一般相対性理論について-- ミニ講義


  • ニュートンの重力理論
    太陽が回っているのではなく、地球が回転していると主張したコぺルニクス以来、 自然界の見方が大きく変化した。天空をさ迷う遊星の軌道を、太陽を一つの焦点とする 楕円軌道と見抜いのはケプラーであり、それを引力という重力理論で説明したのは ニュートンであった。それ以来、天上界の法則と地上界の法則が同一で記述されることが 明らかとなった。物体と物体の間に重力が働き、空間はそれとは独立であるという、ある 面では非常に分かり易いニュートンの理論が、重力理論としてほぼ230年間君臨してきた (1687:「プリンキピア」(自然哲学の数学的諸原理)、1915-6:「一般相対論」)。
  • 時空の曲がり
    そのニュートンの理論を一般相対論は変えたのである。つまり物質の存在はその周りの 空間に時間に影響を与え、時空を曲げ歪(ゆが)める事を明らかにしたのである。その結果、 曲がった、または歪んだ時空の中での、物体の運動として重力現象が理解されることになった。 水星の近日点の前進や、太陽の周りでの光の偏向等、ニュートンの重力理論では説明の つかない現象が、理解されるようになった。また時空の曲がりが特に強い所では、例えば ブラックホールが形成されているような所では、いかなる現象が起こっているかが、議論の 対象となっている。実際、ブラックホールと中性子星とが連星を成している系がいくつか 発見されており、強い重力場での現象の解明が進んでいる。
  • 宇宙全体
    この一般相対論の「時空」の振る舞いについての理解により、初めて、宇宙全体の時間的な 振る舞いが議論できるようになった。この意味は大きい。例えモデルであっても、一応 宇宙全体の振る舞いが、記述できるようになった。ニュートンの重力理論では、全く議論 できなかった宇宙という対象が、物理学で扱えるようになったのである。
  • 重力と宇宙
    一般相対論は、重力の理論である。いやむしろ、現在では重力の理論は、一般相対性理論で 記述されると言ったほうが良い。つまり、一般相対論は、ふつう重力による効果と見なさいる 現象のみでなく、時空全体の振る舞いに関係している、宇宙論をも記述出来る理論である からである。そして、この一般相対論は二つの原理に基礎を置く理論とみなされている。 それは「等価原理」と「一般相対性原理」である。
  • 等価原理
    一般相対論が重力現象を記述しているのは、等価原理に起因している。これは重力現象 は加速度座標系で表されると言うことを述べている。つまり、質量の異なる二つの物体の 落下現象も、加速度のある座標系へ乗り移ってみてやると、たんなる慣性系(そこでは 物体は静止しているかもしくは等速運動をする)での運動に置き換わる。逆に言うと 地球上に静止している我々は加速度系にいることになる。一方、物体は慣性系におり、 我々から見ると、物体は落下という加速度運動をする。

    ある面で相対的である。どちらがより本質的であるのかといえば、つまりより多くの 自然現象を統一的に見ることが出来るのかと言えば、我々が加速度系にいるという見方で あろう。つまり地球の各点で各々異なる方向へ加速度系が張られていることを、どう理解 するかだが、これは時空が歪んでいると理解するのが、最も数学的に簡潔に表現できる。

    物質があると、その周りの時空を歪め、その歪みが重力となって、各点で、各々異なる 加速度系を引き起こす。つまり、太陽が存在していると、その周りの時空が歪み、その歪みの 中を、物体は最も直線に近い運動をする。たとえば地球などは自然と太陽を回る軌道を描く ことになる。光などの軌跡は太陽の周りで偏向を受ける。

    Einstein は、屋根から落下する人を、思い描いているとき、この着想を得たと言っており、 また生涯で最高のアイデアだったと述べている。そして自由落下するエレベーターの例を頻繁に、 この重力理論を説明する際に用いている。つまり自由落下するエレベーターの中は慣性系であり、 そこでは局所的に重力場は消去されている。

  • 一般相対性原理
    これは物理法則は、如何なる座標系でも、同じ形をしている事を述べたものである。 簡単に言うと、物理の方程式は、テンソルの形式で書き表されるべきであるというのである。

    一般に物理量は、スカラー、ベクトル そして テンソル で表せる。スカラーとは、 密度とか、温度とかの量は、空間の各点で一つの量で表せる。これ等はスカラー場という。 (場とは、空間の各点で定義されているという意味である。)また速度とか、加速度という 量はベクトルである。ベクトルは、空間の各点で、方向と大きさを持っているので、 3つの量で表される。つまり、x、y、z 方向成分である。流体の流れなどを思い描けば 分かりやすいだろう。速度などはだからVi 等と表される。 i は x、y、z 等を示す添字 である。

    テンソルという量は、この添字が2つ以上ある量であり、一般に少し分かりにくい。 しかし簡単な例として、物体の中での張力を思い描けば良いだろう。一般に空間の座標系 として x、y、z 軸を考える。いま x 軸をとり、x 軸に垂直な面を考える。この面に働く x 軸 方向の力は圧力である。これを Fxx と今表す。この面に働く y 軸方向の力は張力で あり、 これを Fxy と表す。 F の次の添字は x 軸に垂直な面を表し、その次の添字は この面に働く y 軸 方向の力を表す。 以上より Fij は i 軸に 垂直な面を通して、j 軸 方向には働く力を示す。 このように添字が2つある物理量があるのが分かってもらえた だろう。一般には、2つ以上ある量もこれ等からの類推で想像出来ると思える。例えば スカラー量 A を、i 軸 方向に微分し、そして j 軸方向に微分し、そして k 軸方向に 微分すれば、 Aijk という 3つ添字がある量が出来る。

    本題から少しそれた感じがしないでもないが、要はこれ等の添字が幾つあるかによって、 その物理量の座標変換による変換性が異なるので、それに注意しなさいという事である。 例えば物理の方程式の等号の左側にベクトル量があれば、右側にはスカラーとか添字が 2つ以上あるテンソルでは意味を成さないという事である。

    より正確には、添字がとる値は、x、y、z だけでなく t (時間軸)も含め、4次元の 時空での座標変換に対しても、方程式を不変な形に書くべきであるというのである。

    これは当たり前のようであるが、座標変換がそれまでは慣性系同士のLorentz 変換しか 考えてこなかったのが、加速度系への変換を含む、一般の如何なる座標系へ変換しても、 方程式は不変であるという事を主張している原理なのである。

    少なくとも、これと等価原理のおかげで、重力場の無い系で物理法則が分かっておれば、 それを加速度系へ変換することによって、重力場がある時での物理法則が得られたことに なる。

  • 宇宙論
    現在では「ビッグバン」という言葉は日常的によく耳にする。これは現在の宇宙が、 ビッグバンという大爆発により始まったという意味で、皮肉なことに、この説に対して 批判的であったイギリスのホイルによって、膨張宇宙論に対して名付けられた。ある面では、 この名称で、宇宙が大爆発とともに発生し、その後宇宙全体が引き続き膨張しているという 認識が、広く得られているように思う。これはある面では正しく、他方、一部誤解を招いて もいる。

    誤解の一部は、宇宙は空間の一点から始まり、膨張とともにその空間の中へ広がって いくというイメージであるが、これは正しくない。つまり宇宙には境界が無いのである。 それは例えて言えば、地球の表面には、境界がないのと同じである。宇宙は始めから、 その空間のすべてであり、宇宙初期の密度が非常に高い時期には、宇宙のどの点もすべて、 非常に密度が高い状態にあり、宇宙全体がどの点をも中心にして膨張していくというイメージが 正しい。それは宇宙の空間を、次元を一つ減らして、風船の表面と考えるのが近い。そして、 風船をふくらますと、風船の表面ではどの点もそこを中心にして、他の点が広がっていく ように見える。 そして宇宙には、この風船を入れるような、別の高次元な空間は無いのである。 勿論、正確にはあるのか無いのか分からないが、一般相対論の枠内では、そのような空間は 無い。

    一般相対論が生まれてすぐに、この理論が宇宙を取り扱う事ができるという認識がなされ、 多くの宇宙モデルが提唱された。当時、宇宙は静止していると固く信じられており、 Einstein は静止宇宙モデルを求めるために、宇宙項を導入したのは、良く知られている。 ルメートル、フリードン等が膨張する宇宙の解を見つけていた。そしてその後、宇宙は 膨張していることが観測され、また宇宙初期での高温の中でHe等の軽元素が合成がされる事が 分かり、その観測も確認された。

    そして膨張宇宙論を決定的にしたのは、3K の黒体輻射の発見である。これは宇宙初期が 高温であるという痕跡であり1965年に発見された。その後、この黒体輻射に非常に 微弱な揺らぎが観測され(1992)、それが膨張する中で成長して、現在観測されている、 銀河等の大構造の分布が形成されたと推測されている。

    現在ではより精密な宇宙初期の揺らぎのスペクトルが観測され、天体の形成がより詳しく 数値計算等で議論されている。また宇宙のモデルを確認する観測が進んでいる。それに よると、宇宙を構成している物質は、90%以上が暗黒物質である。また、最近の観測に よると、そして、その解釈をそのまま受け入れると、現在の宇宙の膨張には宇宙項が大きく 関与しているということになり、話題を呼んでいる。


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    Last modified: Wed Sep 6 17:54:31 JST 2000