京都産業大学 ORC Discussion Paper シリーズ
Rent-Seeking を伴う長期成長の可能性と経済政策効果
岑 智偉
要 約
最近の中国において、不況でありながら高い経済成長率を実現しているという不思議な経済現象が起きている。その背景には、中国政府による赤字財政政策が展開され、国有企業による固定資産投資が増えているという事実があった。しかし、これらの国有企業に対し、国の富或は生産資源が侵食されているという批判があり、国有企業の資産の「私有化」と債務の「公有化」が同時に起きていると指摘とされている。もし、これらの指摘が事実であれば、中国の国有企業によるRent-Seeking活動が実際に行われていることを意味する。つまり、経済活動に使われるべき生産資源が市場以外の方法(Rent-Seeking)によって経済活動の以外の目的に流用されるため、生産資源配分の歪みがもたられれると考えられる。
論文は以上の中国経済を現実的な背景とし、 Rent-Seeking 問題を考慮に入れた場合の長期成長の可能性と補助金や公共支出の長期成長に対する効果について、内生的成長論と公共経済学という枠組みで分析を行っている。国有企業が Rent-Seeking を行うと仮定することで、以下のインプリケーションが得られている。第一に、 Rent-Seekingがあった場合、国有企業に対する補助金政策が実施されるときの補助率はRentの存在によって、過少になる可能性がある。もし補助率を大きくすれば、その一部分がRent-Seeking活動のための資金となるため、実行された補助金政策は、効果が小さく有効的なものとは言い難い。第二に、Rent-Seekingがあった場合、国有企業による投資や生産活動の資本に対する収益率がRentのない場合より低く、長期成長率は低くなる。しかし、前述のように、もし政策的にさらに多くの生産資源を国有企業に与えるならば、更なる資源配分の非効率性をもたらし、長期成長率を低くさせる可能性がある。