京都産業大学 ORC Discussion Paper シリーズ
中国農業近代化への試練
久力 文夫
要 約
中国の農業問題は経済成長の陰に隠れて、その危機がいっそう深刻化している。人民公社という農業ユートピアは、必ずしも中国農民の生活理想を実現し得なかった。社会主義市場経済への方向転換は、人びとの経済動機を活気づけ、新たな経済システムの構築へ向かって社会全体を動かしている。農民の経済的利潤追求に対する動機づけの全面的開放は、自らの責任で危険負担をする企業者的農民を生み出している。
しかし、彼らのよって立つ経済社会環境は、彼らが自立的に活動する基礎的諸条件を十分に整えているわけではない。経済活動を支える各種インフラストラクチャー、農民の資質を高める教育機会、小農的経済社会環境から企業的農業に転換するための経営諸条件、多くの改善を求められる環境問題、地域によって偏在する諸資源など、多くの課題を抱えている。
いわゆる三農問題が、今世紀の中国では最大の社会的課題として残されている。貧困からの開放と経済的地域格差の解消は、いまだ実現していない。果たしてこの問題を解決することはできるのだろうか。環境諸条件との調和を図りながら解決策を求める過程は、困難を極めている。