特殊相対性理論について
相対論を知りたい、もしくは理解したいというのはどこまでを言うのだろう? 簡単に 相対論の中身というより、その概略を考えてみることにする。勿論、相対論は特殊相対論 と一般相対論からなり、ここでは特殊相対論についてまず考える。一般相対性理論一応 Lorentz 変換の導出と、その応用が出来れば、まあ特殊相対論を少し齧(かじ)った と言う事が出来るだろう。すでにここでは、時間と空間は独立ではなく、時間と空間は 一つの時空を形成しており、座標系を選ぶという事は、この時空での時間座標と空間座標を 定めることに対応している。そして、Lorentz 変換が Minkowski 時空での(回転というか 時間軸と空間軸を傾ける)変換に対応しており、異なる慣性系では、同時刻という概念が 異なるという事(時間の遅れ)や、長さも異なるという事( Lorentz 短縮 )を Minkowski 時空 の上で、図を描けるように、理解すれば、少しは相対論を理解したという事になる。出来る ならその応用で双子のパラドックスを、式の上で確認出来れば良いだろう。
もう少し進めるならば、つまり 電磁気学の基本である Maxwell 方程式が、Lorentz変換 にたいして不変である事を理解する事が、相対論の理解に含まれる事になるのだろう。これは、 方程式がテンソルの形で表されると言う事に対応している。この辺りになるとテキスト等では、 少し式が増えてきて、学生諸君も、だんだん脱落気味になってくるのでは無いだろうか? しかしこれが、特殊相対論の、ある面では重要な点である。方程式がテンソル形で表される という事は、その方程式で表される物理的な内容が座標変換に対して不変であることを意味 しているからである。つまり電磁気現象は、いかなる慣性系においても、同じように観測される という事を示しているからである。
もう少し進むとなると、Lagrange 形式で、これらの方程式を表すとか、少し頑張って 本などを読み、Dirac 方程式の導出を確かめ、それよりスピンを持つ粒子の存在が予言され、 また見つかった等が、理解できればさらに良いだろう。しかしここまで理解するには、 ある程度量子力学の知識が必要となる。つまり Schrodinger 方程式は、Lorentz 不変 でないため、それをLorentz 不変に書き直し(Dirac 方程式)、その解を求めるという ところまで来れば、まあ特殊相対論は、理解出来たと言って良いのでは無いだろうか? この辺りは、残念ながら一般には、3回生迄の講義科目(内容)には含まれていない。 4回生のその分野の特別講義を選ぶか、自習に今のところ待つ他はない。
これ以上は、「場の量子論」でも齧(かじ)ると、特殊相対論の不変性からというか、 Dirac粒子を取り扱うという事から、ガンマ行列が頻繁にでてくる。そこから、粒子同士の 相互作用をどう取り入れるかということから、C対称性やCP対称性の破れとか、CPT対称性の 保存等、むしろ特殊相対論というより、素粒子物理学の話が始まる。
勿論、そこでは発散の困難さから、くりこみ可能性の話とか、また非可換なゲージ場とか、 まあかなり、専門的な世界が広がる。つまり、相対論を理解しようとする向うには、粒子同士の 相互作用がどうなっているのかという、物理学の基本的な問題が隠されている。そして、 これは、相互作用が、光速より速く伝わらないという問題が横たわる。つまり、粒子の 大きさは点なのか? 点でないとしたらどう取り扱うのか?有限の大きさを、どう理論に 取り込むのか?等の問題が生じる。現在では、素粒子を紐(ひも)として取り扱い、しかも Fermi 粒子と Bose 粒子を対称に取り扱う超弦モデルが流行している。しかし、通常は、相対論 の話の展開は、この道筋をたどらない。これ以上は、大学院での科目とみなされる。
むしろ、大学での相対論の講義内容は、Dirac粒子の話に行く前に、重力の理論へと話が移る。 それは、Einsteinがたどった道であるからという意味合いもあるかもしれないし、ある面では、 この特殊相対論の、慣性座標系の間の不変性の議論を、加速度系の間の座標系の間の不変性へと 話を一般化するという意味合いが強い。つまり重力理論は、等価原理のもとで理解されるべき理論 という構造が表れてくる。勿論、一般相対論の帰結するところの、ブラックホールとか中性子星や、 宇宙論でのビッグバンの理解が、宇宙物理を理解する上で不可欠となっているという要請がある。 それでは以下一般相対論の話に移ろう。
一般相対論を理解するとは、どこまでを指して言うのだろう?まず、曲がった時空を表現する計量テンソルで、世界距離を表すというのは、これは 半ば定義であるから問題は無いだろう。要はこの計量テンソルで時空の曲りを表現するのだ という理解が、まず何よりも基本となる。
次に来るのが、まあテンソルの座標変換に対する変換性だろうか。共変ベクトルと 反変ベクトルの違い、そしてそれに付随する共変テンソル、反変テンソル、それらを 記述する、下付き、上付き記号の違いに注意し、また半分は慣れることだろうか。これらも、 半ば定義であるから、理解するというより、慣れだろう。
一番理解しにくい所は、やはり、共変微分だろうか。曲がった空間で、ベクトルを 平行移動するという概念が、一番納得するまでに時間がかかるように思われる。しかし、 これを理解してしまえば、あとはそれこそ何も難しいことは、無いように思える。曲率 テンソルも、これは空間の曲りを示している量だと思えば、何も引っ掛かることは無い。
思えば、これらはすべて幾何学であり、リーマン幾何学の基本である。
次に、問題となるのが、物質の存在を表す、物質場のエネルギー運動量テンソルだろうか。 これも、定義だと理解するのが、一番手っ取り速い。もう少し、理屈を付ければ、 Lagrangean から、導いてくる事になる。
以上で、準備が整い、共にその共変微分による発散がゼロということより、左側には 時空の曲がりを表す、Einstein テンソルを置き、右側には物質場を示すエネルギー運動量 テンソルを置き、比例定数を掛けて等式を作れば良い。これで Einstein 方程式の出来 上がりである。
ここ迄理解すれば、一応、一般相対論の構造は分かった訳であるから、一般相対論を 齧(かじ)った事になると思える。ただ残念ながら十分とは、言えないだろう。ただし、 あとはこれ等の方程式が、何を意味するかを、具体例で見ていけば良い。
まずは、球対称の Schwartzschild 解をまず導くことから始めたい。そしてこれより、 光の偏向とか、水星の近日点の移動等が導ければ、まずは、まあ一般相対論を少し理解したと 言って良いのではなかろうか。
次の例は、やはり宇宙論だろう。Robertson-Walker の 計量で Friedman 宇宙の解 を求め、k=-1, 0, 1 の 解を導くことが出来、k=0 のケースで 放射場優勢と物質場優勢の ときの、スケール因子の膨張が求められればまあ良いと言えるのでは無いだろうか。 (本当は、ランダウ-リフシッツの 場の古典論 辺りを一通り読みこなしすというのが、 望ましいがこれはやはり大学院レベルなのだろう。)
あとは、重力波の放出あたりを、式の上で確認するというのが望ましいが、これは時間が 許せばということになろう。これで一先ず、一般相対論を学んだということになるのか?
しかし、やはりこれも、一般相対論の理解のまずミニマムなのかもしれない。この辺りまでの、それほど 難しくない教科書としては、
Foster & Nightingale ; 「一般相対論入門」、
Dirac ;「一般相対性理論」、
佐藤勝彦; 「相対性理論」
等があるが、より深く理解するには、 Landau 等の「場の古典論 」とか Wald の 「General Relativity」 が次の課題だろう。しかしそれ等を読んだとしたら、次は何が 課題だろう? Misner, Thorne, Wheeler の Gravaitation ? いや、ここら辺りから、 いやもう少し前の段階で、数学の本、「多様体」に関する本と「微分幾何学」に関する 本を読み、Hawking & Ellis の 本辺りを読めばまあそこそこの相対論の論文は読める のではないだろうか。
ただし、より具体的なテーマを選びそれに関する論文を読み進めれば、結構その分野で 読むべき本が、当然でてくる。それを後は読み進めて、その分野で研究をつづけていけば、 良いように思える。Wald の本に重力に関する各分野の Introductory な紹介があるから、 それ等を足場に進めば良いだろう。
いずれにしても、なかなかここまでで良いという境界は、どの学問、どの分野でも無い ように思える。勉強し理解すればするほど、面白く楽しい面があるが、それと同じくますます 疑問が湧いてきて、そしてまた難しくなる。
Last modified: Mon Sep 4 19:19:59 JST 2000