物理学とは

共変微分

　　一般相対論を読み出して、まず最初に引っかかるところといえば、共変微分の所であると思われるので、それを少し詳しく解説してみようと思う。（であるから、既に一般相対論をそれなりにＴｒｙしていて、それでもまだ共変微分がよく分からない人を前提に解説する）

　まず（共変）vectorの共変微分を考える、点ｘ^iのベクトルA(x)_j（＾は上付きの記号；_は下付きの記号：添え字i, j 以下暫し省略）を点ｘ＋ｄｘへ平行移動するときそれがA(x)＋ｄAになるというのを理解するのが難しい。

　　一番簡単なのは、今考えている曲がった空間をEuclid的な曲がっていない高い次元の空間へ埋め込み、そこの空間でそのベクトルを点ｘ＋ｄｘまで平行移動して、点ｘ＋ｄｘの元の曲がった空間（接空間）へ射影してやるという操作です。これでベクトルA(x)が点ｘ＋ｄｘまで平行移動できました。そのとき成分は当然変わっているはずですから、その変化した分をｄAとするのです。

（例として、曲がった平面を考え、それが３次元空間に埋め込まれているとすると、視覚化できて良いでしょう。このときベクトルは２次元ではi=1,2、j=1,2であり、点ｘのベクトル場はその接平面の中にある。違う点（ｘ＋ｄｘ）へそのまま平行移動すると、３次元空間で平行移動するので、ベクトルはｘ＋ｄｘではその接平面からはみ出しており、垂直成分がでるが、それは射影するから無視することになる。射影したから、またｘの接平面とｘ＋ｄｘの接平面は異なるから、ｘ＋ｄｘの接平面の中でのそのベクトルの成分は変化している。その変化分がｄA）

　次の問題はｄAがどうやったら得られるかということです。その為には、添え字を復活させなければなりません。A_jのベクトルをｄｘ^iの方向へ移動したとき、その差をｄA_j=Γ^k_j_m Ａ_k dx^m と置くのが習慣となっています（m, k については和をとる。Γはギリシャ文字のガンマの大文字；添え字がk,j,mと３個ある）。これはそう置きますと言えばそれで良いのですが、一応慣例ということにしておきましょう。その理由は変化分ｄＡは小さいからｄx^m に比例しそれと、変化分は元のベクトルのＡ_m に比例するだろうからというのです。　このΓ（ガンマ）を（レビ・チビタの）接続係数というのは知っていますね？このΓは計量ｇijからまた導かれます（ｇijの共変微分がゼロという条件から）。

以上より点ｘ＋ｄｘでのベクトルA（ｘ＋ｄｘ）との差をとり、ｄｘで割れば、（共変ベクトルの共変微分が得られます。　

（上の埋め込んだ空間での平行移動による変化部分が、このｇijの共変微分がゼロという条件から得られるΓと一致している証明は例えば Dirac　「一般相対論」(東京図書)にあるが、これも最初の方に一箇所、独学では理解しづらい所がある。）

　　通常、そしてそれがより一般的であるため、あまり埋め込んだ空間などは持ち出さないで、曲がった空間（または曲線座標）の中でのベクトルの平行移動を考え、その変化量は「ｄA_j=Γ^k_j_m Ａ_k dx^m である」と頭から押し付けて（？）、議論を先に進めてしまいます。　　

　参考書：ほとんどすべての一般相対論の教科書はそこそこ詳しく書いてあるはずであるが

「一般相対論入門」フォスター・ナイチィンゲール　（吉岡書店）

「相対性理論」佐藤勝彦〈岩波書店）

リー微分

　　リー微分は、一般相対論をある程度やった後で、出てくる概念であるから、当面は知らなくても良い。しかし微分幾何の本など読むと時々現れるから、最も簡単な導入をすると、リー微分はパラメーターｔのある曲線x^i=f^i(t)に沿ってベクトルやテンソルを、動かしたとき（無限小運動という）、その変化分として出てくる量。いまこの曲線の接ベクトルをξ^i=df^i/dtとする。

　　簡単な場合

　　　A_i(x)dx^i

の変化を考える。x＋dtξにおけるこの量は

　A_i(x+dtξ)d(x^i+dtξ^i)
　　　　　　　　　　　　＝A_i(x)dx^i+dt(A_i, jξ^j+ξ^j,iＡ_j)＋O(dt^2)

これと上の差をとってｄｔで割ると、リー微分

　　L_ξA_i= A_i, jξ^j+ξ^j,iＡ_j

がでる。曲がった時空では偏微分を共変微分に置き換える。今の場合スカラーであるので、極端な言い方をすると、ｄｔだけパラメーターを動かした先の量と（無限小運動した後の量と）、動かす前の量の差をとることになる。またリー微分では平行移動などの概念がなく、あからさまには接続係数は出てこない。

　　基本的には、その点ｘのベクトルやテンソルとｄｔだけパラメーターを増加した点でのベクトルやテンソルとの差をとるわけである。そのときに点ｘのベクトルやテンソルを如何に、ｄｔ先の所に持っていくかであるが、その成分をどちらかというと最も忠実に保存した形で、持っていった時の微分。(当然ｄｔ先の量を如何に元の点ｘに引き戻すかということと同値；教科書により向こうに持っていって調べるか、引き戻して比べるか等の違いあり）

　　別の見方では、無限小運動を、微小な座標変換と考えて、この座標変換で変換されたベクトルやテンソルと、変換される前の量と差を見るのがリー微分。

　　数学的でなく、物理学として分かりやすい解説は　　「一般相対論」佐々木節　(産業図書)

　　またより詳しい解説は　　　　｢一般相対性理論｣　内山　龍雄　（裳華房）　　　　　　　　　　　　

Last modified: Mon Oct 8 21:03:06 JST 2001