物理とは?
物理学科に来て、物理とは? と悩んでいる人に。

まずこれは、自然界の奥の奥の法則を知るという、すばらしい機会を得た訳であり、これからの学習については、 以下の、アインシュタインの以下の言葉を、参考にして欲しい。

Never regard study as a duty, but as the enviable opportunity to learn to know the liberating influence of beauty in the realm of the spirit for your own personal joy and to the profit of the community to which your later work belongs.

けっして自分の学習を義務と見なしてはいけない。いやむしろ、うらやむべき機会と見なしなさい。精神の領域で美が発揮する解放の力を知ることを学ぶ機会です。自分自身の個人的な喜びのために、また、みなさんがやがてたずさわる仕事が属する社会の利益のために (Princeton 大学の新入生向けの刊行物に寄稿)

まず、大学での学習は義務ではなく、新しい知識を獲得する素晴らしい機会であると言うことで、これはある面で当然であり、折角の機会を逃す手は無い訳です。残念ながらというか、講義は、必ずしも面白くない。いや、ある面では、非常に面白いはずですが、なかなか講義を面白く聞くためには、それなりの準備がいる。ある程度の予備知識がある方が内容が分かり、面白い。

しかし、一般には、むしろ講義を通じて、分からぬことを言っていたから,それを理解しようとして、教科書、参考書、また講義ノートを引っくり返して、調べるということをする訳です。そして、数学とか、特に物理等は、一応理屈があるわけで、それはその論理を、時間をかけて追えば分かると言うことです。特に神の啓示など必要でなく、誰にでも備わっている、理性と言うか、理屈っぽさがあれば、分かるということです。

場合によると、少々忍耐力が必要になるかもしれ無い。そして、いつまでも、疑問を持ち続ける根気も必要でしょう。そうした学習の中で、見えてくるものは、またその向うにあるのは、この自然界の、不思議な法則です。それを、アインシュタインは「精神の領域での、美が発揮する解放の力」というように、表現しています。自然の法則という美しさがそこにあるという訳です。

ここで、物理学の視点から、この「美が解放する力」、原文では 「liberating influence of beauty 」となっているものを、少し偏見と独断で、振り返ってみることにしましょう。

目の前に、そして我々を取り巻いて、自然という不思議な世界が広がっている。そこでどんな法則が働き、どんな現象が起こっているのを探究するのが、自然科学であり、その中でも物理学は最も基礎的な学問と見なされてるのは、承知の通りです。

また、実験やその観察に基づいて、自然の仕組みを探るという Bacon の「帰納と演繹」の考え方が、近代科学の出発点であり、Copernicus, Kepler, Galileo,を経て、Newton による重力理論、及び「力学」の体系化が近代物理学の方法論の確立と言えるでしょう。

ここに、確立したニュートン力学により、天上界の法則と、地上界の法則が、同じ方程式で取り扱うことが出来るという、素晴らしい「美の解放する力」をまず、味わうことが、出来ると思えます。

その後の物理学の発展は、19世紀末までに、ほぼ確立したマクロな現象を取り扱う近代物理学(古典物理学)と、20世紀初頭に大変革を受けた後の、ミクロな現象や光速に近い現象をも、その対象とする現代物理学に通常分類されます。

古典物理学では、解析力学の、Lagrange 形式の美しさを、まず堪能しなければ、ならないでしょう。そうはいっても、もし2回生でこの解析力学をそれなりに鑑賞するまで理解するのは骨が折れるかも知れませんが。そして次は、Maxwell 等によって、複雑な電磁現象を簡単な方程式系にまとめられた、古典的な電磁気学の美しさも、感嘆すべき対象でしょう。まだ、プランク定数は未発見でしたが、気体運動論に見いだされる統計力学も十分素晴らしい、自然界の奥の奥で働く、法則の確認と思えます。

そして3回生になると、量子力学ですが、これが中々の難物です。まあある面では簡単ですが、つまり Schrodinger 方程式の解を求めれば良いと言う訳ですから。しかし、その意味していることを理解するまでには、やはり紆余曲折するかも知れません。ある程度、悪戦苦闘し、噛み締めるうちに、ミクロな現象が一応これで記述できるのだという実感が湧いてくるはずです。そしてその数学的な奥域と、物理学的な不思議さが交錯して、自然界に対するより深い疑問が出てくればかなりセンスは良いと言うように思えます。その他、物理数学での、複素関数論の面白さも味わって頂きたいし、また統計熱力学の、枠組みと、各種の基本的な問題がある程度これで導けるというのも、実感して頂きたい。出来るなら相対論も、もう少し深く理解して、時空とは何かを考えて頂きたい。

それからあとは、各自が何がより深く学習したいかによって、特別研究、特別実験を選択すれば良いでしょう。

物理とは何か?を問うということは、それは同時に学習を続けていく中で、各自が模索してゆく課題なのでしょう。


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Last modified: Wed Sep 6 18:54:02 JST 2000