宇宙物理入門 -- (大学初年級)----

  • 宇宙とは?

    宇宙とは何かと疑問を持っている人はこのコーナーを眺めてみるのも良いかもしれない。果たして疑問に答えられるかどうか分からないが、宇宙について興味をもっている人が多数いることは心強く、また頼もしい限りである。ある面では宇宙はまだまだ謎に包まれているが、またある面では意外と基本的なことを知らない人もいる。

    以下宇宙物理のごく常識的な事柄を思い付くままに述べたり、また場合によっては解説じみたことをこころみる。本当は式を書いて、正確に何を言っているのか説明するのが良いのだが、残念なことにそれが時には退屈となり、かえって理解しようという気持をそぐ場合がある。

    ここでは言葉でなるべく分かりやすく説明しようと試みているが、果たして理解されるのか?と言っても何もそんなに難しいことを述べるわけではなく、 読んだ後に、また疑問がでてきて、より一層調べてみたいという気持がわいて来ることを期待するというのが、私の希望である。またあまり簡単に納得しないで、そしてまた深刻にならずに、疑問があればそれをじっくりと自分の中で発酵させるのも良いかもしれない。

    一部書いてみて、改めて思ったことは、宇宙物理には、時間という流れがあり、それぞれの天体にはストーリーがあると言うことである。これは通常の物理の理論とは異なる点だ。また数学でも別にその中に時間発展のストーリーがあるわけではない。素粒子論や、固体物理、物性物理でも特にそこにストーリーがあるわけではない。

    その点で言えば、地球物理など、ある面で言えば、地球の進化、岩石の起源、地形の変化、大陸移動等歴史がある。考古学なども当然、これは歴史のかたまりである。その辺りを、視点におき、読んでもらえれば、また眺めれば、面白いかも知れない。

  • 宇宙の大きさ

    宇宙の大きさを話せるようになってまだ百年も経たない。1929年にハッブルが宇宙が膨張していることを発見した。それは遠方の銀河ほど速く遠ざかっているというもので、その速度をV、銀河までの距離をRとすると、V=HRという関係がある。これをハッブルの法則といっている。この膨張を時間を逆にたどれば、収縮して宇宙は密度が無限大になってしまう。それがいつ頃かと言えば、距離Rを速度Vで割れば(R/V=1/H=T)、始まりの時間Tが推定できる。だいたい130億年前 に大爆発によって宇宙が始まった。それに光の速さをかけると、現在観測できる宇宙の大きさがでてくる。

    しかし、まだ観測にかからない領域があるはずで、それを推測すると、恐らく現在の観測されている宇宙の何十万倍以上はあるはずだ。いやもっと桁外れに大きい可能性さえある。今言った何十万倍というのは、宇宙の初期の揺らぎが、平坦さからのずれとして、例えば密度の揺らぎが十万分の1ぐらいだから、それを言ったまでのことである。つまり、現在観測されている宇宙の大きさのスケールで、その平均からの密度の揺らぎもその程度だから、まあ現在の大きさの十万倍ぐらい大きな領域まで、似たり寄ったりの揺らぎだろうという推測だから、たいしたことではない。 しかしこの密度揺らぎが大きくなったりすると、そこでの重力が大きくなって、そこの領域では、膨張できずに収縮に転ずる。現在あちこちに収縮に転じている宇宙があってもおかしくない。しかしそんなところは、我々の観測できる宇宙のも何十万倍も遠方の遥か彼方であろう。

  • 宇宙の ”はて ”

    宇宙には ”はて ”が有るのか?つまりここまでが宇宙でここからさきは宇宙でないような境界があるのかと言う問題だが、結論からいうと宇宙には ”はて ”はない。それなら宇宙は無限かというと、そうとも限らない。つまり有限でも境界がない場合がある。一次元でいうと、円は何処まで行っても ”はて ”がない。2次元で言えば球の表面は有限だが ”はて ”はない。3次元でもそういうものがあるだろう。つまり4次元空間の中に埋め込まれた3次元的な球面を考えれば良い。このようなものを2次元でないのに面と言うのも変だから超曲面といっている。

    ついでにいうと4次元空間の中にある3次元的な超曲面を頭の中で直感的に思い描けるのかというと、まあ描けないだろう。少なくとも私には描けないし、描けると言っている研究者を私は知らない。

    我々の空間は空間的に4次元の世界から見たら3次元的な閉じた超曲面かも知れない。しかし今のところ閉じているのか、つまり有限なのか、開いているのか、つまり無限なのかは検証されていない。観測的には、つまり観測されている100億光年の範囲ではかなり平坦に近いと分かっている。理論的にはあと何千兆年待って観測しても決着がつかないくらい平坦に近いであろうと予測されている。

  • 星までの距離 パーセック

    太陽迄の距離を、人はどうして知ったのだろうか?一年で一回その軌道を回転するから、軌道を2パイで割れば良い。しかしでは地球の速さをどうやって測るのか?これは遠方の星から来る光が傾いているからその傾きの角度を測れば良い。丁度雨が降っているときに、傘を傾けるように、地球が運動しているから遠方からやってくる光はその方向ではなく地球の運動方向の影響を受ける。これを光行差という。半年後には地球は逆向きに走っているから、測定をかなり正確にすれば、一応地球の速さを知ることができる。勿論この時角度は何に対しての角度かという問題が生ずるが、真上の星や、例えば45度進行方向へ傾いた星の角度、また後方へ傾いた星等種々の星の角度を秒単位まで正確に測っておけば良い。

    そして、光の速さであるが、それには光を反射する鏡を遠方におき、手前に円盤を回転させる。ただし円盤の端に丸い穴を等間隔に多数あけておく。光をこの丸い穴を通して発射して、鏡に反射され戻ってくるそのときにまた次の穴にまで円盤が回転しておれば、光は見えることになる。鏡迄の距離を十分長く取り、かつ円盤を速く回転させることにより、光の速さを測定出来る。

    以上が前置きで、現在光の速さは毎秒30万キロメートルや太陽からの光は500秒へて地球にまで届くということを知っている。これより地球と太陽の距離が1.5x10の13乗 cmと言うことも分かっている。これより三角測量の要領で近い星の距離が測定できる。その星の角度を測り、そして半年後にもやはり測れば良いわけだ。その角度が2秒違っている遠さを、天文学では1パーセックと呼んでいる。1パーセックは3.26光年で約3x10の18乗cmである。

    ついでに言っておくと、夜空で見える星の大部分は数百光年の距離の比較的近い星である。また銀河系の中では星の間の平均間隔はおよそ1パーセックである。銀河系の直径は約10万光年、厚みは数千光年、星の数は1千億個と言われている。

  • 地球の元素

    当たり前何かも知れないが、この目の前にあるというより我々の体を構成しているすべての物質は、星の中で核反応により作られた。炭素、酸素、窒素、その他ありとあらゆる元素はすべて星の中で、何千万度という高温の中で、元素同士がぶつかって、重い元素へと変換して作られたのである。ほとんど唯一と言って良い水素以外はすべて核反応で作られたのだ。つまり我々はすべて星の子供なのだ。だからかもしれない、我々が何かしら宇宙にあこがれるのは、先祖返りを無意識のうちに試みているのかも知れない。かって我々は宇宙の彼方を漂っていたのだ。そして星の中をかいくぐり、そして星の大爆発により、また再び宇宙空間へ放出されたのだ。 爆発するような重い星の寿命は、まあ千万年の時間のスケールであり、宇宙空間を漂っているには億年のスケールだから、まあ漂っている時間のほうが遥かに長い。放浪癖はその名残かも知れない。

  • 宇宙の曲率

    宇宙全体が曲がっているとか歪んでいるとかと言う議論ができるようになったのは、一般相対論という重力の理論のおかげである。これは物質があるとその周りの空間が歪むという理論で1915年にアインシュタインが提出し、すぐに宇宙論へ適用された。 このとき宇宙は何処から見ても同じであり、またどの方向を見ても同じであるという宇宙原理を採用している。つまり宇宙には ”端 ” とか ”はて ”はないとして、方程式を解いているのである。

    そしてこの一様等方の解(フリードマンの解)を見てみると、宇宙は膨張するが、もし宇宙が閉じているような有限な場合は、この時の空間の曲率は正であり、膨張はいつか止まり収縮に転じることになる。その他に全く歪んでいない平坦な場合(曲率ゼロ)や、また無限で開いている時(曲率は負)は、宇宙は永遠に膨張し続ける。

    空間の曲率は要は曲がっている度合いを示している。平坦な場合はゼロで、それよりも凸に曲がっている場合は正としている。これは半径が一定の体積を考え、それが平坦な場合よりも体積が少ない場合、凸に曲がっているという。

    2次元の面で言った方が分かりやすいかも知れない。ある点から一定の距離の中にある面積が、平面の場合に比べて小さければ、その面の曲率は正であり、凸に曲がっているという。球面がこの場合に相当する。曲率が負の場合は逆で、ある点から一定の距離にある面積が平面の場合に比べて大きいく、馬の鞍型の曲面がそれに相当する。

    いずれにしても、一般相対論はこの空間が、中にある物質によって歪んだりする、物理的(?)な対象であることを指摘し、また実際太陽の周りでの光線の曲りなどを予言し、また日食の時の太陽の回りの星の位置と、そうでない時の星の位置の違いからそれは検証された。

  • 宇宙の法則 1

    宇宙の膨張、収縮など非常に大きな系のダイナミックスを記述する理論は、一般相対論であるが、この宇宙に存在するミクロな粒子の性質を記述する理論はは素粒子論である。この両者は全く独立に発展して来たが、ここ20年ほど前からしきりと共通の事柄を取り扱うがことが多くなってきた。

    一般相対論で記述される宇宙論は、宇宙初期の高エネルギーの時、いや宇宙発生の時期、そしてその物理過程へと関心が移行してきた。一方、素粒子理論はもはや地上の加速器によるエネルギーでは検証出来そうにない高エネルギーへと関心が移ってきた。つまりその理論の検証は宇宙初期の高エネルギーでしか検証出来なくなってしまった。そしてエネルギーが高くなるといろいろな相互作用が一つになるという理論が出てきた。これが統一理論である。

    いや物理法則をすべて統一的な見方から統合しようという気運はもっと以前からあった。 アインシュタインは重力と電磁気力をなんとか統一しようと、後半生をそれに捧げた。しかし当時(1960年頃迄)は余りそれに関心を向ける人はいなかった。むしろ加速器でエネルギーを上げると、新粒子が次から次へと見つかり、その分類やその相互作用に皆関心を奪われていた。

    ところが、1960年代後半にそれまで独立と思われていた、弱い相互作用(原子核が崩壊する時に働く力)と電磁気力がじつは同じ法則であると言うことがわかり(電弱相互作用という)、それ以来すべての力を統一的に理解しようという統一理論が大流行している。まだ完全には成功していないが、ほぼ電弱相互作用と強い相互作用は統一的に理解されつつある。これを通常”大統一理論 ”(GUT(ガットという):Grand Unified Theory)という.これ等はゲージ理論として考え方にかなり共通の性質がある。

    それに対して、重力の理論はかなり異なっている。しかしそれもある面ではゲージ理論であり、統一的に記述しようと、超弦理論やM理論が今や盛んに議論されている。 しかしそれらはまだ予言できるものは特になくまだ成功していない。

  • 宇宙の階層構造

    宇宙には色々な天体がある。その大きななものから小さなものへと分類してそれを宇宙の階層構造と言っている。宇宙論で典型的な天体といえば銀河であり、これは太陽が大体1千億近く集まって、大きさは直径で約十万光年である。その銀河が数百個集まっているのが、銀河団といわれ、これが宇宙の中でまあ最も大きな天体で、直径で数百万光年程の広がりを持っている。銀河が数十個集まっているのが銀河群といわれ、我々の銀河も銀河が大体十個程集まっている局所銀河系の一員である。

    銀河より小さな天体では、銀河の質量が1/10以下のものを通常 矮(わい)小銀河(dwarf galaxy )と呼んでいる。一方、星が数十万個から一万個(?)位集まって、半径数十光年程の天体を球状星団と読んでいる。

    これ等の天体は、まあ質量でいえば、ほぼ連続的に存在しているが、個数X各質量でいうとやはり銀河が突出しているといわれている。それぞれがどうして出来たのかについては、定説はあるが、必ずしもすべてが分かっているわけではない。

  • 銀河の質量

    天体の形成は、宇宙初期の揺らぎが成長して大きくなり非線形になって重力的に収縮して決まると思われていた。基本的にはそうであるが、集まる物質はダークマター(Dark Matter)といわれ、それ自身は光らない。このダークマターが光る物質より多く、その数十倍はあると言われている。それが小さなものから大きなものまでの重力的なポテンシャルの井戸を形成して、光る物質はその井戸へ集まってそこで星を作り、井戸が光ると言うわけである。そのダークマターの井戸はお互い重力的に相互作用して、クラスタリング(Clustering)と言ってだんだん小さなものから大きなものが形成されている。光っている天体はどちらかというと、この井戸のなかの中心にあって、井戸の広がりはあまり忠実には表していない。

    ではなぜ現在銀河に一番質量が集まっているのかと言えば、丁度宇宙がそういう状態であるというのが、現在の宇宙物理の見方からする説明である。実際はるか昔はそう宇宙の年齢が現在の十分の一ぐらいの時は、矮小銀河の数もずっと多く、個数X(かける)各質量では、矮小銀河の時代であった。恐らく今後は、重い銀河の時代へと移行していくものと考えられる。つまり小さな井戸はどんどん大きな井戸へと吸収合併されていく。

    ただし、現在宇宙は以前に比べ膨張が加速されつつあると言われているから、このクラスタリングが膨張の途中でほぼ凍結されるということもありうる。現在の銀河団はもうこれ以上クラスタリングし無いいかもしれない。

  • 宇宙の温度

    宇宙には温度がある。別に現在、宇宙を構成している物質が熱平衡にあると言っているわけではない。ただし宇宙初期には物質はもっと密度が高く、その時代は熱平衡であった。何処もが高温のガスの時代があったのだ。もっと初期にさかのぼれば非常に高温で10の30乗度の時代があったと考えられている。それはまさに現在知られている物理法則を究極的にさかのぼらせるとそこいらまではなんとか理論で推測出来るという温度である。逆に言うとそれ以上高温の宇宙の時代があるかどうか、現在の物理の理論では何とも言えないと言うわけだ。

    その限界という時代をプランクの時代という。重力を量子化しなければならないのだが、重力の量子化に成功した理論はまだない。 逆にいうと、その時代は、時間空間が混沌としていて一体重力という力があるのかどうかも良く分かっていない時代である。そこから急激に膨張しはじめて現在いうところのビッグバン宇宙論が始まるわけである。

    その始まりを認めれば、物理理論は強力である。勿論子細(しさい)は必ずしもすべて分かっているわけではないが、かなりの確さで宇宙の歴史を語ることができる。膨張するにつれ宇宙の温度は下がり、大体3千度以下になると、光と物質の相互作用が切れて、つまり分かりやすくいうと、光は物にあたらずにまっすぐ宇宙を突き進むことができるようになる。それから宇宙はおよそ千倍膨張し、そのときの光のスペクトルが3千度であったものが、各波長が千倍になったので、温度になおすと千分の一の3度(ただし絶対温度)のスペクトルを現在宇宙からやってくる光は示している。しかしこれだけ波長が長くなると、光とは言わずに電波といい、最も多い波長はおよそ3ミリメートルである。

    それで、普通、宇宙の温度は3Kと言っている。(Kは絶対温度で測ったときの温度を示す) つまり、宇宙の温度と言っても、現在の熱平衡を言っているわけではない。かって熱平衡であった時代の痕跡がある、という程度の意味での温度である。

    3Kであると分かったのは1965年のことで、Penjyas & Wilson が発見した。 ついでに言えば、10年ほど前に、フランスで開かれた国際会議のバンケでWilson氏の隣に座ることとなり、その発見が偶然なのかどうか直接本人に尋ねた。というのは当時、彼等は人工衛星との通信のために宇宙の雑音がどれだけあるのか、それを調べていて偶然に、宇宙から来る電波を発見したという話が伝わっていたからである。彼は”私は宇宙物理の研究者であり、宇宙から何か来ているだろうとそれを探していたのだ”と語っていた。

  • 背景放射の揺らぎ

    この宇宙の温度は興味深いもので、全くどの方向を見ても同じ温度であるスペクトルがやってきている。しかし現在の宇宙は銀河団がありボイドがありという、複雑な構造がある。つまり宇宙初期の温度にもこの揺らぎに相当する温度の揺らぎがあるはずで、それを、3Kの発見後、電波天文学者は必死に探した。

    そして1992年にCOBE衛星がそれを発見した。温度揺らぎにして3Kの10万分の一というわずかなものだった。これはバリオンだけではこんな小さな揺らぎからは天体が形成されないという意味で、ダークマターの強力な検証である。ただしダークマターが何かであるかはまだ分かっていない。

  • 宇宙の静止系

    面白いことに、背景放射の温度揺らぎに、もっと大きな(双極子場の形の)揺らぎが存在した。それは、一様の温度の光のスペクトルの中を、地球が突き進むと起こるであろう形(双極子場)であったので、その解釈は地球が運動しているからという解釈になっている。それによると、地球と言うか我が太陽系は宇宙空間を毎秒約400Km/sで走っていることになる。

    逆に言うと、この宇宙には3Kの放射場に対して静止している系があるわけである。つまりガリレオ以来の相対性原理が崩れたわけで、どの慣性系も同等であり特別の慣性系は存在しないとされていたのだが、宇宙には特別の慣性系が存在したのだ。背景放射場に対して静止している系が。

    (注:双極子場とは、天球(空)の上で、一方向 (例えば北極の方)が明るくて、その反対方向(南極の方)が暗いような場合を言う。今の例でいうと、静止していれば、全天同じ明るさであるが、北の方へ運動していると、ドップラー効果で、進んでいる方向(北の方向)が、明るくなり、その反対方向(南の方向)が暗くなる)

  • アルフア-ベータ-ガンマ理論

    宇宙の元素の起源を、宇宙の膨張初期の高温、高密度の時代の核反応によると指摘した理論。ガモフ(著名な原子核物理学者:一般の人への解説書の著者としても有名:ガモフ全集がある)が(当時若手の)アルフアとした仕事で、語呂が良いというのでベーテ(当時既に有名であった原子核物理学者)を、著者の一人に付け加えたと言われている。彼等は宇宙初期には物質はすべて中性子から成り立っているとして、その反応から、すべての元素、炭素、から、鉄、ウラン等が、宇宙初期に形成されたと主張した。

    その後の、詳しい計算によると、軽い元素(重水素、ヘリウム、リチウム、ベリリウム等)は、確に宇宙初期に形成されたが、炭素、以上の重い元素(酸素、窒素等)は、星の中でゆっくりと核反応で形成されたことが分かっている。ただしこれも、鉄までの元素で、それ以上重い元素は(ウラン、プルトニウム等)、超新星の爆発時に形成されて、他の元素と共に星間空間へ放出された。この地球上にあるほとんどの物質は星の中、もしくは爆発時に形成されたことになる。

  • パルサー

    中性子星が回転して、パルス状に電波を発信していたためパルサーと呼ばれるようになった。回転周期は10ミリ秒から1秒位のものまであり、現在までおよそ1000個以上見つかっている。質量は大体太陽質量くらいであり、半径はおよそ10キロメートルという。これは巨大な原子核であり、考えようによっては大変な天体であり、こんな巨大なものが、一秒の間に100回も回転しているというのは異様である。

    異様と言えば、密度であるが、原子核の密度という訳で大体水の密度の10の15乗倍以上の密度である。

    これは太陽質量の10倍以上の質量の星が、進化して中心部分が核反応で鉄のコアを形成し、鉄はもうそれ以上核反応で熱を放出することが出来ないので、どんどん収縮して、そして重力で押し潰されて、(超新星爆発時の中心で)収縮し、原子核の密度でやっと重力に押し勝つ圧力が得られてそれで釣り合っているのである。この圧力のもとは中性子の縮退圧であるが、これは量子力学的な起源のもので、フエルミ粒子(中性子等スピンが1/2の粒子)が一つの状態に一個以上はいれないことによる。

    もう少し重いと、その圧力でも不十分で押し潰されてブラックホールになってしまう。

    ついでに言えば、白色矮星では、中心は電子の縮退圧で支えられる。その密度は水のおよそ一億倍である。

  • ブラックホール

    これは重力が強すぎて光でもそこから出てこれないという天体である。太陽質量だと半径が3キロメートル以下になると、ブラックホールになる。超新星爆発時の中心のコアの質量が大きいと、中心にブラックホールが形成される。いくつかの天体がその候補に上げられている。その周りは強い重力場なので、降ってきたガスは高温になり、X線を出し、X線星として観測される。(中心が中性子星の場合もそうなるから注意が必要)

  • QSO(クエーサー):(Quasi-Stellar-Object 準恒星状天体)

    多くの銀河の中心には、質量が太陽質量の100万倍以上のブラックホールがあると言われている。そこにガスが多く降り積もっている場合は、そこから大量のエネルギー(ガスがそこまで落ちて行くのでそのポテンシャルエネルギー)が放出され、中心部分のわずかな(と言っても太陽系ぐらいからもっと大きい)領域が光輝いている。変光が大体数時間から、数百日であるから、光っている領域が推定できる。

    一般にはこのように明るい天体は稀で、非常に遠方にあり、一見星のように光っている。しかし乾板などで、良く見ると周りがボーッとしていて銀河であることが分かる。遠いものは、zが5以上のものがある。zは大体天体の遠さ(もしくは宇宙の初期)を示し、宇宙が現在の1/(1+z)の大きさを表す。つまりz=5なら、宇宙が現在の1/6の時の、時代を示している。距離で言えば百数十億光年彼方である。

  • M 理論 今流行りの理論であるが、難しくて(と言うか余り勉強していない:いややっぱり難しいのだろう)良く知らない。ただ素粒子は点ではなくて紐(ひも:弦)であるという、超弦理論の向うに見えてきた理論で、簡単に言ってしまえば、素粒子は面(membrane) であり、その断面をとると紐に見えていたということのようである。MはMAGICとも、MISTERIOUSとも、何を意味するか定かではないそうであるが、やはり面(membrane)を意味するようである。超弦理論が10次元で考察されていたのが、一次元増やして11次元にしたら色々と上手く行くという。いずれにしても素粒子の相互作用から、重力の力まで統一的に記述しようという理論であるが、確に重力子は出てくるようではあるが、一般相対論の時空全体の幾何学を構築する構想力を、説明するまでには、まだ至っていないようである。

  • 以下は必ずしも宇宙物理入門の項目では無いもの。

  • 湯川秀樹

    日本人初のノーベル賞受賞者。原子核を結びつけている核力は、中間子を媒介していることにより起因するとして、中間子の存在を予言。宇宙線の中に見つかった。 戦後、PROGRESS OF THEORETICAL PHYSICS という理論物理の学術雑誌を創刊。現在も日本の代表的な理論物理の雑誌である。

    戦後の日本の素粒子物理を、朝永振一郎と共に指導した。ただし湯川がその後半生を注いだ局所場理論は、必ずしも実を結んだとは言いがたい。

    常に、新しい理論を目指していた、彼が主催する集まりは混沌会と呼ばれていた。

    次に述べる林忠四郎は、湯川秀樹の助教授をしていたが、彼の勧めもあってか宇宙物理へ興味の対象を変えた。

  • 林 忠四郎

    天文学でのノーベル賞といわれる、EDDINGTON 賞の受賞者。星の形成時にHAYASI PHASE といわれる時代があることを指摘した。それはガスの収縮時代に星の表面の明るさとその温度の関係を、流体力学の境界条件から、導いたもので、H - R 図の上で星が存在しない領域があることも指摘している。

    (H - R 図: 星の分類に使われる代表グラフで、横軸に星の表面温度、縦軸に星の明るさ(光度)をとる。ほとんどの星は主系列と言われるほぼ直線上の領域に並ぶ。)

    本当の学者。

  • 天体核研究室

    京都大学理学部の物理学教室で、宇宙物理を主に理論的に研究している教室。林忠四郎が教授をし、その後佐藤文隆が引き継いだ。多数の研究者を排出してきている。

    この研究室の特徴は、特に林が教授をしていた頃は、コロッキュウムと称したゼミというか、拷問会が開かれることである。つまり、発表者は自分の発言に対して、徹底的にその意味を問い詰められることである。一般には、論文の紹介であるが、その論文の問題意識から、全体の中での論文の位置づけ、そして何をその論文は行ったのか、伝えようとしているのか、果たして意味のあることなのか、ウンヌンを問い詰められるのである。当然式の展開はチェックしていなければならず、引用してある論文にも眼を通していなければならず、ここでの禁句は、知りません、分かりません、やっていませんである。つまり出てきた概念、観測事実、論理すべてに発表者は責任を負い、かつそれがどの程度の論文であるかの、視点を見定めていなければならない。

    言うは易く、行いは難かしく、自分がその担当になる週は、もう必死に調べるのだが発表はいつも討ち死にに近く、終わる頃にはずたずたに引き裂かれてしまう。忠四郎は手を変え品を変え、問いを繰り出す。なかなかそれに的確に答えるのが難しい。

  • 佐藤文隆

    林に頼りにされ、答えた秀才。しかしなかなか秀才には見えないところがすごく、しかし仕事はしっかりとしている。講演はかなり面白く、いつも爆笑もので、そして考えさせられる。

  • アインシュタイン

    この人とは会ったこともないが、人生を生きる上に置いて、この人のような生き方をしたいと青春時代思い描いた人。とても当時生意気な私でもそれはかなわぬ夢とは分かってはいたが、夢を一時期もたせてくれた人。そして今でも生活の上で恩になっている人。

    20世紀を代表する人として、タイムに掲載されていたが、勿論異を唱える人もいるかも知れないが、まあ妥当な意見ではないかと思う。物理学者として卓越な仕事をした人として知られる。相対論は彼が創出した、20世紀が他の世紀に十分誇れる、理論である。相対論と言っても、特殊相対論と、一般相対論がある。

    特殊相対論の方は、電磁気学の理論であり、電磁波の速さはどの慣性系でも光速Cでり、一定とする、光速不変の原理と、すべての慣性系では、方程式は同じという、相対性原理からなる。しかし、この簡単な原理から導かれる、物理的な内容は、それまでの常識を覆(くつがえ)すものであった。時間の経過はその座標系に依存するというもので、双子でも、片方が光速に近い速さで、他の星に行き、そしてかえって来ると、その移動した方が、若いと言う結論が得られる。これが有名な双子のパラドックスと言われているものである。その意味で、時間空間とは何かをまず問うて、そしてそれに解答を与えた。これにより、光が伝播するに,媒質であるエーテルなど要らないことが明白になった。

    一方、一般相対論は、等価原理と、一般相対性原理よりなる。慣性質量と重力質量の比がどの物質でも同じであるというのが、等価原理であるが、むしろエレベーターが自由落下している時、中では無重力であり、その中の人にとっては自由落下しているのか、宇宙空間に漂っているのか、区別できない。そのことを表した原理といった方が分かりやすいかも知れない。つまり、重力はそこの場所が、加速系であり、適当な加速系へ変換すると、重力は消える。逆にいうと、地球の上の我々は加速系にいるわけで、それは地球という物質が空間を歪ませ、その歪みからそこが加速系ということになる。

    また、一般相対性原理は、如何なる座標系でも(慣性系のみならず、加速している系でも)、物理法則は同じ方程式(テンソル形式)で書き表せるという原理である。これより、加速していない系で物理法則を表し、それを加速系に変換してやれば、重力場場での、法則が得られる。

  • 荷電粒子からの放射

    加速を受けている粒子からの電磁波の放射は、物理の問題の中でもまあ最も基本的な問題だろう。しかしそれが難しい。重力場のなかを落下している荷電粒子が果たして電磁波を放出するのか?等価原理と矛盾しないのか?それが問題だ。 もう少し詳しく述べると、 慣性系で定義された電磁波の定義を、一様加速する荷電粒子に適用すると、 荷電粒子は電磁波を放出している。これは荷電粒子の周りの遅延ポテンシャルから 電磁テンソルをつくり、それよりエネルギー運動量テンソルを求めて、その0i成分 (i=1,2,3)が通常の ポインティングベクトルになっているため、それよりフラックスを計算すれば良い。これより Larmorの公式(電磁波の放出率の式)が導出される。  

    一方荷電粒子とともに、一様加速している観測者が観測すると、この荷電粒子は電磁波を放出して いない。これは一様加速している観測者にとって、荷電粒子は静止しており、物理的にも受け入れられる。 また等価原理より、一様加速している系は、一様重力場に等しく、重力場中で静止している荷電粒子は 電磁波を放出していない。つまり電磁波の定義が観測者による訳である。より詳しくは、一様加速系での エネルギー運動量テンソルの0i成分を考察すれば良いことになり、それはゼロである。 つまり、電磁波が出ているかどうかは、観測者によるわけで、荷電粒子と一緒に加速運動している観測者には電磁波は出ていないことになる。これが不思議では無いのだろうか?

  • チャンドラセカール

    10年に一冊のペースで、ある特定の分野の世界的な教科書を書いてる。

    Radiative Transfer

    Stellar Structure

    Ellipsoidal Figure

    Mathematical aspect of Kerr Metric

    どの教科書も、かなりな高いレベルでの記述にいたり、当然独創的な仕事が含まれ、 出版されると、それが世界的な標準となっている。また過去の人の詳しい索引がついている。

    驚くのは、戦前から戦後にかけて10数年アメリカの天文学の最高、そして現在世界の最高の雑誌であるAstrophysical Jounal の編集長を続け、しかもレフエリーもやっていたと言うことである。公式のレフエリーが一人であるが、もう一人は彼であったのだ。

    当時は、仕事を家に持ち帰り、食事中でも奥さんとも話をしないと言うほど、論文から眼を話さなかったという。

    私がこの人生の中で、出会った、最も誠実な人。能力が高い人。謙虚で、とてもかないそうにない人。こういう人がいるものだと感心してしまう。出来るならこういう人になりたいと思っても、とてもで來ない。聖人に近い人。

    若い頃はケンブリッジで、Eddingtonに徹底的にいじめられたと物の本に書いてあったが、何故だろう?

    実際にあったのは、数時間、2回だけである。しかし印象は強烈である。 彼が日本へやってきたとき、これは佐藤さんが是非彼を日本へ招待したいと斡旋の労をとられたおかげであるが、京都で彼を観光にねぎらう役目がM氏に仰せ付かった。彼は車を持っている私に話をかけ、苔寺を案内することになった。彼と奥さんをつれて、苔寺へ行き、住職の説明を聞き(勿論日本語であったがM氏が通訳を勤めたのか、私もその前年ケンブリッジへ行っていたので、今よりは英語も分かり、ある程度は話をしてもそれほど違和感はなかったと思う。

    実は、その帰りもう一件どの寺だか忘れてしまったのが、悔やまれるが、それとも苔寺の中の庭園だったのか、彼と二人切りになる機会があり、ケンブリッジは如何でしたかと彼に尋ねられ、言わずもがな、何故あんなことを言ってしまったのか、”depressed" (意気消沈した)と言うことを言ってしまった。当たり障りのないことを彼の前では言えなかったのかも知れない。本心だった。いや面白いことも多かったし、本当に親切にしてくれた人もいたし、ホームパーテイへ誘ってくれた人もいたし、今から考えれば本当に皆良く接してくれたのに、何かやはり緊張していたのか、全体としては何か圧迫感を感じていた。それを口に出してしまった。

    彼は、私にあなたのやっている銀河形成、宇宙の大規模形成は今皆がやっているテーマであり、競争が激しくそう感じたのだろうと慰めてくれた。

    何故こんなことを書いているのかと言えば、実はその後何年も経ってから知ったのであるが、彼はEddingtonに、やはり相当きつくいじめられたという記事を読んだからである。Eddingtonと言えば当時、ケンブリッジの大御所であり、彼に公衆の面前でかなり激しくなじられたというのである。Eddingtonも大人げないが、そういうことがあったという文章があるぐらいだから、かなり周りの人も驚いたのだろう。Chandrasekharはケンブリッジにいられなくなり、それからアメリカへ渡ったという。

    確に、日本でも、いやしかしそんなことはまず稀で、私は一度しか直接には見聞していない。

    Eddington は Chandrasekhar の偉大(若くて生意気だったのかも知れない)さに、カチンと来ていたのかも知れない。これは自らを頼む若者としては当然の振る舞いだったはずである。そこが面白い。

    Chandrasekharはその年の秋に、ノーベル賞を受賞した。早速お祝いの手紙を出したところ、本当にすぐに返事が来た。あの手紙は大切にしまっていたのだが、一体今は何処にあるのだろう?ただそのとき彼と一緒に写した写真は私の部屋にずっと飾ってある。しかしそれに気付く学生は誰もいない。

    Chandrasekahar の愛称である Chandra の名前がついたエックス線衛星が今は地球の周りを回っており、宇宙の彼方の神秘を紐解いている。彼は同僚達にも深く愛されていたのだろう。冥福を心から祈る。

  • 生命の誕生 20世紀は物理の世紀、21世紀は生物の世紀と言われるなら、一体どれほどの事が生物について、既に分かっているのか、まずしっかりと理解しておかなければ不味い。 いろいろ分子生物の本を読んだが、、まずDNAの3個によるアミノ酸の特定、PCR法(ポリメラーゼチェインリアクション)、ミトコンデリアの遺伝、チンパンジーとの違い、印象に残ったことは多い。というか知らないことばかりであったが、なんとなく遺伝子の操作が分かってきたような気がする。 ヒトゲノム計画もほとんど終盤に近づいてきたようでこれからが楽しみではある。 遺伝子に起因する病気がこれから次々に明らかにされるということは確に朗報である。 遺伝子から見た人種の違いが、そして生物の違いが、進化が明らかになってくるのは全く興味深い。まさに現在は生物学の革命の時代。
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    Last modified: Mon Dec 24 19:16:08 JST 2007