認められています。
社債の償還には満期償還と途中償還があり、途中償還は満期日に金額を一時に償還するのに要する資金の負担を緩和するために行います。途中償還にも様々な方式がありますが、日本で広く用いられているのは定時償還と繰上償還です。定時償還は、社債発行後一定期間を据え置いた後に、定期的に一定額ずつの社債を段階的に償還していく方式であり、繰上償還は満期日前に社債の全額を一括して償還する方式です。これらの途中償還が行われた場合には、償還された部分に対応する社債発行費の未償却残高を取り崩さなければなりません。