第2次徳之島洞穴調査報告書
はじめに

前回の調査を行なってから季節が一つ変わった1996年夏、我々は再び徳之島を訪れた。
徳之島はハブの生息地であり、彼らの活動が最盛期を迎える夏は、極力薮に踏み入るのはよそうということで、今回は期間を絞り、海風洞及びヨヲキ洞穴の測量をメインに行なった。
結果として、1000mオーバーを見つけるという我々の夢は裏切られ、残念ながら両洞とも短いものであった。しかし、我々はまだ夢を捨てずに、この島の調査を継続して行くつもりである。どこかに、我々を待つ長大で美しい洞窟が眠っているはずである。
ひとまずここに第2次徳之島洞穴調査報告書をまとめた。短いものではあるが、御覧頂きたい。

1996年10月
第二次徳之島洞穴調査隊


第二次徳之島洞穴調査隊隊員

隊長     鈴木 知昇  愛媛大学学術探検部 3回生 地底旅団暗黒大魔王
副長 救急  大岡 素平  地底旅団暗黒大魔王
渉外     水本 祐之  高知大学学術探検部 3回生 地底旅団暗黒大魔王
記録 編集  吉冨 泰央  京都産業大学探検部 3回生 地底旅団暗黒大魔王
装備    菊地 悟郎  高知大学学術探検部 2回生

  以上5名       


活動記録
8月22日 歴史民俗資料館の義氏に挨拶にうかがう
伊仙町役場、企画課に挨拶にうかがう
公民館にて竪穴装備チェック
午前中に全員集合し、ミーティング(おもに、竪穴レスキューについて)
海風洞最寄りの病院を確認する(キューピー病院、天城診療所)
2:00に松元哲二郎氏宅へ行き緊急時の電話使用を許可していただく
「海風洞」探検開始 2:30から薮こぎを開始し洞口までの道を設置する
4:00セット完了 
入洞開始 探検班:吉冨 大岡、洞口待機:鈴木 水本 菊地 
1ピッチ(30m弱)で洞床まで行き洞床に奥行き約3mの支洞を確認する。 セットしたピットと並んで南東の方角にもう1ピッチ同じ長さの竪穴が存在することを確 認。この竪穴の上方から光が見えたため第2洞口の存在が予想された。洞口から-10m付近 で西の方角に支洞の入り口を確認するが時間の都合で未探検。
6:10出洞

8月23日 10:00より昨日探検した部分の測量と同時に並行して地上より第2洞口を探す。 (測量班:水本 大岡 洞口探し:鈴木 吉冨 菊地)
測量の結果、第2洞口は存在せず、光は同じ洞口からのものであることが判明した。
-10m地点の横穴を探検したところ、さらに20mほどの竪穴があることを確認する。アンカ ーが少なく、ボルトも効かない。ラダーが足りなかったため水本、吉冨が宿舎までラダー を取りに行く。
15:20再入洞(洞口待機:水本 大岡、入洞者:鈴木 吉冨 菊地)。 セット開始するが、テープ、ウエス不足で中止。明日に持ち越す。
17:30出洞

8月24日 10:00より-10m地点の竪穴の探検、測量を行う。探検班:吉冨、測量班:水本 大岡、 洞口待機:鈴木、ピット上待機:菊地
洞床に5本の支洞を確認。うち1本はクラック状に下方にのびている。クラック下の下層に ディギングすれば通れそうな狭い支洞を2カ所確認する。
18:00出洞

8月25日 10:00より、昨日確認した狭い穴の探検に行く。
(洞口待機:水本、第2ピット上待機:吉冨、探検班:鈴木 大岡 菊地)
狭い2つの穴は数mで終わっていた。
16:10 出洞 「海風洞」探検測量終了。

8月26日 モリグマ氏に小島の新しい穴を案内していただくが、薮が深いためはっきりした場所は確 認できず。
その後、装備洗い。
8月27日 幸山建設さんに目手久の穴を案内していただくが、目手久の穴に詳しい重村源二郎氏によ ると、この穴はすでに九州大学探検部による調査が行われている「西目手久畑の穴」であ ることがわかる。さらに重村氏により未調査の「瓶穴(カムアブ)」を教えていただく。 10:00頃より「瓶穴(カムアブ)」の探検測量を行う。
カムアブの近くの穴を教えていただくが、洞口確認の結果岩の割れ目であることを確認。
8月28日 10:00より春に測量が終了しなかった「ヨヲキ洞穴」の探検測量を行う。
流入している水流の奧の左側支洞が、先に測量した部分とループしていることがわかる。
15:00「ヨヲキ洞穴」探検測量終了 第2次隊調査終了とする。


第1章 洞窟調査報告

調査概要

 徳之島の新洞調査の一番の問題はハブの危険である。夏はハブが最も活発に活動する時期であるので、危険を最小限に押さえるため無理な薮こきはおこなわず、第一次隊で洞口がわかっているが、探検測量の終了していない穴に焦点を絞って調査をおこなった。
 具体的には、前回は洞口から吹いてくる風しか確認できなかった海風洞(ウンカズ洞)、最奧の探検の終了していないヨヲキ洞穴、重村氏に教えていただいた瓶穴(カムアブ)の探検、測量をおこなった。
 測量結果、海風洞は-28.8mの竪穴で、今の所、徳之島で2番目に深い竪穴ということになる。豊富な水量で期待をしていたヨヲキ洞穴は、総延長266.5mであった。
 今回も満足のいく結果は得られなかったが、まだ十分調査したとは言えず、次回、ハブの危険の少ない冬に本格的な薮こきをおこなうつもりなので、次回の調査に期待をつなげたい。
前回の第一次徳之島洞穴調査で測量した「ヨンマイ洞」の測図が完成したので載せた。
今回の測量はいずれの洞窟についても簡易コンパス測量法を用いた。

 

測量図について
測線の精度、洞内の記載のレベルは、B.C.R.Aの測量基線のグレードと内容のクラス分けを使用した。測図記号は以下のように記述している。
測量基線のグレード

グレード1 測定器具を用いずに表現した概念図。
グレード2 グレード1と3との中間であるようなスケッチ図をいう。
グレード3 簡易コンパス測量で水平垂直の角度は±2.5゜で、距離は±50で測定 する。基点の誤差は少なくとも±50cm以内。
グレード4 グレード5の全ての要求を満たせない場合。
グレード5 普通のコンパス測量。水平垂直の角度は正確に±1゜以内で距離は正 確に±10cm以内。基点の誤差を少なくとも10cm以内。
グレード6 コンパス測量であるがグレード5より正確精密なものを言う。
× コンパスの代わりにセオドライトを用いた測量法。

内容のクラス分け

クラスA 記載内容が全て記憶によるもの。
クラスB 通路の記載だけのもの。
クラスC 基点も記入したもの。
クラスD 記載内容が、基点と基点間の通路の大きさ、方向、形態の変化の重要 なものを記入してあるもの。


海風洞(UNKAZU-DO)
総延長: 51.2m
高低差: 32.6m
標高: 125m
水流: なし
所在地: 鹿児島県大島郡伊仙町崎原


洞内記載

 洞口は4m×3mで付近には樹や草が密集している。この洞は-28.8mの竪穴であり、ラダーをたらすと途中2、3カ所で洞壁と接触する。洞床及び、洞の途中は洞外より流入した泥でおおわれている。洞口より-7mの地点でw方向にのびる支洞があり、この入り口には二次生成物が多くみられる。約5m進むと-14mの竪穴が現れる。ラダーを途中の転石にセットすることになる。この竪穴の洞床は泥が堆積しており、4つの支洞がのびている。うち2つの支洞は連結しており、残りの2つはしばらく進むと狭くなり、進行不能となる。
 洞はさらにw方向にのびており、この竪穴を含め全体的にたてに長いトレンチ状である。竪穴の洞床よりフリーで-8m降りるとこのトレンチの底部に達し、w方向と、N56E方向の2方向に洞はのびている。N56E方向の洞はしばらく行くと非常に狭くなり、人間にはいけなくなる。w方向は8m程進むと足下に這ってしかいけないような洞が現れる。洞床は泥におおわれ、洞壁はごつごつして非常にいたい。やがてどうしてもすすめないほど狭くなる。さらにw方向の洞の途中にはS方向にのびる、これまた狭い支洞がのび、2m程行くと水たまりがみられる。春には洞口から温風が吹き出ていた。


ヨヲキ洞穴(YOWOKI-DOUKETU)
総延長: 266.5m
高低差: -
標高: 150m
水流: あり 流入型
所在地: 鹿児島県大島郡伊仙町義名山


洞内記載
 義名山運動公園の北約500mの畑の横に開口する。この洞は当地域では数少ない内陸部にある洞穴遺跡として、1985年に発掘調査された洞穴である。しかし、全洞穴の測量は行われておらず、測量図は存在しない。
北端の洞口は南東方向に幅7.6m、縦2.4mで開口しており、1つ目の洞窟は全長約54mである。洞内の中央部には水流があり、二次生成物は、つらら石が多く見られるが他の生成物はあまり見られず、乾燥している。第二洞口付近で水流は消失する。この水流は第三洞口から再び現われ継続的に奥へと流れている。第三洞口から約12.4mで高さ3m幅5mのホールがあり、ここに第四洞口が開口する。このホール中央を北東に向かって水流が流れている。この水流を50mたどった地点から、左には、このケイブシステムにしては比較的大きな支洞があり、ほぼ南東方向に伸び、途中に奥行き13m幅5mのホールがあり、その先に2本の支洞がのびる。1本は3m程上がったところでホールになって終わっており、もう1本は水のたまった細い所をくぐりながら50m程行くと高さ0.4m位の水のたまった水平天井の水路があり、その水路の奧で水はいけるが人はいけないところで終わっている。
 この洞を流れる水流の本流をたどっていくとだんだん細くなり、40m程行った所で2つに分かれており、右は水が流入しており、細くて入れない。左も水が流れていっているが5m程行くと狭くなってゴミによって遮られ、いけなくなる。この水流はおそらく義名山運動公園の森に流出しているものと思われる。

瓶穴(KAMUABU)
総延長: 11.3m
高低差: 4.8m
標高: 168m
水流: なし
所在地: 鹿児島県大島郡伊仙町目手久



洞内記載

小高い丘のてっぺんの茂みに、直径約0.7m洞口が下に向いて開いている。洞口から下をのぞき込むと約3m下に洞床が見える。洞口から洞床に降りると、直径約10mのホールになって終わっている。ホールには多数の鍾乳石がみられ、3m位の石柱が1本みられた。


ヨンマイ洞(YONMAI-DO)
総延長: 174.7m
高低差: 15m
標高: 13.5m
水流: あり(最奧部)
所在地: 鹿児島県大島郡伊仙町面縄

 重田氏のサトウキビ畑の北側に開口している。洞は、ほぼ北方向へ発達している。入洞すると約20m四方のホールとなっており、方位S8Wの支洞には人骨が見られた。また、このホール中央には狭い下層が発達しており、そのやや狭いホールにはわずかだが白いストローや石旬がある。本洞はさらに、方位N2Eの狭いパッセジを経て第二ホールに至る。このホールの北端には下方へ伸びる開口部があり、プールとなっている。第二ホールはほぼ全体にわたり、落盤で覆われており、岩が脆く、注意が必要である。今回の調査では、このホールでホラガイの化石と獣骨の化石を採集した。
第2章
資料

徳之島全洞穴リスト
我々が発見した洞も含め、1996年9月1日現在徳之島で確認されている全ての洞穴を示す。洞穴番号は次頁のプロット図に対応している。


1. フウアブ 2.  アブゴウ
3. アブゴウ。 4.  トウガブチの穴(2洞口)
5.  竜ノ口 6. 小島の暗川
7. 小島の新洞     8. 小島の竪穴
9. 海吹洞     10. 海吹洞
11. 向田洞(ニケダエ)
13. 検福ドブ穴(3洞口) 14. 銀竜洞(穴八幡)
15.1 銀河洞(イヤーゴー洞口) 15.2 第1支洞(第1洞口)
15.3 大穴洞口(上検福の大穴) 15.4 フキ洞口
16. 明神 17. 西目手久畑の穴
18. ウチニョウの穴 19. 上喜念西の穴(3洞口)
20. 権現(南の穴) 21. 上喜念小穴
22. 上喜念地下河道(魔法洞) 23. 上喜念東の穴
24. 徳和瀬第1洞 25. 徳和瀬第2洞
26. 徳和瀬第3洞 27. ヨンマイ洞
28. ユンボ穴 29. 海風洞(ウンカズドウ)
30. 上代跨洞(ウエデンマタドウ) 31. M.D.C.S.(4洞口)
32. ヨヲキ洞穴 33. コンコロ畑の穴
34.1 ウチニョウ上の穴 34.2 ウチニョウ下の穴
35 瓶穴(カムアブ)


第3章
各務報告
会計報告


支出
食費等 ¥40,025.-
(郷土料理試食費¥6,700.-円含)
レンタカー代 ¥35,460.-
ガソリン代 ¥6,815.-
入浴代 ¥5,200.-
─────────────────────────
支出合計 ¥87,500.-

@新洞調査をするにはレンタカーが便利である。
松山石油レンタカーでは軽トラックを1週間借りて35460円であった。

@風呂屋は徳之島町亀津に「朝日湯」がある。風呂屋はここ以外確認していない。
1回280円で入れる。

@食料品店は亀津にはたくさんある。伊仙町では役場の近くの「ダイマル」、西の 町はずれの「スーパー太平」が有名である。


第4章
参考文献、渉外先その他

参考文献

浦田 健作(1986) :奄美群島徳之島銀河洞ケイブシステムの形成、
J.speleol.Soc,Japan、11、34-42
鹿児島大学探検部(1980) :伊仙町義名山地区鍾乳洞調査報告書、
義 憲和(1995) :徳之島の自然、
伊仙町歴史民俗資料館編 徳之島の自然と文化、1-19
九州大学探検部(1970,72,74) :奄美群島鍾乳洞調査報告書、1-14
九州大学探検部(1979) :奄美群島徳之島の洞窟、洞人、1、(2)、2-9
九州大学探検部(1984):奄美群島徳之島の洞窟(3)、洞人、5、(3-4)、47-66
第1次徳之島洞穴調査隊(1996) : 第1次徳之島洞穴調査報告書
森 徹、大西 亮、深道 建次郎、吉岡 賢治(1980):奄美群島徳之島の洞窟(2)、洞人、2、(2)、10-15
山内 浩(1965) :愛媛大学琉球列島総合学術調査報告、12-13
吉村 和久、井倉 洋二(1981):徳之島、与論島、喜界島の洞窟、洞人、3、(1)、22-29

渉外先、連絡先等 (1996年9月1日現在)
病院 徳洲会病院
 鹿児島県大島郡徳之島町亀津7588 0997-83-1100
警察
 伊仙町駐在所 0997-86-2339
消防
 伊仙町分遣所 0997-86-3990

面縄コミュニティーセンター
管理 伊仙町東公民館
891-81 鹿児島県大島郡伊仙町面縄1984 0997-86-2374
伊仙町役場 企画課
891-82 鹿児島県大島郡伊仙町面縄1842 0997-86-3111
レンタカー
 松山石油レンタカー  0997-82-1053
沖縄ハブ研究所 098-946-6710
大島運輸 (大阪南港) 06-341-8071
山羊料理 ハンター 徳之島町母間 0997-84-1311
おわりに
謝辞
本調査には、次の方々になみなみならぬ御協力を頂いた。
伊仙町役場企画課の皆様、伊仙町東公民館 池田 正一様・徳永 光子様
義 憲和様、コーヒーショップ一騎様、重村 源次郎様、清水 盛文様、
松元 哲二郎様。
又、今回の我々の滞在中、伊仙町東公民館では選挙が行なわれたが、我々が宿舎として使用していたため多大な御迷惑をおかけしたことをここにお詫び申し上げます。