Ψ= Σ(各mについて和をとる)cm U(m)
ここで cm は係数(cmは複素数。|cm|はその絶対値)。そしてこの重ね合わせの係数 |cm|の2乗が、状態 Ψ において F が、測定値 m の値をとる確率を与えるというのが、量子力学の大前提である。
いま状態 Ψ に対して F の測定を行ない、測定値 m を得たとすると、測定直後の状態は U(m)になっている筈であるから、この系は Ψ から U(m)へと変化したことになり、通常これを測定による”波束の収縮”(波動関数の収縮)という。これは観測という系の外部からの測定であり、系にとっては非因果的的なものであり、系独自の因果的な時間的発展を記述するシュレデインガー方程式からは出てこない。つまりこの観測による”波束の収縮”が量子力学の理論対系の中でどのように導出されるのかが、”観測の問題”である。
つまり、観測理論は、対象となる系と測定器系の全体に対して量子力学を適用して、その枠内で”波束の収縮 ”を導くものでなければならない。しかし残念ながら量子力学が形成されてから3/4世紀近くなるが、多数の人に納得されるような観測の理論は未だ無い。
1) N.Bohr
彼は量子力学に従う微視的な対象系と、古典力学に従う巨視的な観測系を区別して、その間に相互作用が働いた時、微視的な系の間の位相の相関が消えて”波束の収縮”が起こると考える。しかし巨視的な観測系も微視的な系の集合体であり、区別する原理が不明確であり、首尾一貫理論とはいえない。
2) J.von. Neumann
これは微視的な系と、巨視的な観測系との相関を考えるが、その段階では”波束の収縮”は起こってはいないとする。むしろ対象系ー測定器ー観測者の目ー視神経ー脳細胞ーとどの段階でも波束の収縮は起こらず、最終的には”抽象的な自我”または”意識”を導入し、そこで波束の収縮が起こるとする。しかしこの理論はどう考えても我々の日常生活の経験に反する。この理論に対する反論としてShredingerはあの有名な猫についてのモデルを提案した。
3) 非可逆過程説
通常、測定器は微視的過程を巨視的過程へ変換するため、熱的な非可逆過程の増幅装値を持っているから、その効果により”波束の収縮”を説明しようとする理論である。つまり観測装置の熱的に準安定状態から、非可逆過程により安定状態へ移行する間に”波束の収縮”が起こるとするのである。しかしこれにも反論がある。つまりいくら観測装置が複雑であろうとも、対象系を含めた系全体の波動関数はshredinger方程式に従う訳で、量子力学から”波束の収縮”が起ころう筈がないとするものである。その他、”否定的観測”(例えばスピン上向き下向きの時、下向き粒子しか測定しないとすると、測定が無いとき、それは上向きということになるーどこで波束の収縮が起こったのか)という問題の指摘もある。
4)多世界理論
波動関数は多くの世界を表現じ、その相互作用により波束が収縮するという考え方。並行宇宙モデルともいう。
5)非干渉
系の波動関数を、対象系、観測系、その回りの環境の直積と考え、その相互作用を考慮することにより、量子的に干渉している対象系が、観測系で非干渉の状態を生ずるとする考え方。