京都産業大学 ORC Discussion Paper シリーズ
直接投資とリカード貿易モデル―小島理論について―
寺町 信雄 林原 正之
要 約
直接投資に関する「小島理論」(小島仮説とか小島命題ともいわれる)は、この分野を研究する日本の研究者には周知のものである。直接投資が貿易に与える効果を考慮して、直接投資を「順貿易志向型」と「逆貿易志向型」の二つのタイプに区分する。小島教授は理論的な分析を踏まえて投資国は前者の直接投資を実施するのが望ましいという「小島理論」を展開している。本論文は小島理論についてリカード貿易モデルを用いて明らかにすることを目的としている。すでに、リカード貿易モデルを用いて小島理論を批判した大山論文(1990)とそれのリプライをした小島論文(1990)がある。本論文は、より一般的に議論を展開すること、そして小島論文および大山論文をわれわれの枠組で整理することを行っている。
投資国Aと受入国Bがあり、A国は第1財にB国は第2財に比較優位をもち、A国のどの産業においてもB国へ企業進出することが利潤の面で有利であることを仮定し、リカード貿易モデルを展開する。その結果、(1)小島理論は、直接投資がなされたときの潜在的比較生産費という概念を導入する。そして直接投資が潜在的には可能であっても、潜在的比較生産費の値から直接投資が実現可能な産業の選別と新しい貿易の比較優位構造を連動して決定する議論を可能にしているとみる。(2)直接投資前後の比較優位は変わらないが、直接投資後で完全特化状態のままあるいは不完全特化状態になる場合、直接投資前後の比較優位が逆になり、完全特化状態のままあるいは不完全特化状態になる場合というように4つの可能性に分類し、交易条件、貿易量および厚生水準への影響について検討する。(3)以上のことより、小島理論が常に起きるわけではない。経済的な市場の論理が貫徹されるとき、場合によっては全く小島理論とは異なる方向での直接投資と貿易パターンが実現することもありうることを明らかにする。しかし順貿易志向型直接投資が望ましいとする小島理論の主張点を批判することが重要であるとはみない。直接投資の選別と新しい貿易の比較優位構造を潜在的比較生産費を通じて連動して決定するところに小島理論の核心があるとみる。
【発表:日本国際経済学会東北大学大会(2002.10)】 論文ダウンロード(PDF)